16
1話で1万文字行きそうだったので16と17話に分割しています。
上から上下関係順です。
エクリクシィ・ホープ
クロヌ・ハーヴェスト
~(これより同期メンバー)~
フォティア・マグナム
ルーナ・ブリトネス
アリスィア・ソルド
スキロス・フィラカス
エクリクシィの頭を謎の笑顔で掴み退場するクロヌさんのその光景を見届けた、
アリスィアは自分自身の身体を触り確かめる。
どうやら異常という異常は無いらしい。
いくつか絞り出して答えるならば…
まずは一つ目記憶がないことだ。
記憶が無いと言っても審問会の後自分は眠り一度は
意識も呼吸も完全に止まったらしいが
その際に見た記憶…夢というやつだろうか。
それがない。まるで本当自分自身が審問会の倒れた時に
どこか別の場所に行っていたかのように。
まあ無いからと言ってもたった数十時間の出来事だ。
その間に何か起こっていたとかそういったことは聞いてはいないし
問題ではないだろう。二つ目は傷…だ。
クロヌさんにさっき話したときのこと。
エクの護衛任務時、自分はエクを護りまたフォティア、ルーナが加勢していた。
あとで駆け付けた事情を知らないクロヌさんにはかなり誤解されたのだが
あのとき自分は襲撃者により手首を少し掠っていたのだ。
すぐ治るだろうと放っておいたのだがその傷が
元から無かったように綺麗さっぱり消えている。
手術はしていないと聞くが外傷だけは確かめたはずだ。
自分は不思議に思い治療師に尋ねると驚くべき答えが返る。
「いやあ…外傷もないからびっくりしちゃったよ。
どうしてあのとき倒れたのかも私には分かりかねるよ。」
「…そうですか。……ありがとうございます。」
外傷もないという言葉、それはつまりすべての傷が無いという根本的な問題だった。
傷が無いということはまずそれに関わる症状自体起こらないということだ。
……傷が無いのにどうして自分は倒れたりなんかしたんだ?
審問会に現れたコールド・ペインという堕天使に
聞けば分かることだがそこまでして
聞く必要はない。それに天使が堕天使と会話することは
天界の規律に反する行為だ。
偶然ならまだしも故意であれば重罪確定。
審問会に所属する自分すら危ぶまれる。
ならば…傷に詳しい天使にでも相談しようか?
でも傷に詳しいかもしくは回復系統を
主に扱う天使に聞ければ幸いなのだが。
自分はまだ明るい空を見つめ素早く身支度を済ませると
そのまま自分の病室を後にする。
(そういえばクロヌさん、
フォティアのところに行ってくれとか言ってたっけ。)
そしてクロヌさんに聞いた病室へと運んだ自分は何やら中で誰かと談笑する
喜々とした声が聞こえてくるのを扉の前で耳で感じ取る。
コンコンっと音を鳴らし入るとそこには見覚えがない者と
フォティアが笑い話していた。
入ってすぐにフォティアは自分に微笑を浮かべた。
「ありがとう。来てくれたんだね。」
「ああ、邪魔じゃなかったか?」
ううん、と首を振るフォティアに立ち上がる
その女性はベレー帽を被っていた。
自分はその女性に挨拶をした。
「お邪魔なところすみません。
様子を見に来たので悪しからず。
アリスィア・ソルドと申します。」
「アリスィア…というとフォティアを守った方ですか?!
先ほどフォティアから聞きました!!!
ああ、申し遅れました私……」
そうベレー帽を脱ぐと綺麗な若干暗めの金髪。
碧色の目に水と灰色のフリルのついたドレスを身に纏った少女だった。
「北条明音と申します!明音とお呼びください。」
「明音…さんですね、分かりました。
自分のことは好きなように呼んでください」
そうお互い挨拶を交わしたところで上半身だけ
起き上がった状態のフォティアに話しかけた。
明音さんにはせっかくなので同席してもらうことにした。
「取り敢えず無事生きていて何よりです、フォティア」
「ん…まあ命があるだけ何よりだね。」
そうフォティアはいつものクールな表情とは裏腹に何かを見るような
遠い目で寂しそうに笑う。明音さんは事情を察しているのか真剣にだが
穏やかな目でフォティアを見ていた。
フォティアは生まれつき身体が弱いと聞いている。
魔法師団に志願したのは最もエクが原因を作ったそうなのだがそれは置いておき。
魔法師団学校の際に足の神経を痛める事故が起こったことがあった。
一命は取り留めたものの弱いせいか
足が時々痙攣を帯びて動かなくなることがあったらしい。
らしい、というのはクロヌさんと一度話したことがあったからだ。
エクには言うな、詮索させるなと止められたため
その本人には一切口にしていない。
話によれば足が動かなくなったとき
エクは一番に心配しそれが重枷となったことがあった。
正直もうその枷になりたくないと足のことは言わないようにしていたのだが
今回はどうやらそうではないらしい。
多分それ以上に重い何かになっている…?
「…足に何かあったのか?」
「……うん、もう動かないって診断された。
足の神経のほとんどが機能してないから最悪切るかもしれないって。
そういうことを…言われた。」
足をさするフォティアに対し自分は何も答えられなかった。
いや、ここは何も答えない方が正しいのかもしれない。
だって無くなったものは不思議な力とかが無い限り取り戻せないのだから。
「ごめん、つらいことを聞いたな。」
「良いよ、別に。
でもマスター…エクには自分から言うから言わないでほしい。」
そうフォティアは締めるとマイクを向けるようにじゃあ次はアリスィア、と
自分の名前が挙がる。目の中はとても悲しそうなのに無理に笑顔を作って
クールを装うフォティアはそう迫る。
「何もない?ただ様子見に来ただけ?」
「そうだな……ああ!思い出した。
名門家でもそうでなくても良い。
治癒魔法を重視した魔法師を知っているか?
どうしても聞いておきたいことがあってな」
するとフォティアは一拍おいてから答える。
まったくこんな状態の彼女に聞くのも億劫だし虫のいい話だ。
だがまあ今の自分の知るべきところ…とでも言おうか。
他人の目は気にしてられないというか…
酷いな…自分は。
「そこの北条明音の妹……仁亜って子なら分かるかも。
…明音予定空いてる?」
「了解っ!いつでも空いてるよん♪」
そう明音さんは格好つけるようにピースサインを送る。
確か北条家も有名な家門だったはずだがまさか二人娘とは。
聞いたことが無かったから少し新鮮だな。
案内させてあげて、とフォティアが言うので
自分と明音さんはそこで病室から出るのだった。
病室から出て少し歩いていると明音さんが口を開いた。
「治癒魔法は何か治したい子でもいるんですか?」
「えっ…まあ確かにいるといえばいるけど…?」
「今日私があそこにいたのはフォティアの足をどうにかして
動かそうって彼女と仁亜と私で話していたからなんです。
本当はこういうのって魔法師団や附属病院とかに声をかけてから
治療に専念するのが当たり前なんですが彼女はしたがらないんです。
―…何故だと思います?」
明音さんは片目を細め自分に若干振り向きながら呟く。
うん…?何故かと言われれば気になるがどうしてそれを自分に?
まさかその計画に自分も加われって…?
まあ同僚で友達だから分からなくもないけど…
「正解はエクにもう二度と大変な迷惑はかけられないから、だそうなんです。
ってあれ?気になってなかったですか?」
「…!いいやそんなことはないよ。
ちょっと考え事をね……それでどうしてエクが…あ。
…エクリクシィが関係してるのかな?」
「別に本人がいるわけではないですし呼び名を変えなくても
良いんじゃないですか?アリスィアさんはホープ家の養子だと聞いています。
なら普通に愛称で呼んでも。」
「本人にはそう言えって言われてるけどちょっと気が向かなくてね。
まあ結構言ってるけど。それはなるべく本人とその交友関係の前ではだよ。
明音さんは直接会ったことはある?」
ここであると言えばエクと愛称で話すことにするが明音さんは少し間を置いて
考えいや、と会ったことを拒否する。
自分は北条家ではあるけれどそうではないからと呟いた。
「あるけれどそうではない?」
病院の玄関に辿り着くとそこには馬車と執事のような人が立っており
自分の横の人物を見ると軽く会釈しそして馬車の扉が開く。
関係のない話だが馬車を引く馬は白に近い明るい灰色に白の毛並みを持っている。
魔法師団の聖騎士軍ともなればこういう馬ではなくユニコーンという
鋭く金色に輝く一本の角と翼を持つ神獣に代わるのだが街の交通手段ともなれば
こういう馬車が一般的でユニコーンは使用されない。
使用されるときはあるがそれは魔法師団長や元帥など
地位が偉く高い天使が乗ることとなっている。
魔法師団に働いている分ユニコーン以外の馬を見ることはさほど少ない。
そして綺麗な色の一瞬ユニコーンに見間違う馬だったので
自分は我が目を疑い二度見して執事に案内されるままその馬車に乗る。
中は赤い少しふっくらとした椅子で少し贅沢に見えた。
「さっきの話だけれど私、北条明音は捨て子だったそうなの。」
馬車の扉が閉まり発車するとそう話し始めた。
捨て子と言っても10歳のときに親も知らず
自分の名前だけを覚えている状態で天界にいたということだ。
「天界にいた、ということは天界出身ではないということですか?」
ええ、天界出身ではないと呟く。
だが明音さんは翼は生えているから天使であることは間違いがない。
ただ半分記憶喪失の状態でかつ10歳という年で孤独に天界に倒れてたという。
自分は"例の森の少女"が起こしている事件、つまり魔界や常界の孤児を連れ去り色々
な世界に飛ばしている事件を思い出しそれなのではと口を開く。
「そんな…事件が起こっているんですか…?!」
「…知らない?結構有名で、だからこそ"例の森の少女"アリスは
重罪人として名が通っているんですが…」
これは驚いた。
素直にそれを知らないとは。
嘘をついているわけではないから事実彼女は自分の境遇について
まるで理解していないのだとそう考える。
考えたそのとき自分はその考えが本当に正しいのか?と疑問に思う。
アリスが行っている事件は別の世界の孤児を別の世界に移すことだ。
どうやって移しているかは分からない。
だが彼女は天使なのだろう、ならどうして天界に?
アリスの事件で何が間違っているのかと言えば他種族を他世界に移すという点だ。
だが明音さんはどうだ?明音さんは天使、天界の原種族だ。
ならこれは違う世界で産まれた天使、明音さんを天界に戻したのでは…?
「そうだったんですね…なら私はそのアリスという人に連れてこられたという…」
「すみません、そういう事件もあるのだと言っただけで
別に関係があるかどうかは。
話に割り込んでしまって申し訳ありません。続きをどうぞ。」
そうアリスは明音さんに関与したのではない、と遠巻きに伝え彼女に
続きを話すよう促す。
すると明音さんはそうですね、と続きを話し始めた。
明音さんはその後宛もなく歩いていたという。
その後空腹で倒れ動けなくなり丁度雨が降ってきたとき、
自分よりも遥かに小さい背の傘を持った少女に声を掛けられたという。
「何か声を掛けられたのですが動けないし
お腹も減っててそれどころじゃなくて。
そうしたら馬車から複数の人が駆け寄ってきましてね。
怖かったんですけど傘の少女は心配そうな目で何やら話してました。」
目覚めたときは今でも覚えていると彼女は薄く笑い懐かしむ目で遠くを見つめた。
傘の少女は北条仁亜という自分と同年齢の女の子でその子の家のベッドで目を覚ました。
身よりがなく倒れていたことに仁亜は言った。
「『身寄りがないならうちに来ると良い』って言ったんです。
でも身寄りが無いからって居候とかいきなり居座るのもあれだから
すごく色々言ったんです。混乱してたから何を言ったのかは覚えてないんですが…
そうしたら『じゃあ自分の妹になってくれ』って。
そのあとは北条家の養子として仁亜の妹として居座っています。」
「そうだったんですね。つまり自分と同じ養子なんですか…」
「そうですね。だからか親近感湧いちゃって。
ああ、ごめんなさい!変なこと言って…」
いえいえ、と謝る明音さんに自分も少なからず
親近感が湧いていたのは確かなことだが
正直孤児であったり身寄りがなくて奇跡的に助けてもらうというのを
素直に喜ぶことは良心的にもできなかった。
「話が結構脱線しましたがどうしてエクが関係しているんですか?」
ホープ家や彼女の出生の話をしていたらいつの間にか本題から逸れているので
自分はその話に戻し始めた。
どうしてフォティアがエクにこれ以上巻き込みたくないと話したのか。
その理由を聞かないと正直もやもやが晴れないでいた。
「ああっ!!そういえばそうでしたねっ!!
私すっかり忘れちゃってました…すみません。
ええと…こほんっ。
どうしてフォティアがこれ以上エクを巻き込みたくないと言って
医療機関に自分の足の治療を任せなかったことの理由ですもんね。」
そう彼女はエクとフォティアの過去について自分が知らない
魔法師団学校時代の話へと遡っていくのだった。




