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その魔獣使い、人類の敵につき。  作者: 有澤准
第一章 迷宮編
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第二十話 第102階層:毒蟲の巣

「げぶっ……がはぁっ! ……ぷはぁ! ……死ぬかと思った」

「はぁ……はぁ、今のは危なかったね……」

「……いや、ほんと、俺たち何してんだろうな……」

「それは言わない約束だよ……」

「シャー」


 新たな仲間、というかペットのクモちゃんを迎え、俺たちは第102階層を突き進んでいた。と、言いたいところなのだが、実際には猛毒の嵐に苦しんでいた。


 場所は階層の中間ほど。俺たちのいる場所はダンジョンでも若干開けた場所になっていて、目の前には大量に巨大な虫の死体が積み重なっている。


「おらぁー! 次来いやぁー!」


 俺が全力で叫ぶと、即座に茂みから巨大なムカデが飛び出してくる。


「ニナ!」

「うん、大丈夫! やっちゃって!」

「よっしゃぁあああ!」


 ムカデは毒をしたたらせる巨大な牙を開いて威嚇し、毒液を飛ばしてくる。食らえばただでは済まないだろう。


 だが、俺とニナとクモちゃんはその毒をわざと受ける。


「いってぇええええ!」

「っぅう」

「しゃー!」


 顔を庇った腕に毒液がかかり、ジュウ、と音を立てて皮膚が焼け、毒の浸食が始まる。


「情緒纏綿!」


 痛がっている暇はない。即座に短刀の刀身から澱みの刃を生み、槍のようにしてムカデの頭を貫いて殺す。


「よし、ニナ!」

「うんっ」


 すぐにニナがポーションを投げて寄越す。ニナもすぐに自分の分を飲み干し、クモちゃんにもポーションをかけた。俺も煽るようにポーションを飲み干すと、体中に行き渡っていた激痛が消え、やけどもゆっくりと消えていった。


『技能:猛毒耐性:Lv3に上昇』


「やっとレベル3か……」

「……あと何回繰り返せば良いんだろうね?」

「……気が遠くなるな」

「しゃー……」


 何故俺たちがこんなことをしているのかは一日前にさかのぼる。


**


 毒蟲の巣。


 この階層はその名の通り、毒蟲達の生息するジャングルになっている。ジャングルにはクモやムカデを始めとしたありとあらゆる毒を持つ魔獣が存在し、独自の生態系を築いている。

 そして、エリアの終盤、大部屋に近づくにつれその毒性は増し、即死するレベルになっていく。


 というわけで、俺たちの出す結論は当然ながらある一点に帰結することになる。


「スニーキングします」

「すにーきんぐ」

「隠れてこそこそ進みます」


 即死する毒なんてものをわざわざくらうリスクを負うことは無い。戦わなければいいだけなのだから、ボスだけ相手にすれば良いのだ。


「確かにそうだね。さっさと突破しちゃおう」

「うむ」

「しゃー」


 運良くニナもクモちゃんも魔獣であり、俺も魔獣敵対無効のスキルがある。面と向かえば完全に敵対されてしまうものの、こっそりそばを通るぐらいなら目線を向け威嚇される程度で済んでいた。ちなみに、クモちゃんは俺の左腕を定位置としたらしくそこにへばりついている。


 と、いうわけで俺たちはほとんど戦闘すること無くボス部屋にたどり着いたのである。


「やったぜ」

「……順調すぎるような……」


 ニナは首を傾げているが、ボス部屋に着いてしまえばこっちのもの。さっさと次の階層に行くとしよう。


「たのもー!」


 意気揚々と巨大な扉を押し開けると、101階層と同じく、中には何も無い巨大な空間が広がっていた。一歩踏み出すと壁に取り付けられていた鉱石が青く輝き、次の階層への穴が閉じた。


「やっぱりな。人間が入ると反応するのか」

「ユキト、地中から何か来る。警戒して」


 ニナは最初から気配感知を発動していた。すでに詠唱準備に入っていることから、地面からボスが出て来た瞬間に先制攻撃するつもりなのだろう。


「しゃ」


 クモちゃんもまだレベル2ながら戦う気まんまんである。俺の腕にしがみつきながら地面に威嚇している。でも正直離れてほしい。刀抜けない。


 数秒後、俺にも分かる形で地面が震えだす。


「……でかくないか?」


 ただ、その振動が異常に大きい。ゴブリンとは比べ物にならない。


「……これ、は」


 ニナが青ざめて、後ずさりした。直後地面が膨れ上がった。

 ゴバァ! と爆発するようにして地面が吹き飛ぶ。そして、噴水のように紫色の液体が大量に吹き出した。


 なんだあれは。飛沫が顔にかかり激痛が走った。咄嗟に鑑定してしまう。


『名称:アラクネレプリカの毒液

 毒耐性Lv10以上必須。スキルレベルが満たない場合即死する』


 これはマズい。


「に、逃げろォ!」


 叫んだ瞬間、ニナが俺の腕を掴んで出口へ跳んだ。肩が外れかけ激痛が走るがそんなことは言っていられない。大扉の外に飛び出して扉を蹴るようにして閉めた瞬間、部屋の中が毒液に満たされて沼地のようになるのが見えた。中央に何かの影が見えたが、アレがボスだろうか。


 とにかく、なんとか逃げることには成功した。が、身体は未だ激痛に襲われている。


「はっ、はっ、ぐ、ぅう!?」


 喉元から何か迫り上がってくる。思わず吐き出すと、赤と紫のマーブル模様の何かが出た。これは、なんだ?


「ユキト!」


 ニナが俺の異変に気づいたようで、すぐに駆け寄ってくるが、次の瞬間視界が暗転した。


**


 まあ、簡単に言えば顔に当たったほんのわずかな飛沫のせいであのザマである。


 ニナの適切な対処(ポーションの大量投入)によりなんとか一命をとりとめ、しばらくニナの回復能力によって傷ついた体内の組織を癒された俺は気絶してから数時間たってようやく目を覚ました。


「……いや、あの、ニナさん。もう大丈夫なんで」

「……何言ってるの。まだだめだよ、しっかり治さないと」

「しゃー」


 目が覚めてからずっとニナは俺に抱きついている。たしかに彼女に触れている面からジワジワと熱が伝わるように身体が楽になっていくのは分かる。そういう面からも抱きつく方が触れている面積的に効率がいいというのも分かるのだが、手をつなぐだけでも十分とか前は言っていたような気がする。


「いいから」

「はい」


 怒っているのだろうか。彼女は俺の胸に顔を押し付けているので表情は見えない。彼女の髪はそこまで長くなくふわふわしているので、狐耳が生えた毛玉が乗っているように見える。ちなみにクモちゃんはニナの尻尾に潜り込んでいた。


「あー、まあ、なんつーか、ありがとう」

「……ぐすっ」


 なんか鼻をすする音が聞こえた。驚いてニナを見ると、肩がわずかに震えているのが分かった。


「(え? 何? なんなの?)」


 思わずクモちゃんの方を見るが、器用に前足で『やれやれ。泣いている女子も慰められんのか』みたいなアメリカ人っぽいジェスチャーをされた。コイツ本当は知性あるだろ。


 まあ、そういうことか。抱きついているのも多分、泣いている顔を見られたくなかったのだろう。


 しょうがない。ここは俺がなんとかするしかないらしい。


「え、えーと、ニナさん? あの〜、いかがなされたのでしょうか……?」

「……」


 アホみたいに下手に出てしまった。見た目10歳児相手に。ニナは反応を返してくれず、鼻をすすり続けている。


「あー、うん、なんだ。なんかあるなら話ぐらい聞くぞ?」

「……うぅ」


 駄目だ。芳しい反応は返ってこない。


 まあ、言葉ではどうにもならないこともあるのだ。ここは動物をなだめることに定評がある俺の撫でスキルを使うしかあるまい。村一番の撫でマスター、動物を落とすことだけは得意な牧畜の神童と言われた俺を舐められては困る。言ってて悲しくなってきた。


 とりあえずふわふわしている頭を撫でる。落ち着かせるようにゆっくりだ。それにしても久しぶりに撫でた気がするが良い手触りだ。定期的に撫でよう。


「……うぇ」

「あれ?」


 なんだろう、ニナの嗚咽が激しくなった気がする。思わずまたクモちゃんを見ると『やれやれ、まだ分からないのか。これだからお前は彼女もいないんだよ』みたいなジェスチャーをされた。お前は俺の何を知っているんだ。


「うぇ、ふぇ、うぅ、ぐすっ」

「……」


 まあ、とりあえずどうすることもできないので彼女が落ち着くまで撫で続けることにする。全く状況が理解できない上に、こういうとき女性との交友経験が無いと何をしたらいいのか全く分からないということがよく分かった。


 結局彼女が泣き止むまで数十分かかった。


「……落ち着いたか?」

「……うん、ごめん」


 ニナはまだ俺に抱きついたままだがどうにか嗚咽は止まっている。今更無意味だと悟ったのか顔を押し付けるのもやめていて、目が真っ赤に腫れているのが見えた。


「いや、まあ……なんつーか、こっちこそごめんな?」

「ううん、ユキトは悪くないの、えっと、その」


 もごもごと口ごもるニナ。


「?」

「また、置いていかれるかと思ったから……」

「置いていかれる? ……あぁ、なるほど」


 確かに俺が死んだら置いていかれるということになるか。それで俺が起きたから安心して泣いてしまったということ……でいいんですかね、クモちゃんさん。ちらっとクモちゃんを見ると『まあ~? 及第点みたいな~?』みたいなジェスチャーをされた。なんだお前。


「ん? また?」

「……さて、じゃああのボスの対策を考えよっか」


 露骨に話をずらされた。さっきまで泣いてたことなんか知りませんと言わんばかりのふてぶてしいお顔をしていらっしゃる。切り替えが早いのはいいことだがなんだか釈然としないが、ケモ耳が若干垂れ下がったままなのがちょっと可愛いので許そう。


「まあ、いいけどさ……とりあえずボス部屋は毒の沼地ってことか。毒を鑑定はしたけど……ニナは見たか?」

「うん、鑑定した。アラクネレプリカの毒液。毒耐性レベル10じゃないと即死する毒だね」

「俺よく生きてたな!」


 我ながらビックリである。今回ばかりは死んでいてもおかしくなかっただろう。


「うーん、それなんだけど。多分、ほんの少ししか当たらなかったっていうのと、クモちゃんに最初に噛まれた時に耐性がついたでしょ? アレのおかげだと思うの」

「そういえば……」


 確かにこの子蜘蛛に噛まれた時に耐性スキルがついていた気がする。鑑定し、スキル説明を閲覧してみる。


『「猛毒耐性」Lv2

 毒に対する耐性を得る。毒耐性の???スキル。

 Lv1:毒耐性を得る

 Lv2:毒耐性強化

 レベルアップ条件:被毒し克服する』


「猛毒耐性?」

「そう。毒耐性じゃなくて猛毒耐性なんだよね。私はむしろ、毒耐性なんてスキル見たこと無いんだけど……多分、毒耐性の上位スキルなんだと思う。だから即死しなくて済んだんじゃないかな」

「見たこと無いってことは村の人はみんな猛毒耐性だったのか」

「うん。多分この森で獲得できるのは猛毒耐性ってこと。クモちゃんの毒もこの森じゃ弱いけど地上じゃ相当強い部類だったんじゃない?」

「しゃー!」


 あんなギャグみたいな展開だったけど、実際には命の危機だったのか……。クモちゃんはドヤ顔をしているみたいなジェスチャーをしている。『崇めよ!』みたいな感じだ。どんなジェスチャーだよ。


「まあ、あとはオデット様がくれたポーションのおかげみたい」

「ふーん?」


 ニナが手渡してきたポーションを鑑定してみる。


『名称:八尾式特効薬

あらゆる状態異常を回復し、ある程度の傷を癒す。克服した状態異常に対し耐性スキルを得ることがあるのじゃ。より強い毒を克服するたびにスキルレベルもあがるのじゃ』


 なんか最後に「のじゃ」ってついてるんですけど。あの木刀と同じで制作者コメントみたいになってしまっている。


「てか、克服するとスキル獲得できるってチートアイテムかな?」

「なにそれ」

「なんでもないです。しかし、鑑定石飲ませて鑑定スキル取得させたりといい、スキルってこんなに簡単に取得できるもんなのか?」

「といわれても、私はあの村での常識しか知らないからなあ」

「だよねえ」


 思えばこのメンツ、世間知らずばかりである。地上に出たあとの生活に不安があるのだが大丈夫だろうか。


 まあそれはともかく、今の状況は相当困難な状態にある。とりあえず情報を整理してみよう。


「で、ボスエリアは毒の沼地になってる」

「うん」

「つまり、アレに耐えるだけの猛毒耐性が必要」

「そうだね」

「で、ここには即死級の毒を持った魔獣がゴロゴロ」

「全部避けて来たね」

「で、克服するたびにスキルが上がるポーションが数百本」

「……えーと」


 ニナはそこでようやく気づいたらしく、顔をしかめた。


「まさかと思うんだけど、わざと毒を被り続けてスキルレベルを上げるってこと?」

「あぁ。それで無効化するしかないだろ。多分そのために数百本もあるんだろうし」


 はぁー、とため息をついてニナは頭を抱えた。しばらくそうしていたが、それしか手段が無いことを理解したのか顔を上げた。


「……やるしかないみたいだね」

「しゃー……」


 というわけで、冒頭に戻り、俺たちのスキルレベル上げが始まるのであった。

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