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「お前はバグだ」と断罪された令嬢ですが、10年前の「カラス」様との約束を果たします。  作者: ちゃこ太郎


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「まあ、なんてひどい……!」

「セシリア様、お可哀想に。」

「やっぱり、オルトリンデとなんて……。」


 広がる噂。相変わらず悪趣味な色のドレスを纏って、おしゃべり。口元に浮かべた笑みは扇で隠すことも忘れずに。


 ――そう、私は今、可哀想なのよ。


 だって、私を愛している殿下は、オルトリンデとの国交のために我慢を強いられているのだから。勿論、可哀想でしょう?

 ロイスター伯爵邸でのお茶会。足を庇うような仕草で歩けば、仲良しのアシュリーたちが大きな声で心配の声をあげる。それに共鳴するように周囲もざわざわと騒ぎ始めた。


「どうされたのですか、セシリア様!」

「嫌だわ、アシュリー……そんな心配しなくても大丈夫よ。ちょっと足を怪我してしまっただけなの。お騒がせしてごめんなさいね?」

「そんなにも痛そうに……。」

「大丈夫なのよ、本当。ちょっと、靴に針が入ってしまっていて、それをうっかりそのまま。恥ずかしいですわ。」


 言葉を濁し、扇の隙間から見せる少しの涙。最大限に可哀想を演出すれば、周りは勝手に考えてくれる。私が直接言葉にしなくとも、「誰が」やったのかを。


「セシリア様、どうぞこちらにいらして。」

「あら、ジェシカ。ありがとう。」


 主催者であるロイスター伯爵家のジェシカが私を手招きする。誘われるままにアシュリーたちを連れてジェシカがいる席へ。噂好きの彼女のことだ。先ほどの話に加え、今までのことが気になって仕方ないのだろう。

 席に着いて早々、話題の中心は私のこと。殿下との関係はもう公然の事実となりつつある。そして、オルトリンデの姫の醜悪な実態。溢れ出そうになった笑いを手元の紅茶で飲み込んで、悩ましげな表情を作った。


「どうしてオルトリンデの姫なんかと婚約なんてしたのかしら。」

「オルトリンデの皇帝が無理に押し切ったと聞きましたわ。」

「ひどいわ……殿下とセシリア様はこんなにも想い合っていらっしゃるのに。」

「仕方のないことです……それに、そんな風にエーデルガルト姫のことを悪く言ってはいけませんわ。」

「セシリア様……!」


 私はずっとこの社交界で生きてきたのよ。そして、生き抜くために必要な術は学んできた。あなたたちの理想通りに演じてあげる代わりに、私の思惑通りに動いてもらうわ。


「セシリア様、お聞きになりました?」

「あら、どんな話かしら?」

「オルトリンデの姫、カスティエル殿下に相手にされないからと、あの、アルマール様を誑かしているという噂ですわ。」

「まあ、それは。」

「アルマール様は誰にでもお優しい方ですから、きっと同情してくださっているだけですわ。」

「そうですわ。それを利用して良い気になっているオルトリンデの姫が悪いんですよ。」

「ね、セシリア様。」


 沢山の目がこちらを一斉に見た。紅茶を一口口に含み、眉尻を下げて笑えば、誰もその話題には触れなくなった。私は知っている。ここで明言すれば、面倒なことになることも、しないことでみんなが好き勝手に妄想してくれることも。だってみんなお好きだもの、人の不幸、というやつが。


 ――それにしても、初耳ね。


 まさか、あの、アルマール様がエーデルガルト姫を気にかけていたなんて。あの方は、私のことを素敵だと言っていた割に、私との接触は当たり障りのないことばかり。私は特別なはずなのに。

 あの子のどこがいいのかしら。お茶会にも呼ばれないほど社交性がなくて、殿下には呆れられてばかり。国母としての資質を疑うわ。……でも、侍女長だけはあの子の肩を持っていたわね。


「……面白くない。」

「え?どうかされましたか、セシリア様。」

「いえ、何でもないわ。」


 口から溢れた本音をアシュリーが目敏く拾う。二杯目の紅茶を少しだけ飲んで言葉を溶かせば、にっこりと微笑み何でもないと嘯いてみせた。

 完璧な淑女と称される私の微笑みを前にして、周りは頬を染めて感嘆する。ほら、やっぱりこうでなくちゃいけない。私もあなたたちも、殿下も、あの子もアルマール様も。ちゃんと決められた役割をやらないと。


「そう言えば、セシリア様が王宮に居を移されたとお聞きしましたわ。」

「……ええ。殿下がどうしてもと仰って。」

「一時も離れたくないんですわね。」

「そもそも遅すぎるぐらいですわ。もっと早く殿下が動かれていればオルトリンデとの婚約もなかったでしょうに。」

「仕方なかったんですわ。殿下には殿下の事情がございますもの。……でも、怖いわ。」


 頰に手を当て、小さく溢す溜め息。震えたように見せた私の手を握るアシュリー。手の甲に柔らかな肌の感触を残して離れていきそうになった手を握り返す。私を見つめるその瞳が崇拝の色を灯したのを見て、まるで独り言のように憂いを帯びた声色でぽつりと落とす言葉たち。


「私、殺されるかも、しれませんわ……。」

「え……。」

「……あ、ごめんなさい。何でもないの。」

「でもっ。」

「戯言と思ってどうか忘れてくださいな。」


 嘘は何一つ言っていない、私は。もしかしたら、本当に私はあの子に殺されてしまうかも。でも、そうなった時はきっと私は全部を手に入れられる。殿下の心も、周りの同情も。あの、アルマール様でさえ、あの子を軽蔑し、素敵な私に涙をするわ。


「私、そろそろ帰りませんと。」


 立ち上がる私のカーテシーに息を呑む面々。くるりと踵を返して、振り返りもせずに歩き出せば、背中越しに聞こえてくる可愛い囀り。笑い出しそうになるのを何とか飲み込んで、馬車に乗り込めば、扉が閉まると同時に堪え切れなくなった笑いが溢れた。

次回「裏切り者」は明日21時頃、

続けて「恋だった。」を22時頃更新予定です。

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