表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/23

たまゆら~白狐美女の誘惑②白い美女

挿絵(By みてみん)


私たち高校生が全力で走ったのに、あんなに小さな子供の足に全く追い付けず、サクちゃんを山の中で見失ってしまった。


「一旦降りて、大人に報告しよう」


律くんが言う。


「そうだよね……昨日から迷子なのかもしれないし」


律くんと山を下る。

ザーッと強い風が吹いて、木が大きく揺れた。

「ギャッー」っと叫び声のような鳥の声がして、ビクッとしてしまう。

バラバラバラ、大きな水滴が落ちて来る。


「雨……? 困ったなあ」


傘もカッパも持ってない。しかも薄着で、寒い。

律くんが、カバンから上着を引っ張り出した。


「これ、防水だから。こういうこともあるかもと思って」


私に差し出す。山に行くって言ったから、あの短時間に準備してたんだ。

すごいなあ、律くん。


「え、でも、律くんは?」


「俺は、大丈夫。まほろ、寒がりだろ」


「律くん……」


何て、優しいんだろう。


「ごめんね、ありがとう。寒くなったら、返すから言ってね」


「ああ」


急いで山道を下る。


「変だな……」


律くんが、足を止める。

確かに、結構歩いているのに、登山口に到達しない。

サクちゃんを追って走ったとはいえ、せいぜい数分のことで、そんなに奥に入った覚えがないのに。昨日は、私たち以外の登山客もたくさんいたけれど、今日は誰も姿が見えない。

今日は土曜なのだから、普通に考えれば人が多いはずなのに。

律くんがスマホを出す。


「繋がらない。さすがに今どきこれくらいの山なら電波届きそうだけど。GPSも駄目だな」


「私のも固まってる」


「まだ迷ったとはいえないから、あそこまで行くか。電波も繋がるかもしれない」


律くんが指す道の先が開けているようで、かなり明るい。


「うん、行こう」


改めて、律くんが一緒に来てくれてよかったと思う。


開けた場所に来た。


「あれ……?」


立ち込める白い霧の中に、連なる白い壁が見えた。

白壁の向こうには、建物の屋根が見える。

寝殿造りの古い家屋のようだけど、新築みたいにきれいだった。


雨が酷くなってきて、門の庇を雨宿りに借りる。しんと静まる山の中。

霧の中を糸のようにふる雨に、光が反射する。幻想的な光景だった。

空を見上げると、昼間の白い月が浮かんでいた。

雨だと言うのにこんなにはっきり見えるなんて、山の異常気象だろうか。


「こんな建物なかったよねえ」


「そうだな」


律くんは雨でかなり濡れてしまった。私は、持っていたハンドタオルで、律くんの服の水分を取ろうとしたけれど難しい。


「大丈夫? ごめんね私が服を借りたから」


「いいよ。雨宿りしてたら乾くだろ」


ギィっと、背後の門が開いた。


振り返ると、この世のものとは思えぬほど美しい女性が立っていた。


二十代前半から半ばだろうか。

真っ白な肌に鮮血のような口紅と、目の縁には赤いアイライン。

長い艶やかな黒髪が、高い位置で複雑に結われていて、白木蓮の螺鈿細工の大きな髪飾りで止まっている。

萩の字模様の白い着物に、真紅の襦袢。

帯は細いものを何本も巻いていて、端が後ろに垂れ下がっている。

背中が大きく開いていて、うなじが色っぽい。

収まりきらないほど豊満な胸が、着物には収まりきらず帯に載っているようにさえ見える。


私は自分の平坦な胸と見比べた。

羨ましい……。


「ご機嫌よう」


女性は、形のよい唇で艶やかに微笑んだ。


「こ、こんにちは、すみません。雨宿りにお借りしていて」


私と律くんが頭を下げる。


「ずいぶん濡れてしもて……さあ、中へお入りやす」


女性は、招くようにすっと腕をあげた。袖口から見える赤い襦袢と細い腕が艶めかしい。

私たちは、少し迷ったけれど、お誘いを受けることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ