選ばれる名前
第19話 選ばれる名前
名前は。
それまで。
人を呼ぶためのものだった。
家族が呼ぶ。
友人が呼ぶ。
教師が呼ぶ。
愛する人が呼ぶ。
だが。
その日から。
名前は。
未来へ連れていかれる者と。
残される者を分ける記号になった。
◇
2251年8月。
国際連合地球圏評議会。
方舟搭乗者選考委員会。
第一次予備選考。
対象人口。
百四十億人。
第一段階候補者。
六億二千万人。
第二段階候補者。
七千八百万人。
最終候補予定。
一千二百万人。
第一陣搭乗可能人数。
九百八十六万人。
数字だけなら。
巨大だった。
だが。
人類全体から見れば。
ほとんどの者は。
名前すら最終表へ届かない。
◇
選考基準。
一。
本人の搭乗意思。
二。
年齢。
三。
健康状態。
四。
専門技能。
五。
生殖可能性。
六。
遺伝的多様性。
七。
心理的適応力。
八。
家族関係。
九。
方舟社会で必要となる役割。
十。
抽選要素。
どの項目にも。
理由がある。
どの項目にも。
残酷さがあった。
◇
「家族単位を原則にすべきです」
家族倫理部門の代表。
ソフィア・メンデスが主張する。
「夫婦」
「親子」
「兄弟姉妹」
「長期航行では、安定した家族関係が精神衛生上重要です」
人口設計部門の責任者。
ダニエル・チョウが首を振る。
「家族単位を優先すれば、技能構成が崩れます」
「医師一人に」
「専門外の配偶者」
「幼い子ども二人」
「高齢の親」
「全員分の座席を与えるのですか」
「家族を切り離すのですか」
「場合によっては」
会議室が静まる。
「方舟は」
ダニエルが続ける。
「移民船ではありません」
「人類文明を再構築するための生存装置です」
「そのために家族を壊す?」
「家族を守るために」
「必要な技能を持つ者を減らせば」
「船全体が死にます」
◇
別の委員が発言する。
「子どもだけを優先する案は」
「心理的負担が大きすぎます」
「親と離される子どもたち」
「それを誰が支える」
「教育者」
「心理士」
「里親制度」
「船内共同養育」
「言葉を整えても」
ソフィアが言う。
「親に捨てられたと感じる子どもは必ず出ます」
「親は捨てるのではない」
「選考から外される」
「子どもには同じです」
◇
エレナ・ヴァルガスは。
議論を聞きながら。
画面に並ぶ候補者情報を見ていた。
名前。
年齢。
職業。
家族構成。
健康。
技能。
適合度。
そこには。
もう百分率だけではなく。
具体的な人生が並んでいた。
◇
地球。
旧欧州圏。
ベルリン統合都市。
ミュラー家。
妻。
レナ・ミュラー。
三十八歳。
閉鎖生態系植物学者。
火星ガイア・ドームで。
穀物循環システムを開発した。
方舟農業区画に必要不可欠な人材。
夫。
ヨナス・ミュラー。
四十一歳。
中学校歴史教師。
子ども。
長女。
エマ。
十一歳。
次男。
ルーカス。
七歳。
その日の夕方。
家族の端末へ。
国連から通知が届いた。
◇
第一次搭乗候補者選考結果
レナ・ミュラー
第二段階候補者として選出
ヨナス・ミュラー
非選出
エマ・ミュラー
非選出
ルーカス・ミュラー
非選出
◇
画面を見たまま。
誰も話さなかった。
最初に声を出したのは。
エマだった。
「お母さんだけ?」
レナは答えられない。
「なんで」
「まだ決まったわけじゃないの」
「でも」
エマは画面を見る。
「お父さんも」
「私も」
「ルーカスも」
「非選出って書いてある」
「予備選考だから」
ヨナスが言った。
「変わるかもしれない」
「じゃあ、お母さんは行くの?」
「まだ分からない」
「行きたいの?」
レナの喉が詰まる。
「答えて」
十一歳の娘の声。
「行きたいの?」
「生きたいとは思う」
部屋が静まる。
正直な言葉だった。
だからこそ。
痛かった。
「私たちを置いて?」
「違う」
「じゃあ行かない?」
「まだ」
「また、まだ?」
◇
ルーカスは。
状況を完全には理解していなかった。
「お母さん、宇宙船に乗るの?」
「分からない」
「ぼくも?」
「分からない」
「一緒じゃないの?」
レナは。
息子を抱きしめる。
だが。
抱きしめることしかできなかった。
◇
夜。
子どもたちが眠った後。
レナとヨナスは。
台所に座っていた。
「行くべきだ」
ヨナスが言う。
「何を言ってるの」
「君の研究は必要だ」
「家族より?」
「そういう話じゃない」
「同じ話よ」
「君が乗れば」
「何千人、何万人の食料生産に関わる」
「私が残れば?」
「僕たちと一緒にいられる」
「それだけ?」
「それだけじゃない」
「でも」
ヨナスは目を伏せる。
「僕は」
「君に残ってほしいと思っている」
「なら、そう言って」
「でも言えない」
「なぜ」
「君を殺すことになるかもしれないから」
◇
レナは。
涙をこらえながら言った。
「あなたたちを置いていけば」
「私が私でなくなる」
「でも残れば」
「七十年後」
「私たちはもう生きていない可能性が高い」
「子どもたちは」
「生きている」
「方舟に乗れないまま」
「残留施設へ入れる保証もない」
「だから」
ヨナスは続けられない。
家族全員が助かる道は。
まだ存在しなかった。
◇
別の家庭。
南米圏。
ブエノスアイレス沿岸都市。
アルバレス家。
夫。
マテオ・アルバレス。
四十二歳。
核融合炉保守技術者。
妻。
ルシア・アルバレス。
三十九歳。
音楽療法士。
長男。
ニコラス。
十三歳。
長女。
ソフィア。
九歳。
通知。
◇
マテオ・アルバレス
第二段階候補者として選出
ルシア・アルバレス
非選出
ニコラス・アルバレス
非選出
ソフィア・アルバレス
非選出
◇
「お父さんだけ?」
ソフィアが尋ねる。
マテオは。
端末を閉じた。
「行かない」
「マテオ」
ルシアが呼ぶ。
「行かない」
「まだ決めないで」
「何を決める?」
「家族を置いて行くことを?」
「あなたが必要とされている」
「俺は」
マテオは怒鳴りそうになる声を抑える。
「船の炉を直すために必要なんだろ」
「家族としてじゃない」
「人間としてじゃない」
「部品としてだ」
「そんな言い方」
「違うか?」
「選ばれたのは」
「俺じゃない」
「俺の技能だ」
◇
ニコラスが。
静かに言った。
「お父さん、行って」
マテオが振り返る。
「何を言ってる」
「炉が壊れたら」
「乗ってる人が死ぬんでしょ」
「お前たちを置いて?」
「ぼくたちは」
少年は一度、言葉に詰まる。
「残る」
「簡単に言うな」
「簡単じゃない」
「じゃあ、なぜ」
「お父さんまで残ったら」
ニコラスの目から涙が落ちる。
「家族全員が死ぬかもしれないから」
◇
マテオは。
息子を強く抱いた。
「そんなことを」
「十三歳のお前に考えさせる世界が」
「正しいわけがない」
◇
そして。
子どもだけが選ばれた家族もあった。
◇
日本列島圏。
札幌居住区。
高橋家。
父。
高橋健吾。
四十四歳。
都市交通整備士。
母。
高橋真奈美。
四十二歳。
小学校教師。
娘。
高橋結衣。
十二歳。
息子。
高橋悠真。
八歳。
通知。
◇
高橋結衣
第二段階候補者として選出
高橋悠真
第二段階候補者として選出
高橋健吾
非選出
高橋真奈美
非選出
◇
真奈美は。
何度も画面を見直した。
「子どもだけ?」
健吾が言う。
「二人とも?」
「そう」
「なんで」
「年齢」
「健康」
「遺伝的多様性」
「将来の教育適応」
「そんな理由で」
健吾は椅子を蹴りそうになり。
寸前で止めた。
子どもたちが見ていた。
◇
「お父さんとお母さんは?」
悠真が尋ねる。
「今回は選ばれなかった」
「じゃあ、あとから来る?」
真奈美は。
答えられない。
「来ないの?」
「分からない」
「また分からない」
悠真は泣き始める。
「ぼく行かない」
「悠真」
「お父さんとお母さんがいないなら行かない」
「まだ行くって決まってない」
「でも選ばれたんでしょ」
「候補者よ」
「同じだよ」
◇
結衣は。
黙って画面を見ていた。
「結衣」
母が呼ぶ。
「何を考えてるの」
「私」
少女は。
言葉を選んでいた。
「行った方がいいのかな」
健吾の顔が強張る。
「どうして」
「悠真を守れるから」
「あなたも子どもよ」
「でも、悠真よりお姉ちゃん」
「そんな役目を背負わせない」
「じゃあ誰が守るの」
「船の大人たちが」
「知らない人でしょ」
「そうだけど」
「お父さんとお母さんが来ないなら」
結衣は悠真の手を握る。
「私が守るしかない」
◇
真奈美は。
娘を抱きしめた。
「あなたは」
「弟の親になるために選ばれたんじゃない」
「でも」
「子どもとして乗っていい」
「泣いても」
「怖がっても」
「誰かに頼ってもいい」
「お姉ちゃんだからって」
「全部背負わなくていい」
◇
選考結果は。
世界中の家庭へ届き始めた。
妻だけ。
夫だけ。
子どもだけ。
兄だけ。
妹だけ。
祖父母と孫。
夫婦の片方。
双子の片方。
家族全員。
家族全員非選出。
同じ家に。
選ばれた者と。
選ばれなかった者がいる。
食卓の空気は。
通知一枚で変わった。
◇
ある家庭では。
選ばれた妻へ。
夫が言った。
「行ってくれ」
妻は泣きながら拒んだ。
ある家庭では。
選ばれた夫へ。
妻が言った。
「私たちを置いて行くなら、二度と家族だと思わない」
ある家庭では。
選ばれた子どもへ。
両親が言った。
「生きて」
子どもは答えた。
「一緒じゃないなら嫌だ」
ある家庭では。
家族全員が選ばれなかった。
そして。
誰も口には出さなかったが。
隣家の選ばれた家族を。
憎むようになった。
◇
世界中のSNSには。
新しい言葉が広がった。
分断選考
家族切断通知
片道家族
未来孤児
政府は。
差別的な表現を控えるよう呼びかけた。
だが。
呼びかけだけでは。
感情を止められない。
◇
選ばれた者への嫌がらせも起きた。
「逃げる人間」
「裏切り者」
「自分だけ助かるつもりか」
学校では。
方舟候補に選ばれた子どもが。
仲間外れにされた。
「どうせ俺たちを置いて行くんだろ」
「お前だけ未来人か」
「船の席、金で買ったのか」
逆に。
選ばれなかった子どもが。
選ばれた友人へ言った。
「生き残るくせに、泣くなよ」
誰も。
まだ船へ乗っていない。
候補でしかない。
それでも。
人間関係は壊れ始めていた。
◇
方舟搭乗者選考委員会。
緊急会議。
「このまま個人単位で通知を続けるのは危険です」
家族倫理部門が訴える。
「自殺未遂」
「家庭内暴力」
「親子断絶」
「候補者への襲撃」
「すでに確認されています」
人口設計部門は反論する。
「家族単位へ変更すれば」
「搭乗可能人数が三割以上減少します」
「家族全員を認めれば」
「技能の重複も増える」
「幼い子どもだけを選ぶよりましです」
「子どもだけの選考を全廃すれば」
「若年人口が不足します」
「不足という言葉で子どもを扱わないでください」
「船内人口設計には必要な表現です」
「人間です」
「分かっています」
「分かっていないから、その言葉が出る」
◇
オーロラは。
家族分離による心理影響を試算した。
親子分離。
夫婦分離。
兄弟分離。
長期航行。
閉鎖環境。
故郷喪失。
生存者罪悪感。
結果。
家族分離率が40%を超えた場合
船内重度心理障害発生率
推定63%
自殺・暴力・共同体崩壊リスク
許容範囲超過
つまり。
技能だけで選んだ船は。
到着前に社会として壊れる可能性が高い。
◇
「家族は」
心理学主任が言う。
「座席を消費する付属物ではありません」
「船内社会を安定させる基盤です」
「では、全家族を乗せる?」
「そうは言っていません」
「また中間案ですか」
「はい」
「家族を守るためにも」
「何らかの線引きは必要です」
◇
新しい案。
一。
未成年者は原則として。
保護者一名以上と同伴。
二。
夫婦の片方のみが選ばれた場合。
配偶者に同行枠を与える。
ただし。
健康・心理適応に重大な問題がない場合。
三。
子どもが複数いる場合。
兄弟姉妹を原則として分離しない。
四。
三世代家族は。
全員同行を保証しない。
五。
同行枠による座席増加分は。
全体搭乗者数を削減する。
六。
家族単位と技能単位を。
混合抽選で調整する。
◇
「同行枠を認めれば」
ダニエル・チョウが言う。
「第一陣搭乗者は」
「九百八十六万人から」
「六百四十万人まで減る可能性があります」
議場がざわめく。
三百万人以上。
失われる。
いや。
失われるのではない。
最初から乗れない。
「家族を守るために」
「三百万人分の座席を使うのか」
「家族を壊して」
「九百万人を乗せるのか」
◇
エレナは。
各家庭から届いた映像を見ていた。
母だけ選ばれた家庭。
父だけ。
子どもだけ。
家族の会話。
涙。
怒り。
沈黙。
その一つ。
高橋家の映像。
結衣が弟の手を握り。
「私が守る」
そう言っていた。
エレナは。
映像を止めた。
「十二歳の子どもへ」
「八歳の弟の親をさせる計画は」
「生存計画ではありません」
◇
緊急会見。
エレナは。
第一次予備選考の一時停止を発表した。
「選考基準に」
「重大な欠陥がありました」
「家族関係を」
「心理的要素の一項目としてしか扱っていなかった」
「家族は」
「人間が生きるための構造そのものです」
「私たちは」
「技能を運ぶために人間を選ぶのではありません」
「社会を運ぶために」
「人間を選ばなければならない」
◇
記者が尋ねる。
「家族単位を優先すれば」
「搭乗者数は大幅に減ります」
「それでも変更しますか」
「はい」
「結果として」
「救える人数が減る」
「単純な人数は減ります」
「では、なぜ」
「家族を壊した船が」
「人類文明を継承できるとは思わないからです」
◇
レア・モーガンが質問する。
「それでも」
「全家族を救うことはできません」
「分かっています」
「夫婦の片方だけ」
「兄弟の一人だけ」
「高齢の親を残す」
「そうした選択は残る?」
「残ります」
「結局、家族を分けるのでは」
「はい」
エレナは逃げなかった。
「完全には防げません」
「それでも」
「未成年者を単独で送ること」
「兄弟姉妹を意図的に分離すること」
「配偶者を単なる非技能者として切り離すこと」
「それらは改めます」
「では」
「高齢者は?」
「最も難しい問題です」
◇
高齢の親。
介護が必要な家族。
慢性疾患。
障害。
誰も。
家族ではないと言えない。
だが。
方舟には。
医療資源。
生活支援。
空間。
すべてに限界がある。
「健康な者だけを選ぶのか」
「弱い者を切り捨てるのか」
「介護する家族まで残すのか」
議論は。
また新しい痛みへ進んでいく。
◇
ミュラー家。
新しい通知。
選考手続き停止
家族同行基準再審査
レナは。
画面を家族へ見せた。
「一緒に行けるかもしれない?」
エマが尋ねる。
「まだ分からない」
少女は。
以前なら怒っていた。
だが。
今回は。
母の手を握った。
「じゃあ」
「分かるまで一緒に考えよう」
◇
アルバレス家。
マテオは。
候補辞退届を送る寸前だった。
ルシアが止める。
「待って」
「何を」
「家族同行枠が検討される」
「全員は無理かもしれない」
「でも」
「今すぐ可能性を捨てないで」
マテオは。
送信ボタンから指を離した。
◇
高橋家。
結衣と悠真の候補資格は。
一時保留。
真奈美は。
二人を抱きしめる。
「行かなくていいの?」
悠真が尋ねる。
「まだ決まってない」
「お母さんも来る?」
「来られるように」
「大人たちが考え直してる」
「遅いよ」
結衣が言った。
「うん」
真奈美は答えた。
「本当に遅い」
◇
世界では。
選考制度の再設計へ。
市民参加が始まった。
家族。
独身者。
同性パートナー。
事実婚。
養子家族。
共同養育。
一人親。
介護世帯。
血縁のない同居家族。
何を家族と呼ぶのか。
その定義から。
議論が必要になった。
◇
「婚姻届がある者だけを家族とするのか」
「長年暮らした友人は」
「里親は」
「共同生活者は」
「一人で生きてきた者は不利になるのか」
「独身者は同行枠がない分、選ばれやすくなるのか」
「家族を持つ者だけが優遇されるのか」
家族を守ろうとすれば。
家族を持たない者が不利になる。
個人を公平に扱えば。
家族が壊れる。
また。
正しい答えは一つではなかった。
◇
オーロラは。
家族を定義できなかった。
血縁。
婚姻。
同居年数。
扶養。
感情的結びつき。
相互支援。
どれを使っても。
例外が生まれる。
最終表示。
家族は
法的属性のみでは定義不能
本人たちの相互申告が必要
◇
「AIが諦めた?」
レアが尋ねる。
「違います」
エリオットが答える。
「人間にしか決められないと言っている」
「それが一番怖い」
「そうですね」
◇
新しい選考原則が。
策定される。
一。
方舟へ運ぶのは。
技能の集合ではなく。
社会である。
二。
未成年者は。
本人の意思と。
少なくとも一名の保護者同行を原則とする。
三。
家族は。
血縁・婚姻だけでなく。
継続的な相互扶助関係を含む。
四。
家族同行枠により減少する搭乗者数を。
隠さず公表する。
五。
同行できない家族が生じる場合。
第三者委員会。
心理支援。
異議申し立て。
再審査。
すべてを保障する。
六。
選考辞退者へ。
社会的圧力をかけない。
七。
選ばれた者を。
裏切り者として扱う差別を禁止する。
八。
選ばれなかった者を。
不要な人間と扱うことを禁止する。
◇
文書の最後。
エレナは。
一文を追加した。
選考結果は、人間の価値を示すものではない。
単純な言葉。
だが。
最も必要な言葉だった。
◇
予備選考。
再開。
今度は。
個人名の隣に。
家族関係が。
付属情報ではなく。
中心項目として表示された。
それでも。
全員は乗れない。
夫婦の片方だけ。
高齢の親。
成人した子。
兄弟。
別居家族。
新たな分断は残る。
だが。
人類は。
少なくとも。
家族を切り離すことを。
効率の一言で済ませないと決めた。
◇
夜。
エレナは。
選考表を見ていた。
名前。
名前。
名前。
一人ひとりに。
人生がある。
誰かの手を握っている。
誰かに呼ばれている。
選ばれる名前。
選ばれない名前。
だが。
本当は。
未来へ連れていくべきものは。
名前だけではない。
その人が。
誰と生きてきたのか。
誰を愛したのか。
誰に支えられたのか。
そのつながりだった。
方舟が運ぶべきなのは。
人類の標本ではない。
人類そのものだった。
⸻
第19話 終
次回予告
方舟選考制度は。
個人単位から。
家族と共同体を含む制度へ見直された。
未成年者の単独搭乗は原則禁止。
配偶者同行枠。
兄弟姉妹の分離回避。
異議申し立て。
再審査。
しかし。
家族を守れば。
搭乗できる人数は減る。
そして。
新たな問題が浮かび上がる。
高齢者。
障害者。
慢性疾患を持つ者。
長期医療を必要とする者。
介護する家族。
限られた医療資源の中で。
誰を連れていくのか。
健康でない者は。
未来へ行く資格がないのか。
さらに。
ある少女の選考結果が。
世界へ大きな波紋を広げる。
先天性心疾患を持つ十四歳。
高い知性と。
宇宙生物学の才能。
しかし。
長期航行には継続的な医療が必要。
彼女を乗せれば。
医療資源を使う。
乗せなければ。
才能ある一人の少女を。
病気だけを理由に未来から排除することになる。
次回、
第20話「生きる資格」
未来へ行けるのは、健康な者だけなのか。




