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みつかいー天使と後輩 前編(漫画あり)

挿絵(By みてみん)


……天使を視た日。


善行善果ぜんこうぜんか


幼馴染の律くんが、実家のお寺の掲示板の張り替えをしていた。

私は、画びょうを持ってお手伝い。


「……どういう意味?」


「善行は、善果……良い結果を生むってこと」


「律くんは、いつも親切だもんね」


律くんは、誰にでも親切。

学校でも、外でも。

落ち着いているせいか、よく道も聞かれている。


「善行は、仏教修行の一つだからな。まほろだってそうするだろ?」


「私はおじいちゃんみたいになりたくて」


「もう亡くなって一年か。俺のことも本当の孫みたいに可愛がってくれた」


律くんの言葉に、ジーンと胸が熱くなる。

いつも私たちは三人でいた。

本物の家族のようだった。


ふと、背後に気配を感じて振り返る。

電柱の陰にいる男の子。

こちらを見ている。

用事があるのかと思って話しかけようとすると、慌てて逃げてしまった。

たぶん、うちの中等部の制服だったけど……誰かな?


次の日、昼休みに学校の廊下を歩いていたら、目の前を何かがふわりと横切った。

軽くて、白くて、柔らかいもの。

羽根……?


目で追うと、中庭のベンチが目に入った。

一人の男子が、パンを食べている。


「あ……」


昨日の子だ。

お寺の前でこちらを伺っていた子。

彼の後ろに、何か大きくて白いものが揺れた。

目を凝らすと、金髪の女性?。

両端に大きな羽根。


――――天使だ。


絵画などで、よく見るあの、天使。

私は、時々不思議なものを視せられるけど、神社生まれのせいか、和風だった。

洋風なイメージは初めて。


何がどうして非現実な映像として現れるのか、全く分からない。

でも、少し経験を積んで分かったこと。

映像が視えるときは、たぶん何らかの意味がある。


神様のお計らいなのかな?


天使をもっと近くで確認してみたいという動機もあったけど、私は、とりあえず中庭へと走った。


彼の前に立つ。


(……大きい)


最初に思った。


彼は小柄なんだけど、背後の天使は、大きな羽根で彼を包むようにしている。

周囲に生徒はいるけれど、誰も気付いてはいない。


天使は、眉をひそめて、今にも泣きそうな表情をしていた。


(どうして?)


視ていても分からない。


きっと原因は、視界の先の"彼"にある。

これは、確かめてみなければ。


「こんにちは!」


話しかけた私に、彼はびくっとした。

少し、声が大きすぎたかな。


「ごめんね、驚かせて。私は、高等部一年の桜坂まほろです。少しお話しない?」


「え?」


彼は、オドオドしながら、周囲を見回している。

そりゃあ、驚くよね。何かの勧誘みたいだと自覚ある。


「……高宮たかみや 叶十かなと、中等部三年です……」


消え入りそうな声。

高宮君は、華奢で、まだ「少年」って感じがする。

明るい色の髪には少し癖がある。

前髪が長くて、目が隠れ気味。

オロオロしている高宮君の横に腰掛ける。

ちょっと小動物を追い詰めてる感覚がする。


「高宮君、いつも一人でご飯食べてるの?」


「え……僕、この学校も転校してきたばかりなので……」


「そうかあ。高宮君って、天使に心当たりとかある?」


彼が、気が付いていることはないのかな?


「天使……? 僕の父は牧師ですが……」


「そうなんだ。だから、後ろについてるのかな?」


「何のことですか?」


これは、知らなそう。


「ううん。牧師さんの息子さんなんて、天使? 神様? に愛されてそうだなあ~って」


「神様は、僕のこと、お嫌いだと思います」


「え? どうして?」


「……僕は、父のように正しくできないし。罪深いので……」


サワっと、高宮君の背後の天使が揺れた。

羽根のすき間から日差しが漏れる。

相変わらず、悲しそうな顔。

高宮君に友達がいないと聞いたので、私の友達? 幼馴染を紹介することにした。


「というわけで、律くんです」


「……どういうわけ?」


律くんの、困惑しつつ、私への“またやってるよ”感。寛容だね。


「高宮君、こちら……」


高宮君に律くんを紹介しようと思ったのに、高宮君は、すごく動揺してアワアワしている。

律くんが近付いて名乗ったけど、真っ赤になって私の後ろに隠れた。


「律くんが、怖い?」


聞いてみたけど、


「いえっ!……そんなことは……すみません!」


声が裏返って、とにかく慌ててる。


律くんは「俺、怖いのか……?」とちょっぴりショックを受けていた。


同じ方向だったので、三人で帰宅する。

神社の娘と、お寺と、牧師さんの息子。不思議な組み合わせ。


高宮君は、ずっとチラチラ律くんを見ながら、私の後ろに隠れ気味。


「そうか~。高宮君のお母さんって海外にいるんだね」


「はい……外国人なので。父は、布教活動で異動が多いんです」


ああ、それで高宮君の肌は少し褐色なんだ。


私の家は、母子家庭。

律くんの家は、父子家庭。

みんないろいろあるよね。


高宮君の家は、私たちの家から割と近かった。


「ここ……?」


プロテスタント教会。

前を何度か通ったことがあるけど、あまり意識したことがなかった。

入口に、大きな体の男性が立っていた。

ビシッとスーツを着た、威厳のある、堂々とした姿。


「あ……」


高宮君が、少し緊張したように見えた。

私たちに「父です」と説明した。

高宮君のお父さんは、言った。


「叶十、早く、着替えてきなさい。暗唱のテストをする。日曜に間違わないようにな」


「……はっ、はい」


びくりと肩を震わせた高宮君は、私たちにお辞儀をして、慌てて中に入っていった。

天使は、相変わらずの表情で高宮君を見守っていた。


「……で?」


律くんが、二人になるのを待ってましたという感じで説明を求めてきた。

律くんには、天使が視えてない。

私の行動はさぞ意味不明だろう。

説明してみたけど、


「天使?? 聞いても意味分からん」


というのが、律くんの感想だった。


律くんと別れて、いつも通り神社で掃除をしていた。

高宮君のことを思い出す。

お父さん、厳しそうだったなあ。

「罪深い」って何のことだろう?

犯罪……? 

いや、そんな風には見えないなあ。

高宮君の中に、何かそんなに重いものがあるんだろうか?


取り留めない思考をしていると、空から何かが降ってきた。


白くて、ふわふわ……あ、羽だ。

そう思った時、ビジョンが私の頭に流れ込んできた。

額の前にあるスクリーンに映し出される映画を観ているような感覚だ。


――――――――――――――――――――

薄暗い空。

高いビル。

屋上。

一つの影。高宮君だ……。

高宮君は柵から身を乗り出して、下を覗き込む。

高宮君も天使も、同じ、泣きそうな顔。

――――――――――――――――――――


ドキン、心臓が跳ねた。

危ない! 止めなきゃ! でも、どうしたらいいの!?

次の瞬間、私は、走り出していた。




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