第十九話 愛ってなんだ(哲学)
さて。
『魔獣敵対無効』というスキルがある。
鑑定がレベル2になり、多少説明文が増えたがこんな感じだ。
『「魔獣敵対無効」
特殊技能。知性のある魔獣から敵対されなくなる。
明確な敵対状態の場合、もしくは理性を失っている場合は無効。
習得条件:情報開示不可。詳細不明(条件を満たしています)』
そして、俺たちがいる階層、毒蟲の巣は虫型の魔獣達が巣食う熱帯林のようなエリアだ。
そう、虫達は魔物ではなく魔獣なのだ。魔物と違って卵から生まれるので間違いなく魔獣だ。
魔獣敵対無効も有効なはず。
そう、目の前にいる牙を鳴らしている子蜘蛛もきっと手なずけられるはずなのだ!
「ほら、怖くない、怖くない……」
「きしゃー!」
がぶり。
「ほらね、怖くない。おびえていただけ……あれ、なんか目眩が」
「なにしてんのユキト! 早くポーション飲んで!!」
まあ、蜘蛛に知性なんてあるはずないよな……。
魔獣敵対無効も結局はろくに使えないスキルなのであった。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思った……」
「……いや、ほんとに何してるの……」
「きしゃー!!」
俺と子蜘蛛の戦いは続いている。
正確には、俺が子蜘蛛を手懐けようとしているだけなのだが。倒すのは多分簡単だ。だが、今後を考えると仲間は多い方が良い。
というか、最近自分が魔獣使いということを忘れつつあるのでここら辺で再認識したい。そういうわけで、最初に目についたボッチの子蜘蛛を手懐けようとしているわけである。ポ〇モンバトルである!
「……でもユキト、使役スキル持ってないでしょ」
「いや、そんなものは必要ないんだよ! 愛があればなんとかなる!」
「……そう」
完全にニナさんは諦めた表情をしている。だが、舐めないで欲しい。北海道の奥地で毎年毎年昆虫採集にいそしんだ俺の虫テイムスキルは伊達ではないのだ。
目の前の子蜘蛛は完全に威嚇状態だ。体調は10センチほど。黒と紫の体色が美しい。
「あぁ……素晴らしい……素晴らしい毛並みだ!」
「……まさかユキトが虫オタクだったとは……」
「虫だけじゃない、動物はみんな好きだ!」
「……ふーん」
ものすごく興味なさそうな元狐のニナさん。というか、オタクって言葉は通じるのか。
「で、どうするの? もう10分ぐらいにらみ合ってるけど」
「……ニナさん」
「何?」
「魔袋からお肉を出してもらえませんか」
「結局餌で釣るのね……」
というわけで、肉を餌に子蜘蛛をテイムすることに成功したのであった。
「子蜘蛛に名前を付けます」
「はい」
子蜘蛛は今俺が与えた肉をむしゃむしゃと俺の手の上で食べている。愛があれば懐かせることなど簡単なのだ!
「愛ってなんだろうね」
「哲学ですかニナさん」
「少なくとも餌で釣ることは愛じゃないことは分かる。……まあ、まずは鑑定してみよっか」
ということで子蜘蛛に向けて鑑定発動。
『種族:魔獣『ベイビースパイダー亜種:G』
名前:なし
性質:異端の獣
適性:なし
階層:「魔獣領域Lv2」「神聖領域Lv1」
ステータス
基本体力:12
基本耐性:13
エーテル適性:13
エーテル耐性:12
神聖領域干渉限界:0/30
技能
「毒生成Lv1」「操糸Lv1」「毒耐性Lv2」
特殊技能
「毒牙」「作糸」』
「よわい」
「弱いけど最初のユキトよりは強い」
「……悲しいなあ……」
だが、確かにステータスは低いが技能はなかなか充実しているような気がする。
「それは亜種だからだね。結構珍しいんだよ、亜種」
「亜種?」
「そ、亜種。通常個体から突然変異すると亜種になるの。技能が少し通常個体と異なるんだよ。ただまあ、蜘蛛の亜種は生まれてすぐに真っ先に共食いされちゃうから珍しいの。この子は多分操糸スキルでどうにか生き残ったんじゃないかな」
「しゃ」
子蜘蛛は肉を食べ終え、俺の手の上で丸くなった。それにしてもこの肉、一体何の肉なんだろう……。100階層には獣はいなかった気がするが。
「……要はアレか。ボッチだったのか、お前……俺も前の世界ではボッチだったようなもんだし仲間だな!」
「シャー!」
一緒にするんじゃねえ、と威嚇してくる子蜘蛛。ふとニナを見ると、「ぼっち……あれ? 私も友達いない……? いや、そんなはずは……あれ?」とかぶつぶつ呟いていた。
……。
いや、うん。
「……過去は過去、俺たちは、仲間だ!」
「……そうだね!」
「しゃー!」
こうして、新しい仲間が増えた。
「で、名前は?」
「あー、めんどくせえな。クモちゃんでいっか!」
「あまりに酷い。でも賛成! めんどくさい!」
「きしゃー! しゃー!」
「いってぇ! 何するんだクモちゃん!」
「いたぁっ!? メッだよクモちゃん!」
「シャァー!」
こうして子蜘蛛の名前はなし崩しにクモちゃんになり。
『技能:猛毒耐性Lv1を獲得』
こんなに素晴らしい名前なのに不服があるらしいクモちゃんから噛まれまくりポーションを飲み続けた結果、俺たちは毒耐性スキルを獲得した。




