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その後も、試合は驚くほどサクサク進んだ。中には骨のある手強い相手もいたが、一戦一戦に然程時間はかからず、昼休憩までに3分の2程の試合を消化できた。


殆どの者がミーシャ達の殺気に当てられ、戦意喪失してしまっていたからだ。気の毒なことに、試合開始と同時に失神するご令嬢が何人もいた。


陛下より昼休憩が宣言されると、ミーシャ達は控え室に戻った。

殆ど休憩なしでぶっ通しで戦っていたため、彼女達は汗だくで、僅かながら疲労の色がみえた。


ロバートに水で冷やしたタオルを渡され、それを顔に押し付けると溜め息がでた。



「食事は別室に用意してあるよ。シャワーを浴びて着替えたら移動しよう」


「分かったわ」


「腹減ったぁぁ」



ミーシャもマーシャルも慌ててシャワーを浴びた。空腹でぶっ倒れそうだ。


髪を乾かすのもそこそこに、別室に向かった。そこには大量の料理が用意されていた。ミーシャ達の好きなものが沢山ある。

神子の衣装の上からエプロンをつけたマーサがまた新しい料理を運んできた。



「2人ともお疲れ様!午後に備えていっぱい食べてちょうだい」


「「いただきます!」」



言うや否や料理をがっついて食べ始めた。







ーーーーーー


ミーシャ達が満足するまで食べ終わり、他の面々が食べ始めた頃に、別室のドアがノックされた。


一番近くにいた三女のナターシャがドアを開けると、そこにはルート先輩が立っていた。



「失礼致します。薬師局の使いで参りました。傷薬を持って参りました。どうぞ、お使い下さい」


「お気遣い痛み入る。来たついでに子供達を診てもらえないかしら?」


「御意」



マーサに一礼すると、ルート先輩がミーシャ達の近くに来た。



「お疲れ……傷だらけだな」


「お疲れ様です。ほぼ訓練中にできたものです。新しいのは殆どありませんよ」


「そうか」



そういうと、あちこちにある怪我の診察を始めた。シャワーで落とした薬を塗り直し、包帯を巻く。

頗る効果は高いが恐ろしく沁みる王宮薬師局印の薬をこれでもかっ!と塗られた。


マーシャルは若干涙目になった。



「午後も乗り切れよ。見てるから」


「はい。ありがとうございます」



マーサが薬師局の皆でどうぞ、とお弁当箱に詰めた料理を渡すと、とても恐縮した様子でルート先輩は退室していった。


怪我は自然治癒力が衰えない程度に、マルクが治してくれるのだが、わざわざ薬を持ってきてくれて、治療してくれたことが、ミーシャにはとても嬉しかった。


見ていると、言ってくれた。


ミーシャという存在を受け入れてくれているようだ。

それだけで、現金なもので、たちまちやる気が起きてくる。


昼休憩が終わりに近づくと、ミーシャは意気揚々と控え室に戻った。








ーーーーーー


午後からの試合もあっけなく終わった。

ミーシャ達の圧勝である。

多少のかすり傷を負ったが、酷めの傷は全て訓練中についたものだった。

陛下の労りの言葉を聞いて、控え室に下がると、どっと疲れが出た。



「お腹すいた……」


「眠い……」



2人は気が抜けて、亡霊のようになりながら重い身体を引きずって、シャワーを浴びた。


シャワーから出ると、家族達が控え室に来ていた。

皆、口々に労りの言葉をかけてくれる。



「今日はこのまま帰るよ。2人とも2日の休みがもらえるってさ。家で皆が待ってるよ」


「はぁ~い」


「つっかれたぁ……」


「お疲れ様」


「家でリュー達がご飯を作って待っててくれてるぞ」


「マジでー」


「キッシュあるかしら。私リューさんのキッシュ好きなのよね」


「俺、がっつり牛丼食いたい」


「牛丼なら出掛けに作っておいたわよ」


「マジかー。ナティ、ちょー愛してる」


「はいはい」



疲れた身体を引きずって控え室を出ると、薬師局長とルート先輩がいた。2人はマーサらに一礼すると、ミーシャ達を見て、苦笑した。



「相手が気の毒になるほど圧勝でしたね」


「お陰さまでなんとか口説かれずにすみそうです」


「そのようで。追加の薬を持ってきました。使って早く治しておいで」


「はい。ありがとうございます」


「すまないな、薬師局長」


「いえ、他でもないうちの局員のことですから」


「ごめんなさいね、迷惑ばっかりかけちゃって」


「いえ、そんな。今回のことはミーシャ君に非があるわけではありませんし。普段はとても良く働いてくれています」


「そう、なら良かったわ」



マーサが安心したように、微笑んだ。



「では、ゆっくり休んで下さいね。私共は失礼させていただきます」



再びマーサらに一礼すると、2人は引き返して行った。手元には彼らが作ってくれたであろう薬だけが残った。


局員の一人だと認めてもらえているようで、なんだか温かい気持ちになった。







ーーーーー


実家に帰ると皆で『祝!伴侶争奪戦勝利記念パーティー!』が開催された。マーサを筆頭に、お祭り騒ぎ大好きな連中が張り切ったため、協力してくれた面々も招いての大騒ぎになった。


皆、ミーシャ達のために喜んでくれていた。


ミーシャは、やっぱりココが好きだなぁ、と思った。


明後日には王都に戻る。

わざわざ薬を作って届けに来てくれた薬師局の人達に渡す土産は何がいいか、明日マーサに相談しよう、とぼんやり思いながら、ミーシャは眠りについた。








ーーーーーー


とんでもない大会から3日目の朝。

ミーシャはいつもより気合いをいれて出勤した。手にはマーサと相談して買った結構な量の菓子類がある。


薬のお礼と迷惑をかけてしまった謝罪をしなければ。


今日は一番乗りのつもりで、いつもより早めに家を出たが、既に先客がいた。


ルート先輩である。



「おはようございます」


「おはよう。怪我はいいのか?」


「大丈夫です」


「……肋骨にヒビ入ってなかったか?」


「入ってますけど、充分動けます」


「呆れるほどタフだな。完治するまで無理はするなよ」


「はい。ありがとうございます」



ミーシャは鞄を自分のデスクに置くと、紙袋を一つ取り出した。

緊張で汗ばむ手を気づかなかったふりをして、座って書類を読んでいるルート先輩に近づいた。



「あのっ!……ルート先輩」


「どうした?」


「これ、お土産です。地元のお菓子なんですけど、良かったら召し上がってください。それと、薬ありがとうございました」


「あぁ、悪いな。別に土産なんてよかったのに」


「ご迷惑いっぱいおかけしたんで」


「別にお前だけの責任じゃないだろ」


「……そう、かもしれませんけど、その」


「ま、ありがたく貰っておこう」


「はい」


「一月いなかったからな、仕事が溜まってるぞ。気合い入れてやれ」


「はいっ!!」




ミーシャは元気良く返事した。





<完>


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