きつねのよめとり~白狐息子の求婚②貢物(漫画2コマ)
次の日の朝、神社に向かうと、社務所の前に、食べ物が山と積まれていた。
栗や椎の実などの木の実や、あけびや瓜、初めて見るような野菜や果物もたくさんある。
米俵まで置いてあった。
「……ご寄進?」
呆然と眺めていると、ポン! と鼓のような音がして、下弦さんが現れた。
相変わらず、光をまとって、半分浮いているように風をはらんで軽やかだ。
そして、怪しい色気と裏腹に、ニカっと人懐っこい笑顔を見せる。
八重歯? 牙? がやんちゃ坊主っぽくて、何だか気が置けない。
これも人を惑わせる作戦なのかなあ……。
「嫁に腹いっぱい食わすんは、男の務めやろ」
下弦さんは、自慢げに胸を張った。
「これ……下弦さんが……?」
「まほろのために、うまいもん、東のも西のも、ようけ集めてきたで」
どう反応したらいいのか、私は困ってしまう。
「あの……えっと……」
「この中に好きなん、無かったんか? ほな、まほろの好物は何や? なんでも持ってきたる」
下弦さんが、私の顔を覗き込む。相変わらず、不思議な瞳をしている。金色から紫に変化していてつい見入ってしまう。
下弦さんの態度は、お母さんに褒められたい小学生男子みたいで、私は無下にできない感覚になった。
「いえ……えっと……どれも、おいしそうです……」
「そうか?」
下弦さんは、にっこり笑った。
「あ、そうや、それから……」
下弦さんが手を掲げると、白い光の中から赤い薔薇が一斉に舞い落ちた。
花びらが光を透かして揺れ、まるで夢の中のようだった。
「愛しいおなごには、こないな花を贈るんやろ? これも人の世で学んだんで」
薔薇の美しさに負けない美貌で、下弦さんが微笑む。
「昨日も、言われてましたね。人間界にいたんですか?」
「せやで。留学みたいなもんやね。ひとを知らんと化かされへんし。いろいろ見て回ったで」
「化かす?」
「安心しいや。まほろを化かそうとは思うてへん。嫁は後生大事にせんとな」
「……何で私なんですか?」
本当に疑問。私は、ちょっと霊感はあるけれど、平凡な高校生だ。
平凡どころかポンコツな自覚もある。
山に迷い込んだ時も、律くんがいなければ、何ひとつできなかった。
下弦さんは、人差し指を顎にあてて、考えている。
「何やろなあ、何か合うっちゅうか……つがいやって思うて」
「つがいですか?」
「せや。つがい」
下弦さんは、ご機嫌に笑う。
「まほろは、こっちもあっちも行けるやろ」
「……中途半端ですもんね」
役に立つより迷惑掛ける方が多い気がしてる。
「どっちか寄りすぎたら、つまらんで」
「……面白いですか?」
「しなやかに揺れとる方が、楽しゅう生きられるんやで。あっちもこっちも、まほろ連れて遊んで回りたいんや。わしと一緒やったら、絶対おもろいで」
「……私がそちらの存在なら楽しそうですけど……」
「せやろ? そなたの匂い、心地ええん。だからすぐ見つけられたで。わしら妖はな、魂が合う相手に出会うたら、もう二度と離れられへんのや」
下弦さんは、赤い花びらが舞う中、ゆっくりと両手を私に差し出した。
「まほろが欲しいんや……。わしと久遠のときをともに――」
下弦さんが私を抱きしめようとした瞬間、バシ! 何かが私と下弦さんの間に飛んできた。
学校のカバン……?
「胸騒ぎがして、早めに出てきたけど……やっぱり一人にするんじゃなかった」
律くんが、肩で息をしている。カバン、投げたんだね。
下弦さんは、ダメージは負っていないみたいだけれど、すうっと目を細めて、律くんをにらんだ。
「何や、犬か……。わしら夫婦の仲、邪魔しよるな。やっと嫁をこの手に抱こう思うたとこやのに」
「させるか。お前の母親みたいなこと、まほろにする気なんだろ」
……確かに。
下弦さんの態度が温和だし、そもそも先日のことがまるごと夢のようで危機感を失ってたけれど、あの屋敷の出来事は、本当に怖かった……。
「ちごうわ。わしらのしきたりではな、女は男から取るんや。男は女の糧になる。せやから、わしはまほろのためなら何でもしたる」
光をまとった風が、柔らかくバラの花びらと香りを巻き上げた。下弦さんは、存在から溢れる自信を感じさせる。
「あやかしの言うことなんか信用できるか。あやかしはあやかしの嫁でも娶ればいいだろ。人間の相手は人間だ」
律くんはずっとピリピリして、今にも嚙みつきそう。
山でも身を挺して守ろうとしてくれた。私よりもあの時の危機感が続いているのかもしれない。
「何や、おぬし、まほろを娶るつもりかえ?」
律くんは、一瞬ハッとした様子で私を見た。そして、目を逸らすように視線を下弦さんに戻した。
「……俺は、誰に対しても、お前みたいに相手の気持ち無視して押し通すなんてしない。そんなの……ただの迷惑だ」
律くんの言葉は、だんだん小さくなる。目線が落ちた。
「まほろは、迷惑なんかえ?」
下弦さんが、私を振り返った。
「え?」
「わしと、この犬の求婚のことや」
「おっ……俺は求婚できっ……してない! っていうか、犬じゃない!」
律くんが慌てて制する。……確かに。
「ほな、求婚してんのは、今んとこ、わしだけやな」
下弦さんが律くんの目をじっと見つめた。
律くんは唇を噛んで、視線をそらした。
「せやから、まほろは、わしのことだけ考えたらええ」
……話が速すぎて、やっぱり何がどうなってるのかついていけない……。
「狐の祝言ゆうたらな、目ぇ見張るほど豪華なんやで」
「きつね……」
サクちゃんの姿を思い出す。
「下弦さんも狐なんですか?」
「せやで」
下弦さんの頭から、白い三角の耳が、ひょこっと現れた。
そして、白い尻尾がお尻からふさふさと揺れる。
うっかり可愛いと思ってしまった。もふもふには、つい誘惑されちゃうよ……。
「次の満月の夜にな、行列連れて迎えに来る。まほろの花嫁衣装も、贈り物もようけ用意してくるさかい……待っとってな」
下弦さんは私にチュッと投げキッスをして、尻尾を満足気に振って、風の中に消えた。
(どこで学んできたのかな……)
「満月……?」
律くんがうなる。
「絶対阻止する」
漫画が全然描けてませんが……。次回土曜日更新予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




