12.末の妹への愛
アドレンスの城に兄……力の神が訪ねてきたのは外気を肌寒く感じ始めた頃。
「妹よ、先日の宴に其方が参加していなかったから心配していたのだ」
瞳を細めて眉毛を下げる。わかりやすく心配している表情をする兄の隣にはウェンディが立っていて、神同士ゆえに兄の心は読めないけれど、ウェンディの心の声はスッと頭に入ってくる。
「(以前より随分と表情が暗い……。きっと人の世界に疲弊されていますのね……)」
「随分とお疲れのようですわ……」
心と言葉が一致していて何処か安堵する。この城の中は心配をする様に見せて不幸を願う者も多くいて、その願いを毎日のように拒否権なく聞かされていたらおかしくなりそうなのだ。
私は存在していてはいけないのだろうか?
馬鹿な事を考えてしまう。蛇達を管理するために存在させられているというのにね。
「……えぇ。何というか。すごく疲れていて」
神々の世界に行く気にはなれなかったの。
「そうか、しっかり休んで元気にならねばな。其方も体を鍛えてみてはどうだ??」
「それはとてもいい考えですわ!」
「……遠慮しておくわ」
そうか。と、力の神は残念そうに項垂れた。
「此度生まれた末娘には父よりネヴェルディアと名が付けられた。この大地には降りず両親のもとで育てられるらしい」
地上に降りる役目を与えられなかったネヴェルディアは、両親の愛玩用に作られた女神なのだと思う。
今まで誰にも名前なんて付けてくれなかったのに……。
ハッとした。
妬み嫉妬。それに似た感情が私の中にある事に驚き、そしてすべてが悲しくなった。
心の中で何かがガラガラと壊れていく。
「白い髪で子供のような風貌の娘だったぞ」
「白……」
ダリスと同じ色。
「………………」
「妹よ! 一体どうしたというのだ」
気づけば瞳から涙がボロボロこぼれ落ちていた。
「私……もう、ダメみたい。森に戻るわ。そうしないとおかしくなりそうなの」
いいえ、もうおかしいの。
「そうか。そうしたいのならその様にするといい。寂しくないように其方も使いを側においてはどうだ?」
首を左右に振る。
人の心を見たくない。
神の使いの心はわかってしまうから。
側にいて欲しい人を人ではない存在にする事は気が引ける。ダリスは王で我が子は王子で……どんなに心で願っても彼等の時を止める事は出来ない。
「でも、私を忘れないように祀ってくれる人間は近くに置こうと思う」
「ほう。それはいい考えだな」
優しく抱きとめてくれる兄の胸の中、あるべき形へ戻ろうと……そう決心した。




