3話『AI作家』
今日は久しぶりの休日だった
本当なら昼過ぎまで寝ていたかった
平日は仕事終わりに少しだけ執筆へ触る
プロットを弄って、AIへ断片を投げて、気になった部分を少し修正して終わる
まともに書けるのは休日くらいだった
だから凛は朝からカフェへ来ている
ワンルームの部屋にいると、
何もしないまま一日が終わりそうだった
ちゃんと書きたかった
せめて休日くらい
けれど現実は、さっきからずっとこれだ
カフェの奥の席で、中塚凛はノートパソコンを睨みつけていた
白い画面
点滅するカーソル
数行だけ書かれた文章
そこから先が進まない
凛は小さく舌打ちして、書いた文章を全部消した
これで四回目だった
書いて
消して
また書いて
違うと思って消す
その繰り返し
店内には静かなジャズが流れている
コーヒーマシンの蒸気音と、小さな話し声が時折混ざる
休日の昼
窓際では学生が参考書を開き、
奥では夫婦らしき男女が小さな声で話していた
そんな空間の中で、凛だけがずっと画面を睨みつけている
凛はスマホを手に取った
AIチャット
入力欄へ指を置く
――主人公が孤独を感じるシーンを書いて
そこまで打って止まる
数秒考えて、結局全部消した
スマホを伏せる
違う
そうじゃない
欲しいのは文章じゃなかった
頭の中にある感情を、ちゃんと形にしたかった
でもそれが上手く言葉にならない
凛は額を押さえる
「……無理だろこんなの」
小さく呟いた瞬間だった
「お前」
突然、頭の上から声が降ってきた
凛が顔を上げる
そこに立っていた男を見て、一瞬固まる
眠そうな目
気怠そうな立ち方
昨日、壇上にいた男
湊
いや
久城章
凛の喉が小さく鳴る
章はそんな凛を見下ろしながら言った
「AI作家のやつだろ」
「……は?」
突然すぎて変な声が出た
章は気にした様子もなく、向かいの席へ勝手に座る
椅子が小さく軋む
「A&R」
「……なんですか急に」
「昨日いたじゃん」
「いたらなんなんですか」
章が凛のノートパソコンを見る
白い画面
書いては消した跡だけ残っている
「書けてねぇの?」
凛の眉が寄る
「放っといてください」
「ふーん」
興味なさそうな返事
そのくせ帰ろうとしない
凛は頭を抱えたくなった
なんでいるんだこの人
というかなんで話しかけてきた
昨日だって、目が合っただけだったのに
章がテーブルに頬杖をつく
「なぁ」
「……なんですか」
「お前さ」
章の視線が、凛のスマホへ落ちる
そこには閉じられたAIチャット画面が映っていた
「AI使う時、どんな感じで入力してんの」
凛が止まる
「……は?」
「だから」
章は眠そうな目のまま凛を見る
そのくせ、妙に真っ直ぐだった
「お前、どうやって書いてんの」




