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その魔獣使い、人類の敵につき。  作者: 有澤准
第一章 迷宮編
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第二十九話 夜のピクニック(極寒)

 全力で澱みをつぎ込みながら刃を生成し、後方に向けて振り返るようにして振るう。4メートルほどの長刀になった刀は追いかけてくるホムンクルスの足を雑に斬りとばす。


「ぐぉおおおお!」

「大丈夫か、い号!」

「いいから追え!」

「ちくしょう、なんで立て続けに……!」


 ホムンクルスたちの叫び声と怒号が砂漠に響く。足を斬られたホムンクルスを即座に他のホムンクルスが担いで撤退していく。だが、俺たちを追うホムンクルスの数はどんどん増え続けていた。


「きりがないな!」

「そうだね……」


 とにかく速攻でこの階層を突破すべく、俺たちはひたすら走り続けていた。元の世界の時に比べて圧倒的に身体能力は上がっているとはいえ、会敵から数時間も戦いながら走っていれば流石に疲れてくる。


「だけど、もうすぐ日が沈む? から」

「しゃ?(日が沈む?)」

「私もよく分からないけど、あの明るい丸いやつ? が傾いて来てるでしょ。あれが地面にくっつくと夜になるみたい」

「しゃー(なるほどな、光源が無くなるわけだ)」

「……あぁ、なるほど」


 当然、俺のなるほどとクモちゃんのなるほどは全く内容が別だ。


 彼女達はずっとこの迷宮で育ったため、太陽を見たことが無いのだ。だから日が沈むという概念もよく分からないのだろう。


 今までの階層では天井が発光しており、夜にあたる時間だと減光していた。村があった100階層や森になっていた102階層のような例だ。一方で、101階層や103階層はずっと明るさが一定だった。洞窟と墓場が明るいのはおかしいからだろう。


 そして、ここは太陽もどきがある。

 言われてみればだんだんと影は伸びて来ている。夜になるのも時間の問題だろう。


「夜になると何かあるのか?」

「うん、一気に気温が下がるんだって。ホムンクルスも停止しちゃうみたい」

「停止……」


 太陽光からエネルギーを得ているのだろうか? 


「ニナ、ボス部屋まではあとどれくらいだ?」

「あ、ボス部屋無いよ、ここ。この一体が全部ボス部屋扱いなの。つまりここを出たらすぐ次の階層ってことだね。次の入り口までは……今まで通過して来た石像の数が25個だからあと53km、わっ、焰槍! なんでそんなこと聞いたの?」


 ニナは話しながら前方の地中から飛び出して来たホムンクルスを魔法で一掃する。全く息切れもしていない。たいしたものである。


「いや……今この迷宮に突入してからだいたい4時間ってとこだろ。まだまだ体力も残ってる。それなら夜のうちに突破しようと思う」

「え」

「しゃ(えっ)」


 2人が信じられないものを見る目で俺を見た。俺はそんなにおかしいことを言っただろうか?


「いや、戦闘しなくて済むならその方が良いだろ」


 しばらく2人は無言になり、顔を見合わせて頷いた。


「……そうだね、そうかも」

「しゃー(妾は多分動けなくなるがな)」


 はて、どういうことだろう?


**


 夜。

 俺は2人が微妙な反応だった理由を身を以て知ることになる。


「寒い寒い寒い!」

「良いから走る!」

「しゃ〜(がんばれ……)」


 砂漠の夜は寒い。話には聞いたことがあったが、正直言って舐めていた。まつげが若干凍り付きはじめている。


 むしろ、走っていないと凍え死ぬ。そんな感じ。


 クモちゃんは気温の低下で動けなくなっているためニナの尻尾に糸でくくられている。ニナが走るとものすごい勢いで左右に振られているが大丈夫なのだろうか。ていうか変温動物だったのか、そりゃそうか、クモだし。


「しゃ(吐きそう)」

「やめてね!?」


 ニナがクモちゃんの嘔吐から逃れようとして、余計に尻尾を振り回しクモちゃんはさらに吐き気を増していく。悪循環の極み。


 というか、俺には尻尾を触らせてくれないのにクモちゃんはいいのか。


 と、走り続けていると前方に奇妙なものが見えた。人の像だろうか。ニナも気づいたようで立ち止まり、目を細めて注視する。


「……あれは停止してるホムンクルス! 倒しちゃえばあとが楽だけど」

「……いや、いい! 一気に離れれば関係ない」

「そう? 分かった、じゃ、行こう!」


 即座にニナがまた駆け出す。クモちゃんが急制動に揺さぶられてオエエたすけて、と念話で送ってくる。諦めろ。


 それにしても、ホムンクルスは完全に人間と同一だった。斬れば血が噴き出し、知能もあり、仲間内でコミュニケーションも取れる。人造のものだとは信じられない。


 ただ、こちらからのコミュニケーションは一切通じず、常に敵対している。


 なかなか厄介な敵だろう。相手が魔物なら全力で戦える勇者も人間にしか見えない敵が相手だと戦えないのではないだろうか。


 思えば、ここまでの階層は徐々に敵が人間味を増して来ている。


 人型の魔物であるゴブリン。

 半人半虫の魔物、アラクネレプリカ。

 人間の死体であるアンデッド。

 そして、次がホムンクルスだ。


「次は本物の人間じゃないだろうな……」


 スキルの効果で人間を殺す罪悪感や忌避感は感じないものの、流石に自分がしていることに違和感は感じる。人間としては確実に正しくない。


「次は……龍の階層だから、それはないよ」


 ニナの口調は固い。


「龍の階層……」

「そう、前人未到、突破した人は誰もいない。極々稀に生還者が出るからなんとか龍の巣だってことは分かってる」

「生還者……逃げ帰って来たってことか?」

「そうなるね。逆に言えば逃げることすら難しい。それが龍の階層、第105階層:龍種の座」

「かっこいい……」

「しゃー……(その反応は違うと思うのだがな……主殿……うっぶ! おえぇ!)」


 酔いながらもつっこんでくるクモちゃんは流石である。  


「でも俺らに突破できるのかな?」

「流石に分からない。でもここまでたった10日ぐらいで来てるからね。良い線は行けると思う」


 確かに、尋常じゃない速度でここまで来ている。一番時間がかかったのが毒耐性をつけるために延々虫を狩ったときということを考えると確かに早い。


「ま、食料はまだある。いざとなったら撤退しよう」

「うん。……オデット様たち、大丈夫かな」


 そういえば、すっかり忘れていたが村には何かがやってきていたのだった。あれからどうなったのだろうか。 


**


 一回目の休憩。

 俺たちはテントを張り、一時間ほど休憩を取っていた。流石に体力にも限界が来ていた。

 というよりは、共鳴の限界だ。5時間近く共鳴し続けているため、干渉限界値が凄まじい数値になってしまっている。99万も使わないなんて言っていたがそんなことはなかった。もう60万を越えている。とにかく、ここで仮眠を取って回復させる必要があったのだ。


「テント張っても寒い」


 俺たちは3人(2人と1匹)で固まるようにして暖をとっていた。ニナがクモちゃんを抱きかかえ、俺とニナは背中合わせになっている。


「ニナ~、尻尾を俺に巻き付けてくれないか」

「やだ」


 ニナはあまり尻尾を触らせてくれない。諦めて俺はうなだれた。


「しっかり寝るなら横になったほうがいいんじゃないのか」

「ダメだよ、地面が冷たすぎるから体力持ってかれるよ」

「そういうもんか……」


 たしかに、臀部からテントの布越しに伝わる砂の温度は非常に冷たい。

 寝転がるよりはまだ座っていたほうが暖かそうだ。

 火でも起こせればよいのだが、あいにく砂漠に薪はない。


 正直、こんな状況で寝られるはずもないが、まあ長く寝るわけにもいかないし、ちょうどよいのかもしれない……。


**


 というわけで全力ダッシュ二回戦目。 

「入り口周辺にはホムンクルスがあまり立ち寄らない領域があるはず。そこまで行ければいいんだけど……寝すぎちゃったね!」


 天井に見える偽物の月はだいぶ傾いて来ていた。朝は近い。相当疲れていたのか3人揃って爆睡してしまい、見事にフラグ改修したのであった。おかげで干渉限界値はゼロとまではいかないが10万ほどにまで低下したのだが。


「急げ急げ! ていうか入り口周辺って何のこと!」

「最初に張ったテントの場所にはホムンクルスはいなかったでしょ。次の階層近くはホムンクルスは来たがらないの」


 そういえば段々停止しているホムンクルスを見かけなくなって来ている。ゴールに近づいて来ているのだろう。


「ほー」

「もちろん例外もあるんだけ、ど……なに、あれ」


 そこで、ニナが何かを見つけたらしい。暗いこともあり俺には月明かりに照らされる砂丘しか見えないが。


 とりあえず、その方向へと駆け出すニナを追いかけて走る。すると、砂丘だと思っていたものはどこか歪だと言うことに気づいた。


「これ、は……?」


 死体だった。

 そこにはホムンクルスの死体が散乱していた。そして、その中央には砂丘だと思っていた何か、巨大なドラゴンがいた。


「……死んでる……?」

「死んでるな……」


 ただ、そのドラゴンの頭が無い。断面からは血が流れた痕跡があるが、砂にまみれていた。


「……まだ殺されて日が経ってない」

「ホムンクルスにやられたのか? 何でここにドラゴンなんかが……」

「二ヶ月前に村まで魔物が溢れたことがあったでしょ? 多分その原因だと思う」


 そういえばアレから一度説明されていた。


 下層から魔物が出て来てしまうことで、魔物達がその魔物から逃れようとして上の階層に移動することがあると。その連鎖で魔物が100階層に溢れたということだった。


「103階層まではオデット様たちが処理したって聞いてたけど、104階層のはまだ残ってたんだ……」

「そうか、ここに近づくにつれてだんだんホムンクルスがいなくなった原因は……」

「コイツに殺されたんだろうね。でも、なんか変」

「変?」


 ニナがドラゴンの傷口にこびりつく砂を落としはじめる。そして、炎の魔法で照らしながら検分しはじめた。


「やっぱり。ホムンクルスにドラゴンが倒せるはずが無い。傷口がおかしい……まるで、おっきい爪で抉られたみたい」


 この巨大なドラゴンの首を抉り飛ばせる爪。そんな生物がこの階層にいるというのか。


「よく見たら……ホムンクルスも同じように殺されてるね。もう一匹ドラゴンがいるのかもしれない」

「……早く進んだ方が良さそうだな」

「そうだね……」


 とにかくこの場は離れた方が良いだろう。


「しゃ(だがこのランクのドラゴンなど珍しいぞ? 素材を取っていっても良いのではないか)」

「「天才か」」


 その前に、素材取り開始。

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