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第七話~三度目の私 後編~

これにて主人公視点の前世回想編はおしまいです。

 そして始まる私+幼馴染in王宮での生活。


最初は生活に慣れるのが大変だった。

礼儀作法とか規則とかは別に大した事なかった。多少違いはあれど、前(2度目の人生)の前世で散々やったからね。城に蔓延る魑魅魍魎共でも文句一つ付けられない究極レベルまで鍛え上げた我が外面に死角無しなのだよ。元々礼儀正しくて覚えも良い幼馴染もこの点では問題無かった。

 問題は人間関係だ。やっぱり私が危惧していた通り、王宮も一枚岩では無いらしく、何か色々キナ臭かった。連れて来られた子供同士の腹の探り合いとか、背後関係にある権力抗争とかマジ勘弁。おかげで人見知りの毛のある幼馴染が余計私にベッタリになった。もうヤダ、この展開。

 それからしばらく経って基本的な教育が終わった。これ以降は将来目指す役職によって各自で異なった教育を受けるという流れだ。かく言う私は前々世(1度目の人生)で齧った薬学に興味があったのでその道に進むことを決め、王宮付きの薬師の方々を師事する事になった。一方、幼馴染は国王直属騎士団の一員を目指すべく、騎士養成の訓練を受けるらしい。これでもうお別れだなぁと、寂しさ一割と安堵九割を感じていた私だったが、私の人生はそこまでイージーモードではなかった。


 それから五年後、私は王宮付き薬師となり、充実しているが多忙な毎日を送っていた。仕事は良いんだよ仕事は。目が回るくらい忙しくて、昼夜逆転になることも多いくらいだけど楽しいから。

 問題はその頃になっても縁が切れない国王直属騎士となった幼馴染。

私としてはそろそろこの腐れ縁を切りたい。いや、マジで。縁切の神に願いたいくらい切実に。なぜなら、幼馴染の存在こそ死亡フラグ(仮)に他ならないからだ。


 私の予想した通りに幼馴染はこれまた魔王や王レベルの絶世の美男子に成長した。青みがかった艶やかな黒髪に黒曜石のような切れ長の目、滑らかな白い肌の玲瓏な美貌に引き締まった長身痩躯。魔王や王が現代で言う外人的な美形というのなら、幼馴染は東洋的な美形だった。

 そんな長身美形で若年でありながら直属騎士の中でも指折りの実力者である幼馴染はモテた。容姿端麗、文武両道な上に真面目で忠誠心の厚い性格で上からの覚えも良い最優良物件だからね。それはもう町娘からメイド、果てには貴族令嬢達や時には他国の女性からも老若問わず猛烈な秋波を送られていた。他の団員達も異性から持て囃されていたが、それでも幼馴染のモテっぷりは別格だった。最初はモテない系男性陣が羨む程度のモテ度だったが、次第にストーカー被害や既成事実未遂事件が起きる程に事態は白熱していった。さすがにそれにはモテない系男性陣も引いていた。私もドン引いた。


 もう同性から同情すら寄せられるような熾烈な争いを制し、幼馴染の婚約者に収まったのは王家に連なる貴族令嬢だ。私も幼馴染自身に紹介されたが、見た目は栗色の髪に空色の目、雪色の肌の儚げな美人だった。後で聞いた話によると、社交界でも評判の美人らしい。

そんな家柄だけでなく容姿も良い婚約者は幼馴染にベタ惚れだ。人目を憚らず幼馴染に話し掛け、熱い視線を送る女性達を牽制していたし、暇を見つけては差し入れを持って訪ねて行っていた。

 しかし、幼馴染の方はどうやら乗り気ではないらしい。何かにつけて婚約者から遠ざかろうとしていた。あまりにも素っ気無い態度に婚約者に同情する意見も多かったようだ。

 それは別に構わない。惚れた腫れた個人の自由だと私も思う。

第三者を交えて問題が解決するのか?否!第三者を巻き込むことなく、お互いが心行くまで話し合ってこそ、円満に問題は解決する。恋愛の問題は個人間で解決すべきことだ。


だから、私を断る理由にするのは本当に勘弁してほしい。


二、三回のことなら我慢するが、幼馴染は九割の確率で私を理由に婚約者の誘いを断っていた。そのせいで婚約者の私を見る目は完全に敵を見る目だ。私は何も悪くない。悪いのはいつまでも同性の幼馴染にベッタリのあいつだろう。なんで休暇の度に私の自室をわざわざ訪ねてくるんだ。もう、本当に放っておいてくれ。いい加減に幼馴染離れしろ、下さい。

 日に日に増してくる婚約者からの殺意にこれはもうフラグか?フラグなのか?と疑心暗鬼になり、ストレスで胃薬を常飲するようにまでなった。解決策も幾つか考えてみたが良い案が思い浮かばない。朴念仁な幼馴染に懇切丁寧女心説明した所で理解出来ないだろうし、心底拒絶しても強引な所がある幼馴染が引き下がると思えない。婚約者については立場上話すことも難しい。そんなお手上げ状態が二年間続いた。その二年の間に私の常備薬は胃薬と頭痛薬になった。泣いていいデスカ?

 こんな時に死亡フラグ立ちあげない為、ひいては面倒事に巻き込まれない為に交友関係を狭くしていたことが悔やまれる。もう、いっそ左遷されて遠い場所に行きたいとか現実逃避してたら、ついに立ってしまった。


そう・・・・・・死亡フラグが。



 それは、あっという間の出来事だった。


ある日、各薬師に一部屋ずつ与えられている仕事部屋でその日の作業をしていると、いきなり幼馴染率いる数名の騎士が部屋に押し入って来た。荒らされる高価な調度品だらけの室内、台無しになった今日が締め切りの書類、割られた調合に一ヶ月以上かかる薬入りの容器に絶望した。

呆然とする私に恐ろしい形相の幼馴染が突きつけたのは国王暗殺未遂の罪状。

国王の食事に毒を混入したとか、全然身に覚えがありません。いや、だって王宮付き薬師の中で一番下っ端の私が国王に薬盛れると思う?普通に考えて無理だ。第一、私が管理している薬に毒薬になるような強い物は無い。そんな薬草類は筆頭薬師様が管理している。

 そんな弁解も空しく、私の薬棚から見つかった国王暗殺に使用されたと思わしき毒。もうこの時点で有罪になることが確定した。多分私を嵌めた人間の仲間に上位の王宮付き薬師がいるのだろう。私以外にこの部屋に入れるのは筆頭薬師様を含めた数名だけだ。

 嵌められたなぁ、と呑気に考えていた私は何の予告も無く頬を殴られ、床に倒れ込んだ。私を殴ったのは幼馴染だった。幼馴染はその美しい顔を憤怒と悲哀に歪め、私の国に対する裏切りを詰った。忠義に厚く彼にとって私の裏切りは許しがたいのだろう。まだ殴り足りないと言わんばかりに拳を震わせ、ただ悲愴な表情で詰まる彼に対し、既に積んだ状態の私が掛ける言葉は無かった。言い訳しようにも、無実だという確たる証拠はない。おそらく他にも証拠が捏造されている。もう、どうにもならないのだ。


 その後、取り調べを受けることなく牢屋に入れられた。普通であれば取り調べなり、裁判なりが行われるのだろうが、黒幕は早くこの件を片付けたいのだろう。先程、死刑の決定が宣告された。他にも色々捏造された証拠や密告などがあったらしく、明日に公開処刑されるらしい。

もし宰相様がいれば何とかなったかもしれないが、運悪く、いや多分この事も仕組まれていたのだろう。今、宰相様は筆頭薬師様と共に隣国を訪問している。帰ってくるのは最低でも五日後だから、私の処刑までには間に合わない。国王様は未だ昏睡状態らしく、真相の究明が出来るような状態ではなかった。

いずれにせよ、私の人生もここまでだ。さすがに三度目の死に際になると、特に感慨も無くなる。

その夜、石造りの冷たい牢屋から見た銀月は私のこれからと正反対に美しく輝いていた。


 そして向かえた死刑当日。


どうやら公開斬首刑に決まったらしく、私は後ろ手に縛られ、足枷を嵌めたまま民衆の前に引き摺り出された。壇上までは民衆の間を通って行くのだが、その間浴びせられた罵声で鼓膜破れそうだし、ぶつけられた石のせいで顔面血濡れだしで最悪だ。あと裸足だから小石が刺さって痛い。

 処刑場でもある広場の中央に立たされた私は無表情のまま周囲を見回す。公開斬首刑を一目見ようとする民衆に包囲され、辺りは異様な興奮に包まれていた。こうして見ると人とは業深い生き物だとつくづく思う。

 そんな民衆だらけの人混みの中、視界の片隅にこの場に似つかわしくない人物が目に入った。

それは幼馴染の婚約者だった。さすがに普段の高価で華美なドレス姿ではなく、目立たない色のマントに地味な色のドレス姿だった。それでも衣服に使われている素材自体は上質な物であり、周囲からは浮いていた。何でいるんだろうと疑問に思い、凝視していると目が合った。


そして確信した。ああ、私が嵌められた一因に彼女も絡んでいるなぁ、と。


理由はというと直感的な物でしかない。それでも多分当たっていると思う。先程彼女と目があった時、彼女は笑った。笑っただけなら、ただ悪趣味なだけかもしれない。しかし、彼女の目には愉悦と満足、そして嫉妬が渦巻いていた。証拠はともかく、密告者は彼女かもしれない。女の嫉妬って恐いわぁ。

そんな事を考えている間に処刑の執行人と最後に罪状を言い渡す裁判長が到着したらしく、あれほど煩かった広場は不気味なほど静まり返っている。


 最後の情けかどうかは知らないが、処刑の執行人は幼馴染だった。昨日とは打って変わって静かな様子に注視していると、背後から強く押され、思わず地面に跪いた。その間も裁判長によって淀みなく読み挙げられていく罪状はどれも全く覚えのない物だったが、今更どうにかなるものでもない。

 最後に罪状の確認をされたが、顔を上げて裁判長を見据え、きっぱり否認してやった。冤罪で処刑されるのだから、この程度の反抗はしてもいいだろう。裁判長はそんな私の小さな反抗は無視し、幼馴染に手を挙げて処刑の合図を送った。

 幼馴染は合図と共に私にその剣の切っ先を向けた。その表情は一見無表情だが、目には溢れんばかりの怒りと憎しみ、そして悲しみが宿っていた。恩人である宰相様や主君たる国王を裏切った私を許せないが、それでも私に対する情を捨てきれないのだろう。そんな幼馴染に対して、碌に弁明もしないまま死ぬ事を選ぶ私はかなり酷い人間だ。

 多分、宰相様が帰って来たら真相が明らかになるだろう。その時、私はこの幼馴染がとても苦しむことを知っていた。知っていたが、それでも私はこの結末を選択した。例えそこにどんな思惑があろうと、幼馴染を見捨てたのは私だ。こんな酷い人間の事は早く忘れて、誰かと生きて幸せになって欲しい。


 幼馴染が剣を振り上げると同時に、私は自主的に頭を垂れた。


俯く視界に見えるのは私と幼馴染の影。

その二つの影はあの幼い日のように並んでいた。

変わらないソレがとても懐かしくて、そして・・・・・・少し悲しい。




静かに瞼を閉じ、暗闇に身を委ねると鋭く空を切る音が聞こえた。




そして、三度目の私の17年間の人生は幕を閉じた。



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