表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その魔獣使い、人類の敵につき。  作者: 有澤准
第一章 迷宮編
46/73

第四十四話 第106階層:無銘

 瓦礫の中を俺たちは移動する。


 この瓦礫の街は、大きく分けて俺たちが戦った広場のような市街地エリアと小高い丘の上にある巨大な城跡エリアに別れている。


 ここもネルの言うことが本当ならば、もう敵はいない。つまりボスエリアは存在しないはずだ。ならば、次の階層への入り口は間違いなく城跡エリアにあると言っていいだろう。


「しかし、見れば見るほどリアルな城跡だな……」


 ここはただ城っぽい感じの瓦礫というわけではなかった。歩いていると、調度品の残骸や武具の類いがそこかしこに転がっているのだ。


「死霊回廊もこんな感じだったね」


 欠けた花瓶らしきものを拾い上げてしげしげと覗き込むニナ。ひっくり返すとパラパラと乾燥した植物が落ちた。


 確かに、死霊回廊も建物や墓で構成されていた。あそこも生活感の残滓のようなものは強く感じたが、やはりあそこやここはもともと人間が生活していたのだろうか。


「ううん、それはないはず……」

「なんで?」


 ニナは花瓶を床に戻すと、俺を指差した。


「?」

「あの狼の人は、オデット様たちがユキトの事を3000年間待ち続けてたって言ってた。で、101階層はレベルを上げはじめたばかりのユキトや私でも突破できるぐらい弱かった。普通なら101階層以降なんて迷宮の中では最深部だと思う。そんな弱さはありえない……なのにここまで来れてしまった。この二つが意味することが分かる?」


 俺を3000年待ち、この迷宮に挑ませたオデット。

 そして、ここまで突破できてしまった事実。


 それから導きだされる答えは、多分一つだ。


「この迷宮自体、俺のために準備されたものだった……?」

「多分、だけどね。準備どころか101階層はゼロから作られたものなんじゃないかな。だからあの街も、ここも地上のどこかから持って来たって考えるのが妥当だろうね」

「オデットが……やったのか?」


 オデットはあんななりだがSSランクの魔獣だ。迷宮を作るなんて出来るのかは分からないが、出来なくはないのかもしれない。


 だが、それだと疑問が残る。


 なぜ彼女はニナの両親をわざわざこの迷宮に向かわせたのだろうか?


 自分で作ったのならば、突破方法だって知っていたはずである。そんな死地にわざわざ娘を送るだろうか。


 それに、彼女は何階層まであるか知らなかった。そんなことがあるだろうか?


「オデット様だけじゃないんだよ。作ったのは。たまに話に出て来てたアラクネって人。それに、『あの男』って言われてる人がいるはず……何人かで作っていたなら知らない部分があるのも分かる」

「そういうことか……」


 であれば、105階層は想定外の強さだったということだ。

 本当にネルには感謝すべきなのかもしれない。死にかけた上に乗っ取られかけたけど。


 だが、まだ疑問は残る。


 おそらく彼女らの口ぶりから、主導者はオデットではなくその男だ。そいつが俺を巻き込んだ元凶なのかもしれなかった。


「……ん?」


 ふと、刀に刻まれていた名前を思い出す。


「J・S……だったっけ?」


 なんだか俺は、そいつに会った事があるような気がした。


**


 城の中を進んでいると、唐突に視界が開けた。


 礼拝堂のように見えたが、奥に巨大な扉が鎮座している。

 途中からやたら階段を降りていたのでここもとっくに106階層並の深度なのだろう。


「見るからに怪しいな。これだろ」

「だね」

「だろうな……んむ?」


 扉の前に歩いて行った八雲が何かに気付いたようにかがむ。そして、床に積もった埃を足で大雑把に拭った。


「何か書いてあるな……これは……勇者語、か? 読めん」


 勇者語なんてものがあるのか……。


 日本語の事だろうか。それなら俺でも読めそうだが。


 というか、そもそもこの世界の言語形態がまったくもって未だ不明である。彼女たちの言葉は日本語にしか聞こえないし、文字も日本語のようにしか見えない。たまによく分からない漢字が混じっていたりするがその程度だ。


 異世界ものによくあるおなじみの方法(ご都合主義)で自動で翻訳されているというのも考えづらい。彼女たちが書く文字と読み上げる音は完全に一致している。いくらなんでも不自然だ。


 となれば、日本語がこの世界でも使われていると考えるのが妥当なのかもしれない。


 そこに、勇者語。

 なら、日本語を扱う彼女たちなら分かりそうなものだが……。


 俺は、八雲の足下を覗き込んだ。


『Don’t look at the reality.Look at the truth』


英語だ、これ。


「なるほどな……」


 勇者語と言われる意味が分かった。日本語が使われている世界で、英語を使うのが勇者だけなら英語は確かに勇者語だ。


 逆に考えれば、これは勇者、つまり現実世界の人間に向けたメッセージになる。


「主殿、読めるか? 一応勇者だろう」

「あぁ、これぐらいなら読める、中学生レベルだな。Don’t look at the reality.Look at the truth……現実を見るな、真実を見ろ、ってところか?」


 現実も真実も同じようなものだと思うが。


「ユキトも勇者なんだねえ……」

「いや、勇者じゃない……勇者なのか?」

「でも、どういう意味なんだろうね。真実……?」


 ニナも首を傾げながらその文字を見つめる。

 何が真実なのかは分からない。だが、とにかく入ってみるしかないようだ。


「よし、最後の階層だ! 気合い入れろよ!」

「うん! ここを突破したら……外だね」

「慎重にな、2人とも」


 八雲が腰の二対の棘を展開する。何が起きるのか警戒しているのだろう。


 確かに警戒すべきだ、扉を開けた瞬間ボス戦なのかもしれない。俺も刀を抜いた。


「よし……」


 俺は扉に手をかけ、ゆっくりと開ける。

 そして、刀を構えながらその階層に突入して……。


「え……?」


 俺たちは全員動きを止めた。


 白い部屋だった。


 真っ白で、何もない狭い部屋。

 立方体の中にいるかのような、そんな部屋。


 奥に扉があるわけでもない、何か敵がいるわけでもない、何か物が置いてあるわけでもない。


 ただ、壁を鑑定すると、『106階層 無銘』とだけ出た。


「……なんなんだ、ここは」


 そう呟いた瞬間、壁が発光しはじめた。


「ユキト! 何か来る!」


 ニナの魔力感知が反応したのだろう。だが、何が来るかまでは分からない。

 咄嗟に腕で身を庇い、目をつむって、瞼越しに真っ白い光が目を焼き。



 何も起こらなかった。

 痛みもなく、身体に違和感もない。


 だが、うっすらと目を開けると。


 そこには、どこかで見たような光景が広がっていた。


 山に囲まれた家屋。

 延々と広がっているかのような草原に、のどかに草を食む牛。


 この光景には見覚えがある。


 そこは、昔、叔父叔母に引き取られる前に俺が住んでいた村だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ