17話『見ただけ』
打ち上げ会場は騒がしかった
グラスのぶつかる音
笑い声
作家同士の軽い世間話
凛の担当編集は、少し離れた席でその空気をぼんやり眺めていた
こういう場ではよくある光景だった
売れた作品の話
ランキング
SNS
炎上
そしてAI
「そういえば俺、この前A&Rの小説読んだわ」
若い作家が笑いながら言った
「え、どうだった?」
「普通に面白かった」
周囲が少し意外そうな顔をする
男はグラスを揺らしながら続けた
「でも正直、あれAI使えば誰でも書けるだろ」
空気が少し止まる
担当編集は思わず視線を上げた
その時だった
「は?」
低い声だった
章が立っていた
気怠そうな顔
でも目だけ笑っていない
男達が少し固まる
章は静かな声のまま続けた
「お前、その小説最後まで読んだ?」
男が止まる
「……え?」
「読んだ上で言ってんのかって聞いてる」
会場が静かになる
章はグラスを机へ置いた
誰も喋らなかった
章は気怠そうに椅子へ座る
でも声だけは妙に鋭かった
「お前、小説見ただけだろ」
担当編集は思わず黙る
章は続けた
「書く時ってさ、そんな単純じゃねぇんだよ」
静かな声だった
「一文入らねぇだけで止まるし、逆にたった一文で全部変わる」
担当編集の脳裏に、
凛の姿が浮かぶ
夜中まで修正を繰り返していた姿
何度も文章を消していた画面
章は小さく笑った
「まぁ、お前らには分かんねぇか」
空気が張る
その時、
佐藤が慌てて割って入った
「はいはい、その辺で」
章は小さく舌打ちする
でもそれ以上は何も言わなかった
担当編集は黙ったまま、
その横顔を見ていた
章はグラスへ視線を落としたまま、小さく呟く
「……見ただけで分かった気になんなよ」
その声だけが、
妙に耳へ残った




