みつかいー天使と後輩 後編
お寺の前で、法事の看板を片付けようとしている律くんの姿が見えた。
「りっ、りつく~ん!!」
背中から縋りつく。
お線香の微かな香りがする。
私の涙と鼻水、ついてないといいけれど。
律くんが、何事かと振り向く。
「まほろ!?」
「ど、ど、ど、どうしようううう」
パニックで言葉が出ない私に、律くんは暖かいお茶を煎れて、一生懸命なだめてくれる。
ある程度、私から話を聞きだした律くんが
「高宮君が、飛び降りるかもってこと? ビルの場所は?」
と尋ねた。
「……場所?」
考えてもなかった。一生懸命ビジョンを思い出す。
――――――――――――――――――――
高いビル。
右側に、野球のフェンスがあった。
左側に、スーパーマル……? 看板。
下に、ルンルンランドリー。
――――――――――――――――――――
私が話す横で、律くんがスマホを触っている。
「スーパーマルイは、檀家さんが話してたけど、この間できたばかりで、一軒しかない。ルンルンランドリーもこの辺じゃ数が少ない。
野球フェンスが見える高さの建物……この辺だな」
画面を見せてくれる。
「律くん、何でそんなの分かるの?」
「別に、普通じゃないか?」
涼しい顔の律くんには毎度驚かされる。
◇
律くんが絞ってくれた場所に二人で走った。
でも、周囲は高いビルばかりで、特定できない。
さっきのビジョンで見たよりも、実際の空が暗くなっている。
ゆっくり探せる時間がないのに……。
周囲を見回していると、白いものがふわふわと落ちてきた。
(羽根……)
そちらを見上げると、ビルの上に人影が見えた。
「あそこだ!」
急いで屋上に上がる。
屋上には、ビジョンの通り、高宮君がいた。
柵の向こう側で、佇んでいる。
「……先輩たち、何でここに?」
振り返った高宮君の目には、涙が浮かんでいる。
私達は、少しずつ高宮君に近付いた。
「天使が教えてくれたの。神様は、高宮君を大事にしてるよ!」
だって、変わらず天使は高宮君の後ろにいる。
大きく白い翼を広げて。
この状況を、ただ嘆くような表情で。
「……天使? でっ……でも僕、弱いし、友達もつくれないし……だめなんです。
いつもうまく、できないし、父の理想の息子に……なれない。
僕なんか……いなくたって――」
高宮君の目から涙が零れる。
ガタガタと全身が震えている。
風が吹けば、それだけで……と思うと、息が止まる。
どう話したらいいか悩んでいると、律くんが前に出た。
黒い布袍が、ビル風にはためいた。
「……俺も同じだ」
「え?」
高宮君が、涙を溜めた目で律くんを振り返る。
足元が不安定でドキドキする。
「俺を生んで、母は死んだ。ずっと生きていていいのか、考えずにはいられなかった。……でも、人の縁が、俺を生かしてきたんだ……。
君も俺たちと出会って、俺たちはここにいる。
……この縁に、意味を見つけて欲しい。
一人じゃないことは選べるから」
律くんの澄んだ黒い瞳が揺れていた。
真摯で思いやりのある律くんの言葉は、波紋のように広がった。
「せんぱい……」
高宮君は、その場で膝をつく。
律くんが手を伸ばして、彼が安全にこちらに戻れるように手伝う。
天使は、穏やかな表情で、高宮君を静かに見降ろしている。
……ああ、高宮君はずっと救いを求めてた、だから……
神様のような大きな存在は、私たちを大切に思ってくださっていて、諦めなければ、救いの手はどこからか差し伸べられる、そう言われているように感じた。
◇
昼休み。
「高宮君、これはどう? 私は、青がいいと思うんだけど」
「そうですねえ、先輩は、紫も合いそうです」
「あ、そうだね。紫もいいねえ」
学校の中庭ベンチで、私と高宮君が、スマホを見せ合いながら頭を突き合わせてあれこれ相談していると、律くんが近付いてきた。
「あ……!」
思わずスマホを後ろ手に隠す。
「は、春吉先輩……こんにちは」
高宮君は、律くんに割と普通に接することができるようになった。
よかった。屋上の限界状況を経て、何かが抜けたのかもしれない。
でも何だか、今度は律くんが少し不満げ。
「二人ずいぶん、仲良さそうだな」
「うん。まあね~」
私は、ごまかして笑うしかない。今は、律くんだけは仲間に入れてあげられないから、仕方ないの。
◇
放課後、高宮君が緊張していて真っ赤になっている。
「ガンバレ~」
私は、高宮君を励ました
高宮君が、赤いリボンがかかった、可愛い包装紙の包みを律くんに差し出す。
「俺に?」
律くんは目を丸くする。
「ずっと前から、春吉先輩にお礼がしたくて……」
「前?」
「3カ月前、僕学校でキーホルダーなくしてしまって、先輩がずっと一緒に探してくれて」
「そんなこともあったかな」
「はい、先輩が見つけてくれました。海外の母からもらった大切なものだったんです」
高宮君が見せたキーホルダーは、天使がデザインされたもの。
嬉しくなった私が口を挟む。
「二人で一生懸命選んだんだよ。善行したら、もので返ってくるの。”善果”ってこういうことなんだねえ」
「それは、間違ってる」
律君が、少し眉をしかめたけど、気にしない。
「……それで……あの……僕、ずっと、春吉先輩が憧れで、先輩のこと……きっと、父には……許されないけど……」
「私は、神様は好意をもつのに性別なんか 気にしないと思うな。律くん、受け取ってあげて。善果」
高宮君に相談受けていたから、つい応援したくなる。
何か、律くんに、一瞬じろっと睨まれたような気がするけど、気のせいだよね?
律くんが、しばらく逡巡したあと、両手を差し出した。
「見返り求めたわけじゃないんだけど……ありがとう」
高宮君と、後ろの天使が笑った。
みつかい完




