18
内容が少し浅いような…と思いながらどこかで導入できないかなぁと考えて書いています。
そうこうしているうちにアリスィアが乗る馬車は北条家へと着いた。
北条明音が降り自分もまた降りると執事は馬車を引き
その場から礼をしたのち去っていった。
軽く会釈した自分は明音に言われるがまま中に入る。
ドアを開けて見えた広い玄関ホールには油絵や絵画などが飾られている。
明音さんはそのまま玄関ホールにある二階への大きな階段を上っていく。
アリスィアも続けて上り玄関ホールを前に見て右、の部屋へと案内される。
どうやら応接室のようで馬車同様のふかふかの椅子に腰かけると明音さんが口を開き
「じゃあ仁亜を呼んでくるから待っててください。
あ、コーヒーと紅茶ならどちら飲みます?」
「メイド…給仕人は雇っていないんですか?」
「別に不自由でもないし雇うことはありませんよ。
自分でやれるものはやる!働かずもの食うべからず、
って言うじゃないですか。それといっしょです。
でコーヒー、紅茶…どっちにします?」
「…コーヒー、ミルク砂糖多めで。」
砂糖とミルクはお持ちしますよと明音さんは笑いながら
ドアを閉め足音が段々と遠のいていくのを音で確かめてから自分は席を立った。
別に何かを探したりするわけではないけれど、やっぱり紅茶が良かった?
なんて言われても困る。だからこそ相手が去ったあとに行動したほうが
良いというものだと自分は考えている。
立ち上がって部屋の窓に行くとそこからは庭の様子が見えた。
庭の一角に先ほど馬車で送ってくれた執事がユニコーンの世話をしている。
「…給仕人は雇わないのに執事は雇うのか。」
「―そりゃやってることが違うもの。
ユニコーンの世話なんて騎士以外でやれる天使はそう少ないからね。」
いきなり聞こえた声にハッと後ろを振り向くと北条明音ではない
いやそれよりも遥かに背が小さい子がドアを開け自分に返答した。
背が小さいというのだけで判断したわけじゃないが
アリスィアは若干の思考停止があった中彼女こそ北条仁亜だと分かる。
「あ…えと北条仁亜さん…?」
「ええ、初めまして。フォティアからあなたのことも含めて聞いているわ」
仁亜さんがそう会釈すると同時に開かれたドアに明音さんが姿を現した。
コーヒーの香ばしい香りにダージリンの良い匂いのする紅茶。
付け合わせにクッキーを添えそれをプレートに乗せ応接室に入ると
仁亜さんは椅子に腰かけ明音さんは仁亜さんの横に座る。
自分も対になるように座ると明音さんは自分の前のテーブルに
コーヒー、砂糖ミルクを付け合わせに置くと
自分のところにコーヒーを置いて立ち上がり
プレートを近くの机に置き戻って座る。
「よいしょっと。
ふぅ……あ、どうぞ♪」
明音さんはそうニコッと笑うと横の仁亜さんもまた微笑み紅茶に口づけ飲む。
自分もまた礼をしつつミルク砂糖を入れ飲む。
丁度良い甘みと苦みを口の中、のどに入れると自然と笑みが零れた。
「おいしい…」
「それは良かったです♪」
またコーヒーを口にすると自分の目の前の仁亜さんは早速、と声を発し
「まずは友人、フォティア・マグナムを
助けてくれてありがとうございました。」
「あ…良いですよ別に。
色々明音さんから伺いました。
…本当の意味で助かったわけではないんですから」
「いえいえ、命があるだけマシですよ。
命があればチャンスがありますし。
それであなたは私に何か用があると明音から聞きましたが…」
その言葉にああ、と思い出したかのように自分は言葉を紡ぐ。
「実はできればの話なんですが、
治癒魔法を通じて失われた記憶を取り戻す
ということは可能なんですか?」
「記憶…?アリスィアさんは記憶喪失者なんですか?」
「いえ、それすらわかりませんが…親の名前を知らずに
聖騎士団に入ったことは確かです。
でもどうしてかそれまでどうやって生きてきたかが思い出せないんです。
どうしてかは自分にも分からないんですが…」
分からない。
これが自分が今出せる答えだった。
とはいえ別に思い出さなくても良いだろうという思いはある。
忘れたのではなく忘れることにしたのであれば
思い出さなくても良いのだろうし。
まぁそれが何なのかは自分にもよく分からない。
とにかく今自分にできることはただ一つ。
2週間という休暇を使いこのもやもやを解消できるかどうかだ。
治癒魔法を通じて思い出せるのならそれに越したことはない。
自分がこれから生きるためにも知っておいても良い判断だと自分は考える。
思いつめながら自分がそう決心を固くしたところで仁亜さんは自分に対し
訝しむような顔で見ては考えるように悩ませを繰り返している。
「……アリスィアさん。」
ようやく何かの決心がついたような顔で仁亜さんは口を開いた。
自分はもし出来なかったら…という考えがちらりとよぎるがでも
それでも期待を胸にはい、と返答した。
「まず率直に申し上げます。
過度な期待はしないでください。」
「…と言いますと…?」
「あなたが引き起こしている症状はおそらく"解離性健忘"という病気です。」
病気、という単語に
"かいりせいけんぼう"という聞いたことのないフレーズ。
仁亜さんは疑問符を浮かべる自分に対し
"解離性健忘"という病気について話し始めた。
解離性健忘…様々な要因で記憶障害を引き起こし
うつ状態にならずに記憶が損傷し
記憶喪失になるというものだった。
脳内に刺激を与え神経細胞を活性化する治療が存在するらしいが脳への治療法、
そしてそれについての治癒魔法の研究はほとんど進んでいない。
症例が少ない…引き起こすこと自体珍しいものであるし
またよく知られていないために
十分に把握されていないのが現状だという。
「この病気は主にストレスが原因です。
嫌なことを忘れようとする自己防衛機能がはたらいて
その出来事以来の記憶だけが損傷、
記憶を喪失したり…失礼ですがあなたが思い出せる記憶の始まりを
見させてもらっても良いでしょうか?」
「えっ、見るっていうのは……」
それは私から説明するよ、と明音さんが代わりに話し始める。
治癒魔法のみを研究する仁亜さんとは違い明音さんは精神系の魔法を
研究しており、話によれば精神系の魔法を利用することで相手の記憶を映像として
映すことができるそうなのだ。
明音さんのおおまかな説明が終わると仁亜さんは
「見てからそれが本当にその病気なのかが判断できるだろうし、
もしも場所が映ってるならそこに行けば何かあるかもしれない。
どうします?アリスィアさん」
「…ええ、お願いします。ちなみに音はどうなるんですか?」
「えっと…音もあれば出るかと思います。
またプライバシー的なものもありますし奥深くまでは見ることはないので
アリスィアさんによりますが…分かりました。
ではそれで研究を始めるとしましょう。」
仁亜さんは立ち上がり右手を自分に差し出し自分はその手を取り
研究に付き合い自分の記憶と向き合うことを決めた。
そして案内された部屋はどこか見たことのあるウッドハウス調の部屋だった。
そこには水色の尻尾と耳を生やす何かが動いていた。
目を凝らしてみるとそれは人型のようでこちらに気付くと明音に
駆け寄りぎゅっと抱きしめる。仁亜さんに自分は抱きしめる子について訊くと
「ああ、彼ね。
明音が連れてきた子らしいのだけれど…」
「!」
仁亜が首を傾げながら準備をし始めるのを背にその子は自分に驚いたように
近づきそしてくんくんと服や体を嗅ぎ始める。
明音さんがああっと近づき自分からその子を離すとしゃがみ髪を触りながら
「紹介しますね。
この子はシャルマント・スキウロス…リス型の獣人です。
色々と研究を手伝ってもらってる私のペットです。
ペット、と言っても身寄りが無いから私が預かってるんですけど…
なんか放っておけなくて研究等を手伝ってもらってます。」
ほら挨拶!とスキウロスの髪を撫でると仁亜同様に低い背の子は
自分に抱きしめてから挨拶をする。
「はじ……めっ…まし…てっ!」
言葉はまだ覚えたてのような感じだった。
自分は頑張って出したスキウロスを褒めながら挨拶を交わす。
スキウロスは水色と白銀の髪がそれぞれ二色分かれたポニーテールに
白銀の耳と尻尾がついている。
正直言って初見であれば女の子と言っても通じるくらい女の子顔だ。
服も白と水で統一しており脳裏に焼き付くくらいはっきりしている服装だ。
と、まじまじ見るのも失礼だろう。
研究用の椅子に座り専用の器具を頭に嵌める。
そして一応固定のために椅子の固定用器具を手足につけると
明音さんはカウントダウンを始める。
0になれば器具から精神系の魔法が発動、注入する形で記憶の展観が始まる。
仁亜さんは治癒魔法で念のために回復を準備している。
発動すると眠りにつくらしくそのまま起きれば研究は終了だそうだ。
「…!どうしたんですか?スキウロス」
スキウロスがカウントダウンが近いなか
ひょこっと顔を出し顔は自分にしか見えない
状態で近づける。仁亜や明音さんはいつものような感じで宥めている。
また両者手が離せない状態だった。
「いい…たいこと……言わなきゃいけない…こと。」
「?」
「…………あ。思い出した。アリス…から伝言。
次起きるときは"ちゃんと……"」
思わず後ろに引くように動く。
スキウロスが発した言葉に驚きもした。
だがそれだけじゃなかった。
顔の口がありえないほど開きギザギザの鋭利な歯が見えている。
唾液が何か獲物を見つけるように滴っている。
やばい。何かがある。
そう直感で思い自分は身体を起こすように声を荒げる。
「スイッチを止め――」
「"……思い出してね??"」
意識は途切れた。
途切れた意識の中は何もない。
暗闇だけが舞っている。
声も出せず何も考えられない。
でも心臓の音だけは確かに聞こえた。
ゆっくりと
ゆっくりと
ゆっくり…と。
・
目覚めた場所を確認した自分はやけに身体が痛いことに気が付いた。
手足が冷たく寒い。
目覚めた先は見慣れた…また何故ここに自分がいるのかという違和感。
頭が重い、仁亜さんは治療してくれるのだろうか……
眠い。でも眠っちゃだめだ。
目を擦ろうとしてそして自分が今どんな状態でいるのかを悟る。
「え…」
手は上に足は下に壁に固定されそして目が見えないということは
目隠しでもされているんだろう。
淡く漏れた光を見るとそこにはスカートの女性が立っていた。
「おはよう、アリスィア。」
「……君は……アリス…?」
「あら、何度目かは忘れたけれど覚えておいてくれたのね。
嬉しいわ。」
「自分は…何が…はぁ……」
思わずため息が零れる。
それにふふっと笑うアリス
何がおかしいのかそれを訊く気力すら今の自分には無かった。
「さすがに疲れたかしら?」
「ああ。何度も目覚めては違う場所にいる。
いちいち反応するのも疲れた。
もう自分は寝るよ。」
「ふふっ…寝るのねぇ……そうだ。
スキウロスの伝言聞いてくれた?」
「……」
記憶はまだ鮮明だ。
眠る前の記憶だからこそ真新しい。
何を思い出せと言うんだ。もう十分だ。
十分だ……。
「そう。
まあ記憶はまだ"あなただけ"思い出せていないんだし。
そうだ、明音とは会った?
自慢の娘だから会ってほしかったのだけれど…」
「……は?待て。
アリス今何て…」
「でも無理なのよね。
あなたの記憶が調べられた今、私もあなたもそして明音も。
死刑が決まったのだから。」
死刑?明音さんも??待てどういうことだ。
何があった。自分が寝ているうちにまた何かが起こったていうのか?!
「待てアリス!聞かせてくれ!何があったんだ?!」
「そんな急を要するものじゃないでしょう?あなたにとっては。
明音は赤の他人で、あなたは何も思い出せない。
私との約束も…ね?私はさ……あなたのためにも行動を起こしていたのに
結果的にほとんどが台無し。
だからちょっとした仕返しをするね?―――"キーム"」
すると風が吹き人影がもう一人増えるのを目隠しの状態で確認する。
アリスはもう…と言いながら自分の目隠しを取る。
するとそこには上から吊るされたランプだけが唯一の光として揺れていた。
目の前には予想通りアリスとキームがいた。
場所は天界審問会の地下牢屋だろうというのが分かる。
場所と状況をどことなく理解する。
多分自分の記憶を思い出させそれが問題となった…だが引っかかりがある。
「アリス…仁亜さんは…」
「は?知らないわ。
ニアって誰?私は魔法師団長によって
捕らえられたあなたを面白がって
ここに来ているんだし。ああ、これ」
とアリスはそれを見せる。
魔法師団直轄天界審問会の役職、
自分自身がこれまで働いてきた分の給料を引き出すための
魔法師団の刻印がついた認証カードだった。
「魔法師団の刻印の中に媒体が入っててね?
アナスタシオスっていう私の部下に調べてもらったら
音を回収して送信する小型の機械が込まれていることが分かったわ。
で、それを送信している先が…魔法師団長だった。」
ああ、これは取り除いたからとアリスは自分に渡す。
だが安心はできない。
つまり自分の中にある記憶がありそれが伝わり死刑になったということだ。
「記憶って言うのは封じ込めてしまうもの。
でも脳自体は覚えている。あなたは封じ込めてしまったのか、
もしくは消えてしまったか。
理由はどうあれ今は思い出せないのよね?
……キームの銃の説明は聞いた?」
「えっ…―――っ?!!!」
するとキームはどこからともなく
取り出した銃で自分の頭に突きつけた。
「悪いな、これはアリスの命令だ。」
「弾は…」
勿論入ってる。
とトリガーを引こうとする。
確か罪の意識がなければ撃てないはずだ。
「待ってアリス!何があったのかちゃんとせつめぃ―」
ガギィンッッッ!!!!
という壁に弾が当たる音に血しぶきがキームにかかる。
キームはわり、と呟く。
アリスは微笑しながら空間を裂いて空間転移を始める。
良いのか?というキームの声にアリスはええ、と呟きそこを後にした。




