第三十話 第105階層:龍種の座
とりあえず鱗と皮と爪と肉をありったけ剥いで魔袋にぶち込んだ。
そういえば、村で食べていた肉に見た目が似ている。
「……どうやって取って来てたんだ?」
「さあ?」
うーん。逃げ帰るしかなかったという割には狩りをする余裕もあるとは。おそろしや。
というか、ドラゴンの肉なんて食べていて俺たちは大丈夫なのだろうか。
『ドラゴンの肉
取り込むことで魔獣の成長能力を高める効果がある。人間には効果がない』
あぁそうかい。クモちゃんにあっという間にステータスで追い抜かれたわけだよ。
**
なんて、そんなことをしているうちに結局朝である。
途中からそんな気はしていた。寝坊した上に龍の素材なんて剥いでいたらそりゃそうである。
「止めろー!」
「ゴーゴーゴーゴー!」
「うぉおおおお!」
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ……」
ホムンクルス達の怒号が砂漠に響く。
なんかフラグを立てているやつもいるが彼らは立て続けに襲ってくる。
「ユキト! あと10キロ!」
石像のそばを駆け抜ける。もうエリアの端である壁は見えて来ていたが、まだまだ遠い。
ホムンクルス達は次々に出現し、俺たちの行く手を阻む。あと10km、走り抜けることが出来るだろうか?
「うぉおおお!」
澱みの刀でホムンクルスを斬り裂いていく。刀身が澱みとはいえ、肉を断つ感触はしっかり伝わって来ていた。相手が人間というだけで生き物を斬るおぞましさは変わる。だが、それに気を取られている余裕は無い。ホムンクルスの振るう刀を返す刀で打ち払う。
『技能:剣術(刀):Lv5に上昇』
ここで剣術スキルのレベルが上がった。対人戦を繰り返したことで経験が蓄積したのだろう。別に上がったからといって何か効果があるスキルではない……剣道でいう段位のようなものなのでメリットは無いが、自分の強さの指針ぐらいにはなる。
『狐式白刀のスキルが解放されました』
と思っていたら、そうでもなかった。剣術スキルのレベルアップによって刀スキルも増えるのか。これはオデットナイスである。戦いながら刀を鑑定する。
『名称:狐式白刀
分類:刀
澱みを周囲、使用者から吸収し魔力に変換し、還元する。
魔力を込めることで起動。追加で魔力を込めることでスキル発動。
【壱ノ型:情緒纏綿】刀身に魔力を纏わせる。
【弐ノ型:紫電一閃】魔力を噴出させ高速で移動する。』
ナイス。このスキルを設定したのがオデットなのかは分からないが、とにかくオデットナイスである。このスキルならばこの状況をさっさと離脱できるだろう。高速移動というからには走るよりは速いに違いない。
「ニナ! クモちゃん! 掴まれ!」
「えっ、え?」
「しゃ(なんだ、突然)」
戸惑うニナをとにかく脇に抱え上げる。クモちゃんも拾い上げて頭に乗せた。
「しっかり掴まってろよ! 弐ノ型、紫電一閃!!!」
スキルを叫んだ瞬間、刀ではなく俺の腰の辺りから爆発するように澱みが吹き出して俺たちは凄まじい勢いで吹き飛んだ。
急激にかかるG。そして、一瞬の浮遊感のあと俺たちは墜落した。
「いってえ……」
「ぼふ! 何今の! 何今の!」
「……(たすけて主殿)」
とんでもない勢いだった。正直ほとんど空を飛んでいた。コントロールということを考えなければいけないようだ。なかなか難しいスキルである。
全員顔面から砂に突っ込んでしまい、ニナはぶるぶると犬のように全身を震わせながら砂を落としている。
俺は砂から抜け出せずにもがいているクモちゃんを引っ張りだしながら周囲を確認する。すぐそばに狐の像があり、『やったね!』みたいなポーズをとっている。
「おや?」
そして、近くにはエリアの端であることを表す絶壁があり、次のエリアに繋がる入り口があった。
ここまでくればホムンクルスたちも追いかけてこないだろう。
「やった!」
「やったじゃないんだけど」
「しゃー(全くだ)」
まあ、次のエリアに行く前にお説教があるようだが。
「なんでいっつもいっつも新しいスキルを試すときぶっつけ本番なの! ばかなの!?」
「しゃー!(足が風速でもげるところだったぞ)」
ニナの言うことはもっともだがクモちゃんは脆すぎやしないか。
それに、いい加減俺たちの体力も限界である。そこで高速移動なんてものを見てしまったら使いたくなるのも仕方が無いというものだ。
「言い訳しない!」
はい。
**
というわけで、次の階層の入り口前で今日は野宿である。
「しっかり休んでから行かないとな」
「しゃー(そうだな)」
皆でテントを貼り、中に潜り込む。
流石に長距離走のあとだと多少寝たとはいえクタクタである。外套を脱ぐと俺はすぐにテントの中で倒れ込んだ。布越しに砂の感触が伝わってくる。砂は柔らかそうなイメージがあったが、実際に寝てみると体重で圧縮されて硬くて寝心地が悪い。
「銀マットとかがあればな……」
テントの下にマットを引くだけで多少違うのだろうが、この世界には多分そんなものは無いだろう。言うだけ野暮である。クモちゃんは『ぎんまっと?』と首を傾げている。
一方、ニナはどこか落ち着かない様子で膝を抱えていた。
「ニナ?」
「……」
呼びかけても返事が無い。そういえば、説教されてから入り口に近づくにつれて彼女の口数は減っていっていた。
「えーと、ニナさーん……ほんと、さっきの高速移動の件は反省しておりますので……」
「……え? あ、ごめんね、聞いてなかった。何?」
どうやら怒って口をきいてくれなかったわけではないらしい。
「なんかずっと黙ってるけど……何かあったのか?」
「え、えっと……なんでもな……」
「ニナ」
目をそらしながらなんでもない、と言いかけるニナの腕を俺は掴んだ。驚いたようにニナが俺の顔を見る。
「なんでもない、はもうやめよう」
「……うん、そうだね。ごめん」
ニナはうっすらと笑みを浮かべた。だが、尻尾や耳は垂れ下がったままだ。
「あのね……ユキトにまた年下扱いされそうで言いたくなかったんだけど、次の階層が……えっと、怖くて」
一瞬困惑してしまう。
次の階層は確かに厳しいとされている。だが、今までだってそうだった。今更何を怖がることがあるだろう。
そこで俺は思い出す。
次の階層はニナの両親が死んだ場所だ。怖くないはずが無い。
「……悪い、気づかなくて」
「え、ううん、ユキトが謝ることじゃ……年下扱いしないんだね」
「これで年下扱いするほど人間腐ってない」
「しゃー(人間じゃなくなりつつあるが)」
「やかましい」
「しゃふん!(ぎゃふん!)」
余計な口出しをするクモちゃんをぶっ叩きつつ、俺は起き上がる。
「……どうする? 怖いなら心の準備が出来るまで……」
「……ううん、結局来なきゃいけないと思ってたから……大丈夫、明日行けるよ」
「そっか。じゃあ頑張ろう。ま、俺もクモちゃんもいるし平気だよ」
「私が一番強いんだけど」
「……」
「しゃー(主殿が一番弱いのだが)」
「……」
悲しい。
確かに俺が一番弱いのだが。
「……強さといえばだけど……魔獣は進化するんだよな? あれってなんか条件とかあるのか? レベルとか」
「あるものもいる……って感じかな。最初の進化は皆レベルアップで進化するけど、そのあとは結構バラバラ。特に私やクモちゃんみたいに特殊な進化をするとレベルアップに加えて条件がつくこともあるみたいだよ」
ニナは見ての通り人化、クモちゃんも亜種だからだろうか。
「しゃー(うーむ。確かにとっくに進化していても良いレベルだと思っていたのだがな。何か条件があるのか。ニナ嬢なんてとっくにCランクでもおかしくないレベルだしな)」
「そうなのか?」
ふと、ニナのステータスを鑑定してみる。
『種族:魔獣『白狐(人化):E』
名前:ニナ・オデット・ルナーリア
性質:異端の民
適性:魔術師
階層:「魔獣領域Lv52」「神聖領域Lv1」「???領域Lv1」
ステータス
基本体力:278
基本耐性:220
エーテル適性:890
エーテル耐性:730
神聖領域干渉限界:0/17800
技能
「念話Lv7」「叡智への強制干渉Lv2」「身体魔法強化Lv4」「魔法適性Lv3」
「魔力感知Lv3」「気配感知Lv3」「聖魔法適性Lv2」「炎魔法適性Lv2」「猛毒耐性Lv10」「布生成Lv4」
特殊技能
「癒しの毛」「共鳴呼応」』
「レベルたっか」
なんだ、52って。そもそもどこまで上がるんだ、レベルって。某ゲームならシリーズによっては殿堂入り出来るレベルだ。ゲームクリアである。
ちなみに俺は44レベル。不吉。
「うん、そうなんだけど……ステータスがやっぱり低いんだよね」
「皮肉かな?」
ついこないだまで俺、体力も耐性も2桁だったんですけど。ようやく3桁になったんですけど。
「違うよ! やっぱりEランクだからなんだとおもうんだけど……」
「あぁ、種族値……」
ここでも某ゲーム感。
「しゅぞくち?」
「あー、種族っていうか、種類か。種類によって強さが違うってこと」
「うん、しゅぞくちってこと! 出来れば早く進化したいなあって、思うんだけどね」
「自分では分からないのか? 条件とか」
「うん……でも、なんだろ。なんとなく分かるんだ」
「しゃ?(妾は全く分からんが分かるのか! 凄いなニナ嬢は)」
「はっきりと分かるわけじゃないけど……普通だったらもう絶対進化してるはずだから。多分、この姿にヒントがあるんだと思う」
姿?
俺はニナを上から下まで眺めてみる。ニナが居心地悪そうにみじろぎするが、気にせず眺め続ける。
「幼女だな……」
「幼女言うな! ……でも、たぶんそれだよ」
「えっ」
「10歳の姿でしょ。私が本当に10歳だった時にお母さんとお父さんは死んでるから。多分……それが関係してるんだと思う」
「しゃ?(トラウマの克服が進化の条件になっていると? だがそんな話は聞いたことも……いや、あり得るか)」
本来の魔獣であればあり得ない話だっただろう。
だが、ニナは違う。彼女はそもそも人間と魔獣のハーフである。また、その影響なのかどうかは不明だが異常に早い時期に人化している。であれば、人間らしい成長としてトラウマの克服が条件になっていてもおかしくはない。人間でも大きな成長要因の一つだ。
「うん。だから……次の階層を越えられたら私、進化できる気がするんだ」
「そっか……じゃあなおさら頑張らないとな。ニナが成長したら絶対美人になるだろうしなー、楽しみだよお兄ちゃん」
「おにいちゃん!?」
「さー寝よ寝よ。なんなら今日は一緒に寝るかー? 怖いならおにいちゃんが抱っこしてやるぞー?」
「子供扱いしないでよ! さっき年下扱いしないって言ったばっかりじゃん!」
「しゃー……(……ニナ嬢も苦労しそうだな)」
クモちゃんがなにか意味深に呟いている。が、俺は気にせずまた横になった。疲れたし。眠いし。さっさと外套を毛布代わりにして潜り込むとクモちゃんもモゾモゾと潜り込んで来た。
「う〜っ……」
ニナは怒って唸っているが知ったことではない。とても眠いのだ。クモちゃんはもう寝ている。
「うー、うぅ……私も寝る! ユキトのばか!」
そう言いつつ、ニナは俺たちの寝ている外套に潜り込んで、俺の背中に自分の背中を押し付けるようにした。
怒っている割に離れることはせず、かといって横並びになるわけでもなく背中合わせ。
「……子供だなあ」
「うるさい! ユキトのあほ!」
**
翌朝。
俺たちは次の階層の入り口に立っていた。
「この先が105階層……龍種の座」
「クモちゃんはいいとして……ニナは大丈夫か?」
心配そうにニナを見るが、ニナはにっこり笑って頷いた。
「大丈夫! ユキトにくっついて寝たらなんか元気になった!」
澱み関係の話だろうか。俺の澱みを吸収する性質はニナにとっては相性がいいのかもしれない。そう考えているとクモちゃんがやれやれ、とジェスチャーをした。
「なんだよクモちゃん……まあいいか。よし、じゃあ行くか!」
「うん!」
「しゃ!(うむ!)」
俺たちは誰も突破したことの無い階層に降りる。
対するは龍種。
今までになく苦戦するだろう。だが、ここを越えれば地上は目前。
長い階段を抜け、視界が開ける。
大量の石造りの建物の残骸が一面に広がっている。まるで滅ぼされた人間の街のように。
長年の間龍が君臨した結果か、そこには生き物の気配はない。
いや、違う。
龍の気配すら、ない。
広がるのは瓦礫の山を覆いつくすような血の海、そして大量の龍の死体。
唯一、そこにいたのは、そこで生きていたのは。
「あぁ、ようやく来たんだね……ホンモノ君」
ひと際巨大な龍の骸の上で、にこやかに笑っている黒い髪の少女だった。
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ニナのステータスが出たついで
『種族:人間
名前:ユキト・ブラン・ルナーリア【???達の徒】
性質:???の残滓
適性:魔獣使い
レベル:「人間領域Lv44」「神聖領域Lv0」「???領域Lv2」
ステータス
基本体力:112
基本耐性:108
エーテル適性:10
エーテル耐性:10
神聖領域干渉限界:0/999999
スキル
「念話Lv4」「鑑定Lv2」「剣術(刀)Lv5」「猛毒耐性Lv10」
固有スキル
「魔獣敵対無効」「神聖の拒絶」「人間からの乖離」「共鳴Lv2」』
結局ユキトは攻撃力とかハッキングとか言っても伝わらないのでまた改ざんしたようです。
『種族:魔獣『白紫蜘蛛:F』
名前:クモちゃん
性質:異端の獣
適性:猛毒術士
階層:「魔獣領域Lv33」「神聖領域Lv1」
ステータス
基本体力:187
基本耐性:215
エーテル適性:105
エーテル耐性:56
神聖領域干渉限界:0/7000
技能
「毒生成Lv10」「操糸Lv3」「猛毒耐性Lv10」
特殊技能
「毒牙」「作糸」「共鳴呼応」「アラクネの領域」』




