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『この作品に、タイトルは付けられなかった。』  作者: qp46


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6話『ノイズ』

章がノートパソコンの画面を眺めたまま、小さく欠伸をした


「……ま、今日は帰るわ」


「今日はって」


「また来るし」


意味が分からない


章は気怠そうに立ち上がる


凛はその背中を見ながら、小さく息を吐いた


本当に台風みたいな人だ


勝手に来て


勝手に人の小説読んで


勝手に変なこと言って帰っていく


章は玄関へ向かう途中で振り返る


「続き書けよ」


「……努力はします」


「努力じゃなくて書け」


無茶苦茶だ


凛が呆れている間に、章はそのまま玄関を開ける


「あの」


気づけば声が出ていた


章が振り返る


凛は少し迷ってから口を開く


「……なんでそんな気になるんですか」


数秒


章はぼんやり凛を見る


「さぁ」


それだけ言って帰っていった


扉が閉まる


その瞬間、部屋は妙に静かだった


さっきまで人がいたはずなのに、

空気だけが抜け落ちたみたいに静かだった


凛は机へ突っ伏す


疲れた


本当に疲れた


なんなんだあの人


勝手に家までついてきて、

勝手に人の小説読んで、

勝手に“人間っぽい”とか言って帰っていった


意味が分からない


凛は顔を上げる


ノートパソコンの画面には、書きかけの文章が表示されたままだった


主人公はまだ雨の中にいる


歩いたまま止まっている


凛はぼんやりそれを見つめた


「……人間っぽい、ね」


そんなこと、一度も言われたことがなかった


AI作家


効率重視


偽物


言われてきたのはそんな言葉ばかりだった


凛はスマホを手に取る


AIチャット


開けば書ける


少なくとも、

今よりはまともになる


それはもう何度も経験していた


凛は一度、スマホを置く


代わりにキーボードへ指を置いた


白い画面


数秒


何も出てこない


頭の中には映像がある


感情もある


書きたいものもある


なのに言葉にならない


凛は小さく舌打ちした


「……無理だろ」


結局スマホを開く


入力欄へ指を置く


いつも通り


それなのに


ふと、章の言葉が頭を過った


『お前、

これ書いてる時が一番人間っぽい』


凛は眉を寄せる


意味が分からない


本当に意味が分からない


それでも、

指が止まっていた


画面の光だけが静かな部屋を照らしている


窓の外では電車が走り過ぎていった


凛は小さく息を吐く


そして結局、

いつも通りAIへ入力した


――雨の中を歩く主人公のシーンを書いて


送信


数秒後


文章が表示され始める


綺麗だった


読みやすくて、

まとまっていて、

正しい文章


なのに凛は、その画面を見ながら思う


「……なんか違う」


その感覚だけが、

ずっと消えなかった

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