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『この作品に、タイトルは付けられなかった。』  作者: qp46


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10話『感想』

「ここ」


章が画面を指差す


「逃げたろ」


凛の肩が跳ねた


部屋にはキーボードを叩く音だけが響いていた



仕事終わり


気づけばまた章がいる


もうそこへのツッコミすら減ってきていた


凛はノートパソコンを抱えたまま、章を見る


「……何がですか」


「主人公」


章は気怠そうに続ける


「ここで本当は怒鳴らせたかっただろ」


凛は言葉に詰まる


図星だった


AIが出した文章はもっと綺麗だった


まとまっていた


でも凛はそこへ違和感を覚えた


だから修正した


けれど結局、

強くしきれなかった


読者に嫌われるかもしれない


感情的すぎると思われるかもしれない


そう考えて削った


章は画面を見たまま言う


「ずっと怖がってんな」


「……しょうがないじゃないですか」


凛は小さく息を吐く


「嫌われたら終わるし」


「別に終わんねぇだろ」


「終わりますよ」


凛は少し強めに返した


「AIだからって見られてる時点で、普通より失敗できないんです」


章は黙っている


凛は続けた


「つまんないって言われるだけならまだいいんですよ」


画面を見る


修正だらけの文章


「“ほらAIじゃん”って言われるのが、一番きつい」


部屋が静かになる


窓の外では車の音が小さく流れていた


章はしばらく画面を見ていた


やがて、小さく口を開く


「でもここ、怒鳴った方がお前っぽい」


凛が止まる


章は気怠そうに続けた


「今の、綺麗すぎ」


「……そんな変わります?」


「変わる」


即答だった


章はノートパソコンへ視線を向けたまま言う


「お前、すぐ整えるから」


凛は何も言えなかった


それは自分でも分かっていた


整える


丸くする


尖った部分を削る


そうしないと怖かった


でもそのせいで、

自分が消えていく感覚もあった


章はふと別のファイルを開く


凛の短編だった


かなり初期の作品


まだAIの使い方も不安定だった頃のもの


「あ」


凛の顔が引き攣る


「ちょ、なんでそれ開くんですか」


章は普通にスクロールする


「やめてくださいって」


「ここ」


章が画面を指差す


凛は止まる


そこは、

凛がかなり悩んで入れた一文だった


AIが出した流れを、

無理やり壊して追加した文章


読者からの反応は薄かった


でも凛はそこが一番好きだった


章はぼんやり呟く


「これ、お前だろ」


心臓が嫌な音を立てた


凛は言葉を失う


章は続ける


「こういうの入ると、急に体温ある」


部屋が静かになる


凛は画面を見る


自分の文章


ずっと、

AIを見られている気がしていた


なのにこの人は、

そこじゃない部分ばかり見つけてくる


怖かった


でも同時に、

少しだけ救われる感覚があった

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