きつねのよめとり~白狐息子の求婚③久遠の契り(漫画1コマ)
あれから律くんは、下弦さん対策で、いろいろ調べてくれたみたい。
お寺の書庫で日本の伝承や民話の本を積んでいた。
ネットでも調べまくって国会図書館まで問い合わせもしたらしい。
「昔話では、だいたい坊主は、狐に負けるんだよな……」
「そうなの?」
「悔しいけど。密教とかならともかく、うちは真宗だし戦うのには向いてない。次の満月まで一週間しかないから、今から霊力修行ってわけにもいかないだろうし」
律くんは、ずっとあれこれ思案している。寝てないのかうっすらとクマもできている。
私は、どうしたらいいか分からず、少しぼんやりとしていた。
律くんが、ふと、そんな私に目を止めた。
「まほろは……あいつのことどう思ってる?」
「え……?」
「あいつ、すごい力持ってそうだし、人間離れした美形だもんな……ってか人間じゃないけど。誰かに圧が似てるのもちょっと腹立つし」
「誰か……?」
「……女から見たらああいう男、魅力的なのかもって思って。まほろへの態度は悪くなかった。あやかしが約束守るなら……だけど」
律くんの表情は、少し寂しそうに見えた。
「……ごめんね。私、何だか、現実感がなくて……サクちゃんも朧さんも下弦さんも、全部夢みたいな気もするし、私が”求婚”されることがあるなんて思ってなかったし」
文字通り『狐につままれた』という状態なのか思考がまとまらない。
「あいつ『久遠の時をともに』とか言ってたな。そんなに長生きするんだな」
「ああ、そうだね。朧さんも”千年”とか言ってたね。千年か……どんな感覚かなあ」
「あいつと……千年生きたいか?」
律くんが、私の目を見つめる。
「……もう……会えない……かもしれないけど……」
律くんの声が掠れて、途切れ途切れになった。
私は、しばらく考えた。
「前に、律くんを一人にしないって、約束したでしょ?」
「ああ……図書館の……」
「私は、約束を守りたい」
「まほろ……」
律くんの声はわずかに震えて、瞳が揺れているように感じた。
私は、巫女としてたくさんの人の幸せを神様に願っている。
でも、律くんが特に幸せであってほしいと、思ってる。
お母さんを失って苦しんできた律くん。
それでも懸命に努力して、強くなって、たくさんの人に優しくできている。
いつも助けてもらってばかりだけれど、律くんのためにできることがあるなら、私には千年の寿命より大事なことに思える。
◇
「いよいよ、今夜だな……」
今日は、満月。
「本当に、下弦さん来るのかなあ」
「あいつが、簡単に諦めるとは思えない」
律くんは、布袍姿で、輪袈裟を掛け、手には数珠を握りしめている。
「坊主は狐に勝てないにしても、俺は、所詮人間だから、仏様に頼むくらいしかできない。他力本願」
とのこと。
二人で相談して、今晩は真秀羽神社の社務所に泊まることにした。
私の自宅はお母さんがいるし、巻き込めない。
律くんの家のお寺でもいいって話だったけれど、律くんのお父さんがいる。
社務所は、おじいちゃんが生きていた時も、三人で一番一緒に過ごした場所。
私も安心できる。
おじいちゃんにも神様にも力を貸してくださるようお願いした。それこそ、他力本願かな。
律くんが、社務所の窓だけではなく、雨戸も閉めて回った。
この神社の守護犬、サクラとタチバナも一緒。
犬と狐は伝承でも相性が悪いらしいから、守ってくれるだろうと律くんが言う。
確かに、稲荷神社に犬を連れて行ってはいけないという話も聞いたことがある。
狐も狛犬も神様の眷属なのに、不思議な気はするけれど。
私たちは、息を殺すようにして、社務所の奥の部屋にいた。
私を隠すように、律くんが、家具でバリケードを作った。
私は、神社のお札を部屋の入口に貼って、おじいちゃんの形見の大幣を横に置いた。
「私が、ここにいること、下弦さん分かるのかな? 前、匂いで探したって言ってたけど」
「人知を超えてるやつだからなあ。逆にどこにいようと変わらない気もするんだ。警察に行くことも考えたけど、他の人に見えないなら軍隊でも意味ないだろうし」
夜になるにつれて、気温が下がってきたせいか、緊張しているせいか、ひんやりした空気がピリピリする。
律くんは、布袍姿でバリケードの前に座っている。
凛として姿勢が良いけれど、肩や手に力が入っているのが分かる。
律くんを挟んでサクラとタチバナがお供のように伏せている。
この子たちは、昔から律くんによく懐いている。
そういえば、初めて律くんと話したのも、サクラのせいだったなあ……なんて思い出したりしていた。
夜半になって、少しウトウトしかけた頃、大幣が微かに揺らいだ。
サクラとタチバナが耳を立てて立ち上がり、ウウっと小さくうなった。
社務所の建物が、ミシっ、ピシっと鳴り始めた。
雨戸と窓が、ガタガタ揺れる。
律くんに思わず声を掛けようとすると、律くんは唇に人差し指を当てた。
私を背中に隠すように、周囲を見回す。
ズシっと、何かが、屋根の上に乗った感覚があった。
ズシン、ドシン、上から重機で押されているように建物が揺れる。
室内の家具がバタバタ倒れ、天井からパラパラ砂のようなものが落ちて来る。
これじゃあ、建物の中にいる方が危険そう。
同じ判断をしたのか、律くんが私を袖に隠すようにして玄関へ誘う。
更新遅れています。すみません。




