表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/23

たまゆら~白狐美女の誘惑③美女の館

挿絵(By みてみん)

私たちは、それぞれ準備してもらった服に着替えた。

着物のような、中国衣装のような、不思議なデザイン。


私は、ひだのある袴のような桃色のスカート。上に重ねる白い着物の袖は床に付くほど長い。巫女装束の千早にも似ているし、花嫁衣装にも似ている。

律くんも、束帯のような薄青の着物に、白い袴、細い刺繍の帯。舞の衣装のよう。

律くんに色も映えるし、僧衣を着慣れてるからか、所作もきれいで違和感がない。


私たちは、お座敷に通され、女性がお茶を出してくれる。

私達二人はそれぞれ自己紹介をした。


女性は、朧さんと言うらしいけれど、名字なのかな?


「あの……ありがとうございます。このような高価そうな衣装お借りして大丈夫でしょうか?」


私は萎縮して、朧さんに尋ねる。

朧さんは、私たちの向かいに座りふふっと笑った。


「大したもんやあらしまへんえ。どうぞ、お気遣いなさらんといて」


「そうですか……すみません」


改めて見回すと、このお屋敷はやはり新築のように綺麗だった。ほこり一つ落ちていない。今いるお座敷だけでも十二畳はありそうだし、廊下を通ってくる途中にも幾部屋もあった。


でも、朧さん以外の人の気配は全くない。

住居ではなく、何かの施設なのかもしれない。


「お食事、いかがどすえ?」


「あ、いえ、雨が止み次第、お暇しますので」


「無理どすえ」


「はい?」


「雨は止みまへん。ここからは出られまへんえ」


(どういうことだろう?)


朧さんは常に微笑んでいるけれど、冗談といった感じではない。意味がわからない。


朧さんは、すうっと音もなく律くんに近付いた。


「ええ生気を持ってはりますなぁ……少し線香の匂いが混じりますけど」


朧さんが妖艶な色気を漂わせながら律くんの肩に手を掛ける。

胸の谷間を見せつけるようにしながら笑いかける。

真っ赤でつやつやの唇を、律くんの顔に近づけていく。


同性の私でも見ていてドギマギするから、男性は抵抗できないかもしれない。


どうするのかとハラハラしながら見ていたけれど、律くんは眉一つ動かさず、すっと立ち上がった。


「失礼します。帰ろう、まほろ」


そう言って、律くんは、私を外へ促した。

先ほど服を着替えた場所に行く。

衣紋掛けに掛けたはずの服はない。


朧さんが追ってきたので、


「あの……服をお返ししたいのですが」


私が言ったけれど、朧さんは、首を微笑んだまま振った。


「それには及びまへん」


律くんは、少し何か考えて玄関に向かう。

微かな焦りを感じて私も慌てて後を追った。


靴はちゃんとあった。濡れてるけれど気にせず履いて、屋敷を出る。

霧の中、数メートル先に門扉が見えている。門に向かって走る。

雨は相変わらず降っているけれど、気にしている余裕がない。


―――門の外に出た。

……はずだった。


でも、出られなかった。

また門扉の中にいる。

(何で?)


もう一度、進んで門扉をくぐる。

また、玄関前に戻っている。

何度か繰り返す。


朧さんが、玄関に立って笑っている。


「無理どすえ」


律くんは壁沿いに歩き始めた。一通り調べたけれど、他に出口はない。

本当に帰れない。


「出してくれ」


律くんが朧さんに言う。


「にいさん一人やったら出られますえ。……けど」


朧さんが、ゆるりと私を見る。


「その娘さんは無理どすなぁ」


「私……?」


「あんたさんは、心の揺れが大きゅうて……境を越えやすい体質やね。にいさんは、あんたさんを追うて来てしもうたんやけど、本来は、ここに来るようなお人やあらしまへん。霊の気を寄せつけん、えろう澄んだ生気をもってはる。心身もよう鍛えられて、線香の気も深う染みて…… 」


すうっと、律くんに視線を絡める。


「本来なら、うちの結界に弾かれて入れへんお人どす。せやから、出るのはたやすいんやけど。ただ――あんたさんは……出るには、生気が足りまへんのや」


「生気?」


「生気が足りしまへんと……迷いの世は、よう抜けられまへんえ」


朧さんは、口元に手をやり、少し不快そうに体を揺らした。


「おなごの気は、うちには重うてねぇ……」


目が金色に光る。


「男の気は、甘うて軽うて……そら、よう食べられますえ」


うっとりとした様子で、ケケケと笑った朧さんの口から長く赤い舌がちろちろと覗いた。


「……息子なら、あんさんみたいなのが好みやろなあ」


「……息子?」


「しばらくは帰りまへんさかい……気にせんといておくれやす」


気にしないで済むわけがない……。


ここまでお読みいただきありがとうございます。少しでも反応いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ