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『この作品に、タイトルは付けられなかった。』  作者: qp46


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15話『昔』

「最近、調子戻ってきましたね」


佐藤がモニターを見ながら言った


編集部の窓の外はもう暗い


灯りの残った部屋には、キーボードを叩く音だけが小さく響いていた


章は椅子へ深く座ったまま、適当にキーボードへ指を置いている


開きっぱなしの執筆画面


途中まで書かれた文章


点滅するカーソル


飲みかけの缶コーヒー


いつもの光景だった


でも確かに、

少しだけ書けるようになっていた


止まる回数が減った


文章が前より素直に出る


佐藤はモニターから視線を外す


「やっぱり、あの人と距離を取って正解だったんでしょうね」


キーボードを打つ音が止まる


静かな部屋だった


なのに妙に響いた


章はゆっくり顔を上げる


「……は?」


佐藤の肩が少し揺れる


章は低い声のまま続けた


「お前、あいつになんか言ったのか」


空気が止まる


佐藤は視線を逸らした


「あ、いや……」


小さく舌打ちする


「はぁ……まぁいい」


章は椅子へ深く座り直した


佐藤は言葉を探すみたいに黙っている


章はキーボードから手を離す


「あと違うからな」


「……え?」


「距離取ったから戻ったわけじゃねぇ」


佐藤は黙っている


章はモニターへ視線を戻した


並んだ文字


前より、

少しだけ迷わなくなった文章


でも理由は分かっていた


「あいつ見てたら、ちょっと昔思い出しただけだ」


佐藤が止まる


章は小さく笑った


「書きたくて書いてた頃の感じ」


部屋が静かになる


佐藤はしばらく何も言わなかった


やがて、小さく息を吐く


「……珍しいですね」


「何が」


「あの人の話、自分からするの」


章は少し止まる


そのあと、

気怠そうに缶コーヒーを口へ運んだ


「別に」


短い返事だった


でも佐藤はそれ以上聞かなかった


ふと、

机の端に置かれたスマホが目に入る


開きかけて、

止まる


画面は暗いままだった


章は小さく舌打ちする


「あいつの小説、昔追ってたweb小説に雰囲気似てんだよな」


佐藤が顔を上げる


「web小説?」


「かなり昔の」


章はぼんやり天井を見る


「確か……“中”って名前だったか」


小さく笑う


「今でもまだやってんのかな、あいつ」


なんとなくスマホを開く


検索欄


『中』


数秒後、

章の指が止まった


「……は」


更新日時


数時間前


章は画面を見つめる


そのあと、

小さく笑った


「更新してんじゃん」

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