きつねのよめとり~白狐息子の求婚(漫画あり)
「律くんって、モテるよね……」
「まほろ…… 急に何だ?」
下校時のことだった。
人の強い念は、時々形を取って視えることがある。
『生きてる人間は、亡くなった人より強いからなあ』と神主だったおじいちゃんもよく言っていた。
律くんには、時々、人の念が飛んで来ている。
「律くんの周り、ハートがふわふわしてて、可愛い」
「ハート?」
「女子の念かな。悪いものじゃないよ」
律くんは、自分の周りをひとしきり眺めて、眉をしかめた。
律くんには視えてない。
律くんは、現実に根差した強い精神の持ち主だから、本来この世ならざるものに縁遠いんだと思う。
「ないだろ。だって、俺、寺の息子だぞ」
「……だって?」
「辛気臭いとか線香臭いとか説教臭いとか、墓があって気味悪いとか……」
「言われたことあるの?」
律くんは、深く頷いた。
「それに、寺の嫁不足は深刻だって、若手の研修会でもよく聞くし」
「嫁不足? そうかなぁ。お寺は神社より収入安定してそうで羨ましいけど。 律くんお寺継ぐの?」
「……いや、俺は次男だし……でも、長男はなあ……」
「戒さん?」
「……あいつのことは、考えたくないな。でも、まほろ……」
「うん?」
「もし……もしも俺が継いで、いや、継がなくてもだけど……嫁さんには負担ないようにするから……だから……もし……もし……だけど……」
律くんは頬を赤くして、何やらモゴモゴ言ってる。
「もし?」
私が顔を覗き込んだら、律くんは、かちんと固まった。
「大丈夫だよ!」
私は握りこぶしを作る。
「え?」
「心配しなくても、律くんなら立候補する女子たくさんできるよ! だって、こんなにハート飛んでるし」
「……」
私は、ふよふよしているピンクや赤のハートを指差した。
律くんは、複雑そうな顔で何か言いたげだった。
でも、次の瞬間、律くんの周りに浮かんでいたハートたちが、強力な台風で跳ね飛ばされたみたいに散り散りになった。
「え……?」
人の念を一瞬で吹き飛ばせるほど、強いエネルギー……?
そんなもの存在するんだろうか……?
エネルギーの元を辿って振り返ると、若い男性が立っていた。
男性は、私を見た瞬間、「ヨメ!」と大きな声をあげた。
(……え? 読め? 何を?)
周囲をもう一度見回して、男性に視線を戻す。
(ミュージシャン……?)
第一印象はそうだった。
プラチナブロンドの髪、陶器のように均一な白い肌。
長いまつげに紅色が差したまぶた。
雰囲気は日本人だけど西洋人のように彫りが深く、メイクをしているのだと判断した。
瞳が表現できない色に変化しているのも、珍しいカラコンなのだと思った。
服も和風で、袖は長く、白い絹地が幾重にも重なった着物のようなもの。
金色の長いベルトをしていた。
あまり普通の男性が着そうなものではない。
年齢は、たぶん私たちと変わらない、十代後半。
「ヨメ、探したんや」
(ヨメ探し? 確かにそんな話をしていたけれど、偶然かな?)
彼は、艶やかに微笑んでまっすぐに私を見つめている。
よく見たらメイクじゃない。
―――現実離れした美貌なんだ。
肌も髪も白い光を放つように輝いて、まつげの影が頬に落ちるたび、光がゆらいで見えた。
彼の周囲をうずまくように軽い風が舞っていて、髪や服のすそをふわりふわりと巻き上げている。
「サクがそなたを褒めててなぁ。母上も、わしの好みや言うてはったし……見に来たら、ほんまやった」
彼は、全開の笑顔を浮かべた。
「サク……?」
先日、山に迷い込んだ時に出会った、あのサクちゃん?
え……だって……あれは、幻のようで、サクちゃんは……。
「あの……あなたは?」
「わしは下弦や。サクの兄で、朧の息子や。会いたかったで。わしの嫁、まほろ」
「よめ???」
(ヨメ? わたしが? 嫁? いやいやいやいや)
そう言えば、確かに、朧さんは「息子がいる」とは言っていた。
朧さんが二十代前半に見えたから、普通なら姉弟くらいにしか思えないけれど。
もう一度、彼をよく見る。現実離れした風貌は置いておいても、影がない。
強烈なスポットライトを彼に全て集めたみたい。
街中だから、周囲にはたくさんの人がいる。
いくら忙しい往来でも、こんなに目立つ彼を誰も見ないのはおかしい。
彼は、妖艶な瞳で私をじっと見つめて、手を取った。
異世界に連れて行かれるのかも……と一瞬背筋がひやりとした。
彼は、地面に片膝を付き、優雅な所作で私の手の甲に口付けをした。
童話の中の王子様が現れたような現実離れした光景と、当てられた唇の感触をはっきりと感じて、思考が定まらない。
「まほろ。人の求婚って、こうするんやろ? 学んできたで」
(えええ??)
全ての意味が分からない。パニックになっていると、パシ! 音がした。
下弦さんが怪訝な表情で視線を移す。
その目線の先は――
「律くん」
律くんが下弦さんと私の間に割って入っていた。
「律くんにも……」
「視えてるよ。変質者」
律くんがうなるような低い声を出した。
先日一緒に異界に巻き込まれたせいで、波長のようなものが合ってるのかもしれない。
下弦さんは、あからさまにムッとした。
「小賢しい。まほろの犬け。犬は好かん」
「犬?」
律くんが本当に犬だったら、すでに飛び掛かっていると思われるような警戒心をガルルと向けている。
下弦さんが、ふん、と鼻を鳴らした。
「ああ、おぬしが、母上に食われそこなった男かえ」
「幸いなことに」
律くんは挑むような目で、下弦さんを見た。
「残念やな。骨になっても悔やまんほどの男の悦び、逃したんやぞ」
クックと笑う下弦さんの瞳が、ほんの一瞬、色を変えた。
「女なら誰でもいいわけじゃない」
プイっと律くんは顔を背け、私の手を引いて速足で歩きだす。
律くんの手には強い熱と力がこもっていた。
「おい、わしの嫁じゃ!」
下弦さんは大きな声で叫ぶけれど、周囲の人にはやっぱり聞こえてないみたい。
「私と律くんにだけ視えるんだね」
「この間の続きだろ。あんな変なの、夢だ、夢!」
「夢やあらへん!」
律くんは、まっすぐ前を向いて、どんどん進んでいく。
完全無視するつもりみたい。
(……私は、どうしたらいいんだろう???)
漫画と挿絵を増やしたいのですが、漫画も途中で間に合っていません。
キャラデザも苦手で苦心しています。
得意な方タスケテ……。あげく全然美形に見えず。
次回水曜夜更新いたします。どうぞよろしくお願いいたします。




