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『この作品に、タイトルは付けられなかった。』  作者: qp46


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14/19

14話『中』

久しぶりにそのアカウントを開いた


『中』


昔、一度だけ使っていた名前だった


画面の白さがやけに眩しい


投稿一覧は数えるほどしか残っていなかった


更新日時も古い


スクロールする指が妙に重かった


部屋は静かだった


冷めたコーヒー


薄暗い部屋


点けっぱなしのデスクライトだけが、ノートパソコンを白く照らしている


その中で、一件だけついていた感想が目に入った


開く


『この小説、文章下手くそだ』


そこでページを閉じた


昔はそこまでしか読めなかった


否定された気がして


怖くて


椅子へ深く座り直す


軋んだ音が静かな部屋へ響いた


考えるな


今は書かなきゃいけない


雑念を振り払うみたいにノートパソコンを開く


キーボードへ指を置く


書く


止まる


消す


また書く


カーソルだけが点滅を繰り返している


気づけば同じ一行だけで三十分経っていた


何度もAIを開こうとする


でも閉じる


違う


欲しい文章は出てくる


綺麗な流れも


読みやすい会話も


でもそこに、

今の自分はいなかった


窓の外はいつの間にか暗くなっていた


ガラスへぼんやり自分の顔が映っている


肩が重い


頭も痛い


それでも、

カーソルだけは待っていた


凛は小さく息を吐く


そしてまたキーボードを叩いた


完成した文章を見つめる


下手だった


文章は荒い


感情ばかり先に走っている


会話もまとまっていない


全体で見れば、

A&Rの作品よりずっと下手だった


でも


画面の奥に、

久しぶりに自分がいる気がした


凛は小さく息を吐く


そのまま投稿ボタンを押した


作者名


『中』


公開完了


ぼんやり画面を見つめる


静かな部屋だった


しばらくして、

通知音が鳴った


肩が跳ねる


感想だった


喉が少し鳴る


恐る恐る画面を開く


『やっぱり下手くそだな』


心臓が止まりそうになる


でも、その続きで指が止まった


『だがちゃんと芯のある小説だ』


呼吸が浅くなる


この感じ


知っている


反射的に、さっき閉じた昔の感想を開いた


『この小説、文章下手くそだ』


その下に、

続きを見つける


『だけどしっかりお前の芯が見えた気がする』


画面を見つめる


頭の奥で、

湊先生の言葉が重なる


『でもお前いた』


喉が小さく鳴った


もしかして


そんな考えが浮かんで、

すぐ首を振る


ありえない


でも心臓だけが、

やけにうるさかった

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