第79話:後継者
◆ 後継者会議
グリーンヘイブンに帰還して、数日後――
おっさんの元に、ヴァルハイム王国から連絡が来た。
「後継者問題で、意見が割れています」
「康太郎伯爵、来ていただけませんか」
おっさんは、すぐに決断した。
「……行く……」
セシリアも、一緒。
バハムートで、ヴァルハイム王国へ。
数日後――
ヴァルハイム王国。
評議会の会議室。
おっさん、セシリア、グスタフ。
大臣たち、数名。
平民代表、元奴隷代表も。
そして――
王族の候補者たちが、呼ばれていた。
◆ 候補者たち
最初の候補者。
30代の男性。
カール五世の甥。
名前は、フリードリヒ。
傲慢そうな顔。
フリードリヒが、言った。
「私が、王になるべきだ」
「伯父上の意志を、継ぐ」
おっさんが、聞いた。
「……奴隷制については?……」
フリードリヒは、即答した。
「復活させる」
「奴隷制は、必要だ」
おっさんは、首を振った。
「……却下だ……」
フリードリヒは、怒った。
「何だと!?」
おっさんは、冷たく言った。
「……奴隷制を支持する者は、王になれない……」
「……それが、条件だ……」
フリードリヒは、憤慨して出て行った。
次の候補者。
50代の男性。
カール五世の弟。
名前は、ハインリヒ。
優しそうな顔。
でも――
痩せている。
病弱そう。
ハインリヒが、言った。
「私は、王になりたくない」
「私は、病弱だ」
「長くは、生きられない」
「若い者に、任せたい」
そう言って、辞退した。
最後の候補者。
25歳の女性。
カール五世の姪。
名前は、アンナ。
美しい顔。
でも――
謙虚そう。
おどおどしている。
アンナが、小さな声で言った。
「……私は、無理です……」
「……王になるなんて……」
「……私には、できません……」
おっさんは、アンナを見た。
(……謙虚だな……)
(……でも……)
おっさんは、質問した。
「……アンナ様……」
「……奴隷制については、どう思いますか?……」
アンナは、少し考えた。
そして――
答えた。
「……間違っていると、思います……」
「……人が人を、所有するなんて……」
「……おかしいです……」
「……でも、伯父様は……」
「……そう信じていました……」
「……私は、何も言えませんでした……」
おっさんは、頷いた。
(……正しい心を持っている……)
おっさんは、アンナに聞いた。
「……民衆のことを、どう思いますか?……」
アンナは、涙を流した。
「……可哀想です……」
「……苦しんでいます……」
「……税金が高くて……」
「……生活が、苦しくて……」
「……助けたいです……」
「……でも、私には……」
「……何もできません……」
おっさんは、微笑んだ。
「……いや、できます……」
「……あなたが、王になれば……」
アンナは、驚いた。
「……え?……」
「……でも、私は……」
「……無理です……」
◆ グスタフの観察
グスタフは、会議中ずっとアンナを見ていた。
この数週間。
評議会で、何度も会っていた。
アンナは、いつも民衆の話を親身に聞いていた。
優しかった。
賢かった。
でも――
自信がなかった。
グスタフは、思った。
(……アンナ様は、良い王になる……)
(……謙虚で、優しい……)
(……民を思っている……)
(……でも、一人では無理だ……)
(……誰かが、支えないと……)
◆ おっさんの提案
おっさんは、グスタフを見た。
そして――
提案した。
「……グスタフ……」
「……お前が、アンナ様の婿になれ……」
全員が、驚いた。
「……え!?」
グスタフは、顔を真っ赤にした。
「……何を言っている…!?」
「……俺が、王女様の婿だと…!?」
おっさんは、頷いた。
「……ああ……」
「……お前は、軍事に優秀だ……」
「……実績もある……」
「……民からも、信頼されている……」
「……アンナ様を、支えられる……」
グスタフは、明確に拒否した。
「……いや、無理だ…!!」
「……一介の将軍ごときが、王女様の夫とか…!!」
「……ありえない…!!」
「……身分が、違いすぎる…!!」
「……俺は、子爵だ…!!」
「……王族とは、釣り合わない…!!」
おっさんは、首を振った。
「……身分なんて、関係ない……」
「……大事なのは、能力と心だ……」
グスタフは、頭を振った。
「……それでも、無理だ…!!」
「……俺には、そんな資格はない…!!」
◆ 周囲の反応
でも――
評議会のメンバーたちは、違った。
平民代表が、言った。
「私たちは、賛成です」
「グスタフ将軍なら、信頼できます」
元奴隷代表も、頷いた。
「私たちも、賛成です」
「グスタフ将軍は、おっさんの説得で変わりました」
「今は、奴隷制廃止を支持しています」
「信頼できます」
大臣たちも、頷いた。
「私たちも、賛成です」
「グスタフ将軍は、優秀です」
「アンナ様を、支えられます」
グスタフは、戸惑っている。
「……でも……」
アンナが、小さな声で言った。
「……グスタフ様……」
グスタフは、アンナを見た。
アンナは、顔を赤くしていた。
「……私は……」
「……グスタフ様なら……」
「……嬉しいです……」
グスタフは、驚いた。
「……アンナ様……」
◆ 惹かれ合う二人
実は――
この数週間。
グスタフとアンナは、何度も話していた。
評議会で。
街で。
民衆の話を聞きながら。
グスタフは、アンナの優しさに惹かれていた。
アンナは、グスタフの誠実さに惹かれていた。
でも――
二人とも、口に出せなかった。
身分が、違いすぎると思っていた。
でも――
今、周囲が背中を押している。
グスタフは、迷っていた。
(……俺が、王女様の夫……?)
(……本当に、いいのか……?)
(……俺に、そんな資格が……?)
◆ 神の信託
その夜――
おっさんとセシリアは、教会にいた。
二人だけ。
おっさんが、セシリアに言った。
「……セシリア……」
「……頼みがある……」
セシリアは、おっさんを見た。
「……何ですか?……」
おっさんは、説明した。
「……グスタフは、まだ迷っている……」
「……身分差を、気にしている……」
「……でも、あの二人は合っている……」
「……だから……」
「……女神に、信託を頼みたい……」
セシリアは、理解した。
「……女神の、お墨付きを……」
おっさんは、頷いた。
「……ああ……」
「……俺は希望の力を、お前は光の祝福を授かった……」
「……女神に、頼めるはずだ……」
セシリアは、微笑んだ。
「……分かりました……」
「……一緒に、祈りましょう……」
二人は、祭壇の前に跪いた。
祈る。
おっさんは、心の中で語りかけた。
(……女神よ……)
(……頼む……)
(……グスタフとアンナに、祝福を……)
セシリアも、祈っている。
光が、溢れ出た。
優しい光。
神聖な光。
そして――
女神が、現れた。
白い服。
長い髪。
神々しい雰囲気。
第62話で会った、あの女神。
女神は、微笑んでいた。
「お久しぶりです、康太郎」
「セシリアも」
おっさんは、頭を下げた。
「……女神……」
女神は、優しく言った。
「そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ」
「あなたたちは、希望と光の力を受けました」
「信頼しています」
おっさんは、顔を上げた。
「……本当か?……」
女神は、頷いた。
「はい、もちろんです」
「グスタフとアンナのこと、見ていますよ」
「良い二人ですね」
「お互いに惹かれ合っています」
「でも、身分差を気にしている」
「あなたが背中を押したいのですね」
おっさんは、頷いた。
「……ああ……」
「……女神からの、お墨付きがほしい……」
女神は、微笑んだ。
「分かりました」
「お任せください」
「明日の評議会で、皆様の前で信託をお伝えします」
「グスタフの迷いを、払ってあげましょう」
おっさんは、微笑んだ。
「……ありがとう……」
女神は、セシリアも見た。
「セシリア、お久しぶりです」
「聖女として、頑張っていますね」
セシリアは、頭を下げた。
「はい、女神様」
「ありがとうございます」
女神は、二人に言った。
「では、明日」
「二人にふさわしい祝福を、お伝えしますね」
女神は、消えた。
光も、消えた。
おっさんとセシリアは、顔を見合わせた。
セシリアが、微笑んだ。
「……女神様、協力的ですね……」
おっさんは、頷いた。
「……ああ……」
「……希望の力を授けてもらった甲斐があったな……」
◆ グスタフの決意
翌日――
評議会。
おっさんが、前に立った。
「……みんな、聞いてくれ……」
「……昨夜、セシリアと女神に祈った……」
「……そして、女神が応えてくれた……」
「……今日、ここで信託を下すと……」
全員が、驚いた。
「……女神が……?」
その時――
部屋が、光に包まれた。
眩しい光。
神聖な光。
全員が、目を閉じる。
そして――
光の中に、女神が現れた。
威厳ある姿。
神々しい。
でも――
優しい雰囲気。
全員が、跪いた。
「……女神様……!」
女神は、優しく、でも厳かに言った。
「皆様、お集まりいただき、ありがとうございます」
「私は、この世界を見守る女神です」
「今日、ここに集いし皆様に、信託をお伝えします」
全員が、息を呑む。
女神は、グスタフとアンナを見た。
優しい目。
「グスタフ、アンナ」
「二人に、私の祝福を与えます」
「二人は、共に歩むべき運命にあります」
「グスタフは、アンナの夫となり」
「アンナは、この国の女王となります」
「二人は、良き王と王妃となるでしょう」
「そして――」
女神は、さらに続けた。
「二人の間に生まれる子は」
「後の世に、賢王として名を残すでしょう」
「カール六世として」
「この国を、大きく導きます」
「これが、私の信託です」
女神は、一瞬おっさんとセシリアを見て、優しく微笑んだ。
おっさんとセシリアは、小さく頭を下げた。
(……ありがとうございます……)
女神は、消えた。
光も、消えた。
部屋が、元に戻る。
全員が、呆然としていた。
しばらく、沈黙。
そして――
一人の大臣が、叫んだ。
「女神の信託だ!!」
「女神が、認めた!!」
全員が、我に返った。
「女神が、グスタフとアンナを祝福した!!」
「これは、間違いない!!」
グスタフは、震えていた。
「……女神の、信託……」
アンナも、涙を流している。
「……私たちの、子が……」
「……賢王に……」
おっさんは、グスタフを見た。
「……グスタフ……」
「……これでも、断るか?……」
グスタフは、黙っていた。
しばらく。
そして――
膝をついた。
アンナの前に。
「……アンナ様……」
アンナは、グスタフを見た。
グスタフは、頭を下げた。
「……俺は、一介の将軍です……」
「……身分も、低い……」
「……でも……」
「……神が、認めてくれた……」
「……民も、認めてくれた……」
「……だから、覚悟を決めます……」
「……アンナ様……」
「……俺を、夫として受け入れてくれませんか……」
アンナは、涙を流した。
「……はい……」
「……喜んで……」
二人は、抱き合った。
評議会の全員が、拍手した。
盛大な拍手。
「おめでとうございます!!」
「万歳!!」
◆ 新たな王国
数ヶ月後――
アンナとグスタフの結婚式が行われた。
盛大な式。
民衆が、祝福した。
アンナが、女王として即位した。
グスタフが、王配として支えた。
二人で、国を治めた。
評議会も、機能している。
貴族、平民、元奴隷。
みんなで、話し合う。
新しい法律。
税制の改革。
刑務所の運営。
全てが、うまくいっている。
アンナは、謙虚だった。
でも――
民の話を、よく聞いた。
優しかった。
賢かった。
意外と、良い女王だった。
グスタフが、支えた。
軍事、外交。
全てを、担当した。
二人は、良いコンビだった。
◆ エピローグ
数年後――
アンナとグスタフに、子供が生まれた。
男の子。
名前は、カール六世。
おっさんは、報告を受けた。
グリーンヘイブンで。
「おめでとうございます」
おっさんは、微笑んだ。
「……良かった……」
セシリアも、喜んでいる。
「……神の信託通りですね……」
おっさんは、頷いた。
「……ああ……」
「……この子が、賢王になる……」
「……ヴァルハイム王国を、導く……」
「……奴隷制のない、平等な国に……」
そして――
実際に、そうなった。
カール六世は、成長した。
優しく、賢く、強く。
母アンナの優しさ。
父グスタフの強さ。
両方を、受け継いだ。
20歳で、王となった。
そして――
後の世に、賢王として名を残すことになる。
「賢王カール六世」
ヴァルハイム王国を、大きく発展させた。
奴隷制を完全に廃止した。
平等な社会を、実現した。
民から、愛された。
歴史に、名を刻んだ。
グリーンヘイブン。
おっさんの物語。
ヴァルハイム王国に、新たな王を立てた。
アンナとグスタフ。
そして、未来の賢王。
全ては、おっさんから始まった。
カール五世は、救えなかった。
でも――
その国は、変わった。
新しい未来が、始まった。
おっさんの物語は、続く。
(次回:第80話「帰還と再会」に続く)




