11.おかしな生き物
赤子とはおかしな生き物だ。
他人の補助が無ければ生きてゆけない不完全な存在。なのに己の欲求を他人に伝える術をもたず泣き喚くことしかできない。
「子育ての事なんて何も知らないはずなのに不思議とリザは子守が上手いわよね」
腕の中の赤子を寝かしつけながらナディの小言を聞き流す。ナディはこの子を作った直後の事を今でも時々口にして私を揶揄うの。
この子が私に懐き大人しくしていてくれるのは、きっと口にして表現出来ない感情を私が感じ取れるから。
眠たいだとか、オシメの不快感だとか、空腹感。言葉を理解していなくても単純で強い願望は容易く私に届く。
不思議と愛着が湧いて手放したく無くなるのだから本当に厄介な存在だと思う。いつまでも人の国に居るつもりなんて無いのに、可能な限り側に居たいと思ってしまう。
情が移っている?
そんな事はない。
時間はあっという間に過ぎて、這いだしたと思えば歩きだし、言葉を発しだしたと思えば言語を操り出す。
片手で抱える事ができていたのに、12歳の頃には私とそう変わらない背丈になった。
黒い髪と金色の瞳。ダリスに良く似たその姿。この子がいずれはアドレンス王国を治める事になる。
「ねぇ、なぜ母上はカトリアンクスの令嬢と同じ年頃に見えるのです?」
カトリアンクスの令嬢というのはナディの子供ね。彼女は今年で14歳になったらしいけれど……。
私の姿が生まれた時より変わらない理由は人間ではないから。老いを知らない私にはどうしようもない事だ。
私と違いダリスは随分と歳をとった。だから、並ぶとより私の姿は異様にうつるの。
「さぁ、何故かしら」
微笑んで誤魔化すけれど彼の不安は拭えないわね。歳をとらない私の事をバケモノだと……誰かが言っているのを耳にしたようだ。
人間は自分と違うモノを恐れる。そして排除しようとする。私自身、似たような人間達の心の声を何度も聞いた。
アドレンス王国の建国以前より貴族だった家臣達には、私もダリスもすこぶる嫌われている。勿論、彼等も表面に出す程愚かではないけれど。
神。それは、敬われ、尊ばれ、崇められる存在。……のはずなのに、人に知られて居ない時はまるで無いもののように。けれど、人の中にいてはバケモノと呼ばれる……。
どうして私はそうなのかしら。
アドレンスを豊かにする為に土地も豊かにしたし、神々の気まぐれによる天災からも保護した。けど、人知れずやった事に評価は伴わない。当然だけど……。
「僕は……本当に……」
人の子なのか。
随分と思い詰めているみたいだけれど、人間には違いない。それは間違い無い。
ただ、私の子供かと言われればある意味はそうで、ある意味では違う。
潮時なのかしら。
ダリスの生きている間だけと思っていたけれど……私を母と慕う子も愛おしくて仕方がない。
「私は人間ではないわ。老いも知らないし、死ぬこともない。貴女が人生を全うした後も貴方の子や孫…….その先の子孫もずっと見守ってあげられる。そういう存在。でもね、貴方はまごうことなきダリスと私の子供よ。特別な存在」
泣き出しそうなこの子を抱き寄せて優しく頭を撫でた。
あたたかい。
この子の未来に幸が在らんことを願う。




