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『この作品に、タイトルは付けられなかった。』  作者: qp46


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11話『ズレ』

休日だった


静かだった


最近では珍しいくらい静かで、凛はそれが妙に落ち着かなかった


ノートパソコンを開く


白い画面


キーボード


コーヒーメーカー


適当に置かれたマグカップ


いつの間にか増えていたクッション


気づけば、この部屋には章が置いていったものが増えていた


なのに今日は来ない


凛は小さく舌打ちする


「……だからなんなんだよ」


スマホへ手を伸ばす


AIチャット


開けば書ける


今まではそうだった


テーマを入れる


流れを書く


欲しい空気を説明する


数秒後には、

それっぽい文章が返ってくる


便利だった


実際、

かなり助けられてきた


でも最近、

前より指が重い


凛は小さく息を吐く


スマホを置く


代わりにキーボードへ手を置いた


何か書こうとする


止まる


また書こうとする


止まる


十分後


画面には一行しか増えていなかった


「……終わってる」


凛は頭を抱える


遅い


遅すぎる


AIなら、

もう数千文字は出ている


それなのに自分は、

一文で止まっている


凛は机へ突っ伏した


その時だった


インターホンが鳴る


凛は顔を上げる


数秒止まる


そして小さく息を吐いた


玄関を開ける


章がいた


「……なんでちょっと安心してるんですか俺」


「知らね」


章は当然みたいに部屋へ入っていく


凛はその背中を見ながら扉を閉めた


章は机を見る


白い画面


増えていない文章


「書いてた?」


「……まぁ」


「進んでねぇじゃん」


「分かってますよ」


凛はソファへ座る


章はノートパソコンを覗き込んだまま言う


「AI使わなかった?」


凛が止まる


「……なんで分かるんですか」


「遅いから」


最低だ


でも否定できなかった


章は気怠そうに椅子へ座る


「なんで使わなかったの」


凛は少し黙る


上手く言葉にできない


でも、

最近ずっと引っかかっていた


「……なんか」


凛は視線を落とす


「前まで、AIが出した文章直してればよかったんですよ」


章は黙って聞いている


「でも最近、直しても直しても違う感じして」


凛は小さく笑った


「いや前から違ったんですけど、前はもっと誤魔化せてたっていうか」


言葉がまとまらない


でも止まらなかった


「なんか今、変に見えるんですよ、自分が書いてない部分」


部屋が静かになる


章は何も言わない


凛は続けた


「AIの文章って綺麗なんです、ちゃんと面白いし、読みやすいし、流れも上手いし」


画面を見る


「でもそこに、自分が入れたかった一文だけ無かったりする」


凛は小さく息を吐いた


「だから直すんですけど、直したら今度別の場所気になるし、結局ずっと終わんなくて」


章はしばらく黙っていた


やがてぽつりと呟く


「めんどくせぇな」


「うるさいですよ」


凛は少し笑う


章は頬杖をつきながら続けた


「でもまぁ」


「?」


「やっと書き始めた感じする」


凛が止まる


意味が分からなかった


章はそれ以上説明しない


代わりに机へ置いてあった原稿を適当に手に取る


「コーヒー」


「人ん家なんですけど」


「知ってる」


本当に自由だ


凛はため息を吐きながら立ち上がる


でも不思議と、

前ほど嫌じゃなかった

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