第89話:克服
◆ 新たな感染者
翌日――
早朝。
おっさんは、報告を受けた。
ダリウスから。
「康太郎様」
「新たな感染者が、出ました」
おっさんは、顔色を変えた。
「……何人だ?……」
ダリウス「5人です」
「住民の中から」
「すぐに、隔離施設に運びました」
おっさんは、頷いた。
「……分かった……」
「……治療魔道具で、すぐに治療する……」
◆ 治療
隔離施設。
5人の新しい感染者が、横たわっていた。
高熱、咳。
苦しそう。
ゴードンが、治療魔道具を使った。
一人目。
光が、包む。
回復していく。
「……楽になった……」
二人目も、同じ。
三人目も。
五人全員が、回復した。
おっさんは、安堵した。
「……良かった……」
でも――
ゴードンは、真剣な顔だった。
「康太郎」
「問題がある」
おっさんは、ゴードンを見た。
「……何だ?……」
◆ 量産の問題
ゴードンの工房。
おっさん、ゴードン、セシリア、リリアが集まった。
ゴードンが、説明した。
「治療魔道具は、効果がある」
「でも、量産できない」
おっさんが、聞いた。
「……なぜだ?……」
ゴードンは、白い魔石を指さした。
「一つ一つに、セシリアとリリアの力を込める必要がある」
「でも、二人の魔力には限界がある」
「一日に、せいぜい3個か4個」
「それ以上は、無理だ」
セシリアが、俯いた。
「……すみません……」
「……私の力が、足りなくて……」
リリアも、申し訳なさそう。
「……私も……」
おっさんは、二人の肩を抱いた。
「……いや、お前たちは十分やってくれている……」
「……悪いのは、俺だ……」
「……もっと早く、気づくべきだった……」
ゴードンが、言った。
「誰も悪くない」
「これは、システムの問題だ」
「だから、システムを変える」
おっさんは、ゴードンを見た。
「……変える?……」
ゴードンは、頷いた。
「ああ」
「新しい方法を、考えた」
◆ 新しいアプローチ
ゴードンが、机に紙を広げた。
図を描く。
三つの魔道具。
「治療魔道具を、3パーツに分ける」
おっさんが、聞いた。
「……3パーツ?……」
ゴードンは、説明した。
「一つ目:セシリア魔道具」
「セシリアの光の祝福を込めた魔石」
「二つ目:リリア魔道具」
「リリアの治癒の力を込めた魔石」
「三つ目:制御魔道具」
「二つの力を融合・調整する魔石」
「この三つを組み合わせて、一つの治療セットにする」
セシリアが、聞いた。
「でも、それでも一つ一つに力を込めないと……」
ゴードンは、首を振った。
「いや、違う」
「マスター魔石方式だ」
リリアが、聞いた。
「マスター魔石……?」
ゴードンは、大きな白い魔石を取り出した。
拳の二倍ぐらいの大きさ。
「これがマスター魔石だ」
「セシリアとリリアは、このマスター魔石に大量の力を込める」
「全力で」
「一回だけ」
おっさんが、聞いた。
「……それで?……」
ゴードンは、続けた。
「そのマスター魔石から、小さな魔石に力を分配する」
「魔力転写の技術を使う」
「一つのマスター魔石から、20個ぐらいの小さな魔石に分配できる」
セシリアが、驚いた。
「20個も!?」
ゴードンは、頷いた。
「ああ」
「そして、制御魔道具は普通の魔石で作れる」
「セシリアやリリアの力は不要だ」
「俺が量産できる」
おっさんは、理解した。
「……つまり……」
「……セシリアとリリアは、マスター魔石に一回だけ全力で力を込める……」
「……そこから20個に分配する……」
「……制御魔道具は、ゴードンが量産する……」
「……そうすれば、治療セットが20組できる……」
ゴードンは、頷いた。
「その通りだ」
「これなら、量産できる」
◆ マスター魔石への力の注入
すぐに、実行した。
ゴードンが、大きなマスター魔石を二つ用意した。
一つは、セシリア用。
一つは、リリア用。
「セシリア、リリア」
「お前たちの全力を、このマスター魔石に込めてくれ」
「一回だけでいい」
「でも、全力で」
二人は、頷いた。
「分かりました」
セシリアが、マスター魔石の前に立った。
深く息をつく。
そして――
両手を差し出す。
「光よ……」
「全ての力を、この魔石に……」
「浄化の力を……」
「病を払う力を……」
「全てを……!」
光が、溢れ出た。
強い光。
眩しい光。
今までで、最も強い。
セシリアは、全力で力を込めている。
汗が、滴る。
体が、震える。
でも――
止めない。
全ての力を。
マスター魔石に。
マスター魔石が、輝いた。
強く。
美しく。
光を吸い続ける。
10分、20分、30分。
セシリアは、限界に近い。
でも――
まだ続ける。
おっさんが、心配そうに見ている。
「……セシリア……」
ゴードンが、言った。
「もういい!」
「十分だ!」
セシリアは、手を下ろした。
その瞬間――
倒れそうになった。
おっさんが、セシリアを支えた。
「セシリア!」
セシリアは、息を切らしている。
「はぁ……はぁ……」
「……大丈夫……です……」
おっさんは、セシリアを抱きしめた。
「……無理しすぎだ……」
「……休め……」
セシリアは、頷いた。
「……はい……」
次は、リリア。
同じように。
マスター魔石の前に立つ。
「癒しの力よ……」
「全てを、この魔石に……」
光が、溢れる。
リリアも、全力で。
汗をかきながら。
震えながら。
でも――
諦めない。
全ての力を。
マスター魔石に。
マスター魔石が、輝く。
強く。
30分後――
リリアも、限界。
エリアスが、リリアを支えた。
「リリア!」
リリアは、疲れている。
「……大丈夫……です……」
ゴードンは、二つのマスター魔石を見た。
輝いている。
強い力が、込められている。
「……成功だ……」
「……これだけの力があれば……」
「……20個に分配できる……」
◆ 分配作業
ゴードンが、小さな白い魔石を並べた。
20個。
そして――
マスター魔石を、中央に置く。
特殊な魔法陣を描く。
「魔力転写の術」
手を差し出す。
「力よ、分かれよ」
「マスター魔石から、小さな魔石へ」
「均等に、分配せよ」
光が、マスター魔石から小さな魔石へと伸びる。
20本の光の線。
力が、分配されていく。
小さな魔石が、一つ一つ輝き始めた。
セシリアの力が、込められた魔石が20個。
同じように、リリアのマスター魔石からも。
20個の魔石。
合計40個。
ゴードンは、確認した。
「……成功だ……」
「……セシリア魔道具が20個……」
「……リリア魔道具が20個……」
◆ 制御魔道具の量産
次の日――
ゴードンは、制御魔道具を作り始めた。
普通の魔石を使う。
設計図通りに。
加工して、魔法を込める。
これは、セシリアやリリアの力は不要。
ゴードンの技術だけで作れる。
一つ、二つ、三つ。
次々と。
真理も、手伝っている。
「これで、いいですか?」
ゴードン「ああ、完璧だ」
夕方には――
20個の制御魔道具が完成した。
ゴードンは、三つの魔道具を組み合わせた。
セシリア魔道具。
リリア魔道具。
制御魔道具。
専用のケースに入れる。
「治療セット、完成」
おっさんは、それを見て微笑んだ。
「……よくやったな、ゴードン……」
ゴードンは、照れくさそうに笑った。
「まあ、な」
◆ 配布と治療
治療セットを、配布した。
診療所に。
隔離施設に。
街の要所に。
使い方は、簡単。
三つの魔道具をセットして、患者に当てる。
光が、包む。
病が、癒される。
新しい感染者が出ても、すぐに治療できる。
セシリアやリリアがいなくても。
誰でも、使える。
住民たちが、安心した。
「これで、安心です」
「ありがとうございます、康太郎様」
おっさんは、頷いた。
「……礼を言うなら、ゴードンに……」
「……あいつが、やってくれた……」
◆ 間に合わなかった者
しかし――
全員を、救えたわけではなかった。
治療魔道具が完成する前に――
重症化した者がいた。
3人。
老人が2人。
子供が1人。
体力が、持たなかった。
治療を試みた。
でも――
間に合わなかった。
3人は、静かに息を引き取った。
おっさんは、その場にいた。
最期を、見届けた。
老人の一人が、おっさんの手を握った。
「……康太郎様……」
「……ありがとう……ございました……」
「……この街で……暮らせて……」
「……幸せ……でした……」
そして――
目を閉じた。
おっさんは、涙を流した。
「……すまない……」
「……もっと早く、治療魔道具を作っていれば……」
「……お前を、救えた……」
セシリアが、おっさんの肩に手を置いた。
「……コウタロウさん……」
「……あなたのせいでは、ありません……」
おっさんは、首を振った。
「……いや……」
「……俺の力が、足りなかった……」
◆ 葬儀
数日後――
3人の葬儀が行われた。
街の墓地。
多くの住民が、集まった。
おっさんも、セシリアも、ゴードンも、リーナも。
全員が、黙祷した。
エリアスが、祈りを捧げた。
「神よ、この者たちを受け入れたまえ」
「天国で、安らかに」
住民たちが、涙を流した。
「……さようなら……」
おっさんは、墓の前に立った。
手を合わせる。
「……すまなかった……」
「……救えなかった……」
「……でも、お前たちのことは忘れない……」
「……安らかに、眠ってくれ……」
◆ それでも前を向く
葬儀の後――
おっさんは、館にいた。
一人で。
窓から、外を見ている。
子供たちが、遊んでいる。
ホープ、希望、光。
笑顔。
元気。
セシリアが、部屋に入ってきた。
「コウタロウさん」
おっさんは、振り返った。
セシリアは、おっさんを抱きしめた。
「……3人を、救えませんでした……」
「……でも……」
「……他の全員を、救いました……」
「……感染者は、50人以上いました……」
「……そのうち、3人だけです……」
「……47人を、救いました……」
おっさんは、セシリアを抱きしめた。
「……分かっている……」
「……でも……」
「……救えなかった者が、心に残る……」
セシリアは、涙を流した。
「……それが、コウタロウさんです……」
「……優しすぎるんです……」
おっさんは、窓の外を見た。
子供たちが、笑っている。
住民たちが、暮らしている。
平和な街。
(……3人を、救えなかった……)
(……でも、47人を救った……)
(……これで、良かったのか……?)
(……いや、良くない……)
(……でも、これが現実だ……)
(……全員を、救えるわけじゃない……)
(……それでも、前を向く……)
(……救える命を、救い続ける……)
おっさんは、決意した。
(……疫病を、完全に終息させる……)
(……もう、誰も死なせない……)
グリーンヘイブン。
治療魔道具の量産に成功した。
3パーツシステム。
マスター魔石方式。
ゴードンの天才的な発想。
セシリアとリリアの全力。
みんなの協力。
47人の命を、救った。
でも――
3人を、救えなかった。
おっさんの心に、深い傷が残った。
それでも――
前を向く。
戦い続ける。
疫病との戦いは、終わりに近づいている。
(次回:第90話「疫病終息」に続く)




