みまもり-巫女舞(律)
土曜の午後、まほろの神社に向かった。
檀家さんに、まほろが好きな栗きんとんをいただいたから。
社務所を覗くと、巫女服のまほろが、不思議な動きをしていた。
手を上げたり、下げたり。
何だか、カクカクしてる。
回線遅延してるのか、fps低いのか。
俺に気付いたまほろが、振り返り、真っ赤になって飛び上がった。
「律くん、見てたの!?」
「うん……」
栗きんとんを差し出す。
まほろは赤い顔のまま、受け取ってお礼を言った。
「何やってんだ?」
「縁故で、浦安の舞奉納させて貰うことになったんだけど、見ての通り……。先生に怒られてばっかりだし、人前だと緊張してもう……」
まほろは、すでに気が遠くなっている。
「このままだと、ご迷惑お掛けすると思うから、お断りしようかなあ……」
ショボショボしているまほろに、俺は尋ねた。
「舞って、何のためにするんだ?」
まほろは首を傾げて考える。
「神様に、皆さまの幸いをお願いして…」
「いつもやってるだろ」
「え? あ……」
「人のために願うのに上手いも下手もないだろ? やるだけやってみろよ。
祖父さんもきっと応援してくれる」
「そっ……そうかな?」
まほろの顔が緩む。
「祖父さん、最後に俺に頼むくらいまほろのこと気にしてた」
「え? 本当? いつ?」
「亡くなる数日前だったかな」
「そうだったんだ……倒れてすぐだったから、私話せなくて。おじいちゃん、わかってたのかな…」
まほろが、空を見上げた。
「そうかもな」
柔らかい空気が流れた。
まほろが、しばらく考えて言った。
「それで、律くん、いつも私に優しいの?」
ドキッとする。
「……べ、別に頼まれたからじゃ……」
「まあ、律くんは昔から優しいもんね」
まほろが、しばらくして覚悟を決めたように握りこぶしを作る。
「そうだよね…頑張ってみようかな。律くんの幸せも気合い入れて神様にお願いするからね」
まほろが笑顔をつくる。
窓から差し込む光が、ふわりと揺れた。鳥の声も聴こえる。
(……俺は、このままでも……十分、幸せだ……)
ダダダ、忙しい足音がした。
まほろの飼い犬二匹。サクラとタチバナ。
あ、と思った瞬間、二匹とも俺に飛びついてくる。
懐いていてくれて可愛いんだけれど、心の準備をしていなかった俺は、前に勢いよくつんのめった。
「うわっ」
次の瞬間、俺は、転倒にまほろを巻き込んでいたことに気付く。
両手をついた俺の下に、まほろの身体。
顔が至近距離にある。
俺は膝で、まほろの袴に乗っていた。
「ごめん……」
まほろは、俺をじっと見上げてるだけ。
ドキン、ドキン、ドキン…。
自分の心臓の音が大きく聞こえる。
甘い、香りがする……。
あと数センチ動いたら……。
頭を過ったけど、必死で振り払う。
起き上がろうと腕に力を込めた途端、まほろが言った。
「……これは、床ドンってやつ?」
「!!!」
……勘弁してくれ。
「漫画で見たなあ~」なんて、俺の下で、のんきに呟いてる。
子どもの頃と違う。
身長差20㎝を超えた俺が、本気出したらどうなるか、なんて考えないんだろうか?いや、一応、男として認識してると喜ぶべきなのか?
……ないんだろうな……。
犬を両手に、まほろの舞の練習を見守る。
それが、今のところ、俺の定位置なんだろう。
白い衣が、ヒラヒラと上下し、赤い袴が、ふわりと揺れる。
社務所の奥で誰かの気配がしたような気がした。
みまもり(完)




