第70話:下水道の教訓
◆ 出発
翌朝――
早朝。
おっさんは、留学生たち全員を集めた。
宿舎の前。
トーマス、エマ、フェリックス、リディア、レイモンド、ヴィクトリア。
そして、兵士のマルクとハンス。
全員が、集まっている。
おっさんが、前に立った。
「……これから、下水道に行く……」
「……作業着に、着替えろ……」
作業着が、配られた。
シンプルな服。
汚れてもいい服。
レイモンドとヴィクトリアは、嫌そうな顔。
でも――
着替えた。
全員が、同じ作業着。
身分の区別は、ない。
おっさんも、同じ作業着を着ている。
セシリアも、一緒に来た。
同じ作業着。
おっさんが、言った。
「……行くぞ……」
◆ 王都の下水道
一行は、王都の下水道に向かった。
馬車で。
数時間の道のり。
王都に、到着した。
下水道の入口。
暗い。
臭いが、する。
レイモンドとヴィクトリアは、顔をしかめた。
「……臭い……」
「……本当に、ここに入るんですか……?」
おっさんは、頷いた。
「……ああ……」
「……俺も、最初はここから始まった……」
おっさんは、下水道に入った。
階段を、降りる。
暗い。
湿っている。
みんなが、ついていく。
魔道具の明かりで、照らす。
地下道。
広い。
汚物の臭いが、する。
レイモンドとヴィクトリアは、吐きそうな顔。
でも――
我慢している。
おっさんは、歩きながら語り始めた。
「……俺は、異世界から召喚された……」
「……この世界に、来た……」
「……でも、すぐに捨てられた……」
「……どこに?……」
おっさんは、足元を指差した。
「……ここだ……」
「……下水道に……」
留学生たちは、驚いた。
「……え……!?」
おっさんは、続けた。
「……俺は、汚物にまみれた……」
「……52歳のおっさんが……」
「……下水道に、捨てられた……」
「……惨めだった……」
「……でも……」
おっさんは、微笑んだ。
「……ここで、セシリアと出会った……」
セシリアも、微笑んだ。
「……はい……」
「……私も、ここにいました……」
「……聖女として……」
「……汚物を、浄化していました……」
留学生たちは、さらに驚いた。
「……聖女が、下水道に……?」
セシリア「……はい……」
「……誰もやりたがらない仕事でした……」
「……でも、誰かがやらないといけない……」
「……だから、私がやりました……」
おっさんは、セシリアの手を握った。
「……そして、俺たちは一緒に働いた……」
「……汚物にまみれながら……」
「……でも、ここで見つけたんだ……」
◆ 魔石の発見
おっさんは、汚物の中を指差した。
「……魔石だ……」
「……汚物の中に、魔石が埋もれていた……」
おっさんは、しゃがんだ。
汚物の中に、手を入れる。
躊躇なく。
そして――
何かを、取り出した。
紫の魔石。
汚れている。
でも――
輝いている。
「……これだ……」
「……この魔石が、全ての始まりだった……」
留学生たちは、息を呑んだ。
おっさんは、続けた。
「……俺は、この魔石を売った……」
「……金を得た……」
「……そして、商会を作った……」
「……リーナと一緒に……」
「……魔石を採掘し続けた……」
「……金が貯まった……」
「……そして、魔境を買った……」
「……グリーンヘイブンを作った……」
「……全てが、ここから始まったんだ……」
おっさんは、立ち上がった。
「……下水道と、汚物と、魔石……」
「……それが、俺たちの原点だ……」
◆ 作業開始
おっさんが、言った。
「……さあ、作業を始めるぞ……」
「……汚物の中から、魔石を探せ……」
留学生たちは、戸惑っている。
レイモンドが、言った。
「……汚物の中に、手を入れるんですか……?」
おっさんは、頷いた。
「……ああ……」
「……嫌なら、帰れ……」
レイモンドは、黙った。
ヴィクトリアも、泣きそうな顔。
「……で、でも……」
おっさんは、冷たく言った。
「……身分なんて、関係ない……」
「……ここでは、みんな平等だ……」
「……貴族も、平民も、同じだ……」
「……汚物にまみれるのは、同じだ……」
おっさんは、先に手本を見せた。
汚物の中に、手を入れる。
探る。
そして――
魔石を、取り出した。
「……こうやって、探すんだ……」
セシリアも、一緒に働いている。
汚物の中に、手を入れる。
躊躇なく。
トーマスとエマは、おっさんを見て決意した。
「……やります……!」
二人も、汚物の中に手を入れた。
探る。
フェリックスとリディアも、続いた。
「……私たちも……」
兵士のマルクとハンスも、働き始めた。
でも――
レイモンドとヴィクトリアは、動けない。
おっさんが、言った。
「……どうした?……」
「……やらないのか?……」
レイモンドは、震えている。
「……で、でも……」
「……汚い……」
おっさんは、厳しく言った。
「……汚い?……」
「……俺も、セシリアも、汚物にまみれた……」
「……トーマスも、エマも、今まみれている……」
「……お前たちだけ、特別か?……」
「……身分が高いから、汚物に触らなくていいのか?……」
レイモンドは、黙った。
おっさんは、続けた。
「……違う……」
「……ここでは、みんな同じだ……」
「……汚物に触るのも、同じだ……」
「……それが、平等だ……」
ヴィクトリアが、涙を流しながら言った。
「……分かりました……」
「……やります……」
ヴィクトリアは、汚物の中に手を入れた。
震えながら。
泣きながら。
でも――
やった。
レイモンドも、続いた。
「……僕も……」
汚物の中に、手を入れた。
顔を、しかめながら。
でも――
やった。
◆ 共同作業
数時間――
全員が、汚物の中で働いた。
魔石を、探す。
見つける。
集める。
汚れている。
全員が、汚物にまみれている。
レイモンドも、ヴィクトリアも。
トーマスも、エマも。
兵士たちも。
フェリックスも、リディアも。
おっさんも、セシリアも。
全員が、同じ。
身分の区別は、ない。
みんな、汚物にまみれている。
みんな、必死に働いている。
レイモンドが、魔石を見つけた。
「……あった……!」
おっさんは、微笑んだ。
「……よくやった……」
ヴィクトリアも、見つけた。
「……私も……!」
セシリアが、褒めた。
「……素晴らしいです……」
トーマスとエマも、たくさん見つけている。
兵士たちも、頑張っている。
全員が、協力している。
身分など、忘れている。
ただ、一緒に働いている。
◆ おっさんの教え
休憩の時間。
全員が、座っている。
汚物にまみれたまま。
でも――
誰も、文句を言わない。
おっさんが、語り始めた。
「……お前たちの国にも、下水があるはずだ……」
「……汚物を、溜めておく場所……」
「……処理する場所……」
留学生たちは、頷いた。
「……はい……」
おっさんは、続けた。
「……そこは、宝の山だ……」
全員が、驚いた。
「……宝の山……?」
おっさんは、頷いた。
「……ああ……」
「……汚物の中には、魔石がある……」
「……それだけじゃない……」
「……汚物そのものが、宝だ……」
「……肥料になる……」
「……エネルギーになる……」
「……全てが、資源だ……」
おっさんは、手に持った魔石を見せた。
「……この魔石で、俺は財を成した……」
「……汚物を肥料にして、街を発展させた……」
「……魔素を抽出して、エネルギーにした……」
「……全てが、汚物から始まった……」
おっさんは、留学生たちを見た。
「……お前たちの国でも、できる……」
「……下水を、宝の山に変えられる……」
「……でも、それには……」
「……身分など、忘れないといけない……」
「……汚物にまみれる覚悟が、必要だ……」
「……貴族だから、平民だから……」
「……そんなことは、関係ない……」
「……みんなで、働く……」
「……それが、発展の鍵だ……」
◆ レイモンドとヴィクトリアの変化
レイモンドが、小さな声で言った。
「……すみませんでした……」
ヴィクトリアも、俯いている。
「……私も……」
でも――
まだ、完全には変わっていない。
トーマスやエマには、直接謝っていない。
ただ――
少しだけ、変化の兆しが見える。
おっさんは、それを感じた。
(……まだ、完全じゃない……)
(……でも、第一歩だ……)
(……これから、だな……)
◆ 浄化
作業が、終わった。
たくさんの魔石が、集まった。
全員が、汚物にまみれている。
臭い。
汚い。
疲れている。
おっさんが、言った。
「……よくやった……」
「……では、浄化をする……」
セシリアが、前に出た。
聖女の力。
浄化の魔法。
セシリアは、手を掲げた。
白い光が、溢れ出る。
優しい光。
光が、全員を包む。
汚物が、消えていく。
体から。
服から。
臭いも、消える。
みんなが、綺麗になった。
レイモンドとヴィクトリアは、驚いた。
「……これが、聖女の力……」
おっさんは、説明した。
「……セシリアの浄化の力だ……」
「……いつもは、作業前に浄化する……」
「……そうすれば、汚物に触れずに済む……」
全員が、驚いた。
「……え?……」
「……先に、浄化できたんですか?……」
おっさんは、頷いた。
「……ああ……」
「……でも、今回は敢えてしなかった……」
レイモンドが、聞いた。
「……なぜ……?」
おっさんは、真剣な顔で答えた。
「……お前たちに、本物を体験させたかった……」
「……汚物に、直接触れてほしかった……」
「……浄化された汚物なら……」
「……ただの、綺麗な作業だ……」
「……でも、本物の汚物にまみれることで……」
「……分かることがある……」
「……身分など、関係ないってことが……」
「……汚物の前では、みんな平等だってことが……」
全員が、沈黙した。
おっさんの言葉を、噛みしめている。
ヴィクトリアが、小さな声で言った。
「……ありがとうございます……」
レイモンドも、頷いた。
「……分かりました……」
でも――
まだ、完全には変わっていない。
おっさんは、それを分かっている。
(……まだ、時間がかかる……)
(……でも、いい方向には向かっている……)
◆ おっさんの言葉
おっさんは、全員を見た。
満足そう。
「……よく、分かったな……」
「……これが、俺が教えたかったことだ……」
「……身分は、ただの肩書きだ……」
「……大事なのは、何をするかだ……」
「……汚物にまみれても、働く……」
「……それが、尊いんだ……」
おっさんは、立ち上がった。
「……さあ、もう少し働こう……」
「……そして、グリーンヘイブンに帰る……」
全員が、立ち上がった。
笑顔で。
汚物にまみれているが。
でも――
幸せそう。
身分の壁が、壊れた。
みんなで、働き始めた。
◆ 帰路
夕方――
作業が、終わった。
たくさんの魔石が、集まった。
全員が、疲れている。
でも――
達成感がある。
馬車で、グリーンヘイブンに戻る。
馬車の中。
レイモンドとヴィクトリアは、静かにしている。
考え込んでいる様子。
トーマスやエマとは、まだ距離がある。
でも――
以前のような、露骨な軽蔑の目はない。
少しだけ、変わった。
おっさんとセシリアは、それを見ている。
セシリアが、小さな声で言った。
「……少しだけ、変わりましたね……」
おっさんは、頷いた。
「……ああ……」
「……でも、まだ完全じゃない……」
「……これから、だな……」
セシリアは、おっさんの手を握った。
「……コウタロウさんなら、導けます……」
おっさんは、微笑んだ。
「……時間がかかるかもしれないが……」
「……頑張る……」
おっさんは、窓の外を見た。
夕日。
美しい。
(……下水道……)
(……俺の原点……)
(……レイモンドとヴィクトリアも、少しずつ変わっていく……)
(……焦らず、見守ろう……)
グリーンヘイブン。
下水道での教訓。
おっさんとセシリアの出会い。
グリーンヘイブンの原点。
全てが、汚物と魔石から始まった。
レイモンドとヴィクトリアは、少しだけ変わった。
完全ではない。
でも――
第一歩を踏み出した。
身分の壁を、壊し始めた。
留学生たちの物語は、続く。
(次回:第71話「新たな絆」に続く)




