16.願わくばーーーー
あと少しだった。あと少しだったのに……。
暗く湿った洞窟の中。眩しい外に出ることもなく、ただの力の残骸として存在する私の前に彼は一人の少女を連れて現れた。
どうしてでしょう。彼は何故戻って来てしまったのか……。彼が森を離れて十数年。
自らの力で蛇達のいる森を癒すこと、役目もあと数年……というところだったのに。
トルニテアには存在しないはずの私の力を受け入れられる器を本当に用意してくるなんて……。
彼の連れてきた女性に名を尋ねると彼女は緑川ヒノと名乗った。黒髪に黒い瞳。まず、トルニテアには存在しないもの。
きっと、トルニテアの外から無理に連れて来たのね。父なる始まりの神の理に触れない者……つまり、簡単に還す事もできないでしょうに。同意もなく無理矢理連れられて来たヒノは今後どれほど辛い思いを抱えて過ごさなければならないのか想像するに容易い……。
彼は他者の犠牲を払ってまで私の消えてしまいたいという願いを阻止したいようね。
その行為に愛しさを感じることもなく、ただただ冷静な判断を下す自分がいる。
また、永い時を朽ちることなく過ごしたくはない。此処に私の求めるものはないのだから……。
私の力を受け入れる事が出来る器を用意したら足掻くと言ったのは事実。けれど、その器を使って長らえるとは言ってないのだから、力を渡して消えてしまうのも一つの手段ね。
彼は私に裏切られたと思うかしら?
人の頃に裏切りに慣れてしまった彼が、今、唯一心を許す存在。
でも、私の代わりは既に目の前に居るわ。
少し言葉を交わしているだけでヒノが何処か白蛇の彼、そして、私に少し似ている事が伝わってくるの。
何処か無気力で落ち着きがあり静か。他者への期待、そして興味が持てない。
だからでしょうね。彼が彼女を選んだのは。
私には出来ない事がきっと彼女には出来る。
だから…………。
そっと、ヒノに触れる。力の移行で彼女に負担をかけないように……。
ヒノと私の力は思うよりずっとなじみがよくて、溶け出すように混ざり合うように私と言う存在が薄れていく。
今後、私のいないアドレンスはきっと変期を迎えるのでしょう。
末の妹も私が消えるとまでは思ってないだろうから。
ただ、願わくばーー
この先の未来に彼女と彼に幸が在らんことを。
私が消えるまでのお話は……コレでおしまい。
初投稿より約一年。16話にこんなにかかるとは思わなかったですけど、無事終える事ができました。長編【面倒ですが神様救ってみました】のストーリーに関連するお話なので、興味のある方は其方も覗いて頂ければ幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




