16話『芯』
ノートパソコンの画面を見つめる
白い画面
点滅するカーソル
部屋は静かだった
コーヒーメーカーの湯気だけが、薄く空気へ溶けていく
凛は小さく息を吐いた
書けない
いや、
正確には違う
書こうとすると止まる
頭の中には言葉がある
でも形にならない
キーボードへ指を置く
数文字打つ
止まる
消す
また打つ
違う
これじゃない
椅子へ深くもたれかかる
天井を見る
最近ずっとこれだった
自分だけで書こうとすると、
苦しくなる
でもAIを開こうとすると、
逃げるみたいで嫌だった
スマホを手に取る
AIチャット
開きかけて止まる
画面を閉じる
その時だった
頭の奥で、
湊先生の声が蘇る
『でもお前いた』
凛は目を閉じる
さらに思い出す
『この小説、文章下手くそだ』
『だけどしっかりお前の芯が見えた気がする』
喉が小さく鳴る
凛はゆっくり目を開いた
……芯
小さく呟く
今まで、
ずっと勘違いしていたのかもしれない
AIを使ったら、
自分じゃないと思っていた
全部自分で書かなきゃ、
意味がないと思っていた
でも違う
大事なのはそこじゃない
凛は静かにAIチャットを開く
画面へテーマを打ち込む
数秒後、
文章が並び始めた
綺麗な文章だった
読みやすい
流れも自然
でもその中に、
欲しい一文だけ無かった
凛は小さく笑う
キーボードへ指を置いた
文章を書き換える
一文足す
また消す
言葉を混ぜる
少しずつ、
文章の温度が変わっていく
気づけば、
キーボードを打つ手が止まっていなかった
凛は画面を見つめる
AIが書いた文章だった
でもその中に、
ちゃんと自分がいた
小さく息を吐く
そして少しだけ笑った
「……あぁ、そっか」
カーソルが静かに点滅している
凛はもう一度キーボードへ手を置いた
「俺の芯があれば、ちゃんと俺の小説なんだ」




