せいやーきみの祈りと誕生日(春吉 律)(漫画あり)
十二月二十四日。
俺の十六回目の誕生日。
朝から降っていた雨がみぞれになり、外でハタハタと音を立てていた。
やはり時期的にも冷え込むのは仕方ない。
真秀羽神社の社務所の一室は、暖房が効いて暖かかった。
まほろと、俺。
二人きり。
いや、あと二匹。
犬のサクラとタチバナは、俺の足元にいる。
一昨年までは、神主だったまほろの祖父さんも一緒だった。
まほろが、小型の丸いケーキと軽食を準備してくれていた。
機嫌よくニコニコしながら、小さな袋を俺にくれる。
「手作りお守りプレゼント。いつもはおじいちゃんに手伝ってもらってたけど、今年は一人で編みました。結構上手くできたでしょ?」
それはミサンガのようになっていて、真秀羽神社のシンボルである羽根と桜のメタルプレートがついたもの。
まほろが幼い頃亡くなった祖母さんが、考案したらしい。
「過去のも全部取ってあるけど、見比べるか?」
お守りだから、一年はカバンにつけていて、次のをもらったら付け替える。
古いものは保管することにしている。
「え? 最初なんて六歳の時だよ。見るのも怖いな。捨てて良いのに。
あ、去年はバタバタしてて作れなかったもんね、ごめんね」
昨年の十二月十二日、まほろの祖父さんは亡くなった。
元気そうだったから、本当に急な話だった。
「ケーキは食べただろ」
「そうだったね……」
まほろは、この話題になると、いつもしんみりする。
まだ、越えられてないんだろうな。
まほろの祖父さんは、俺にだって特別な人だった。
◇
初めてのパーティーは、六歳になる日だった。
俺の誕生日は、母の命日。
そして年末。
住職の父はいつも以上に忙しい。
神童と噂になる四歳上の兄、戒は、社交的な性格とその能力ですでにあまり家にいなかった。
いたところで、話をすることもない。
その日がイブというのも不運だったのか。
賑やかな家庭と比べてしまうから。
暗く寒い寺の中で、通いの家政婦さんが作り置きした食事を摂る。
毎日の延長の日だった。
ある日、保育園が一緒だったまほろが、大発見したような大きな声を出した。
「律くんは、クリスマス生まれなんだね。キリスト様といっしょだ!」
誕生日の掲示を見たらしい。
「キリスト様は、二十五日だから違うよ。僕は、二十四日だから」
「そうか~」
分かってるのか分かってないのか、まほろはヘラヘラにこにこしてた。
数日後。
『しょうたいじょう』を持ってまほろがやってきた。
字があちこち向いてる。
中身は諦めたのか、大人の字だった。きっと祖父さんだな。
「12つき24ひ、5じ まほろばじんじゃにきてください」
隣には、まほろが描いたらしいクレヨンのクリスマスツリー。
何だろう?
クリスマスに神社で何かするのかな?
それ以上、考えることもなかった。
当日は、保育園のある日だった。
まほろは休みだった。
保育園にはいつもシッターさんが迎えに来るんだけど、その日はまほろと、まほろの祖父さんが来た。
先生には父が連絡していたみたいだった。
今になって思えば、まほろの祖父さんが勝手なことはしないだろうから、全て父には話していたのだろう。
二人に促されて神社の社務所に入ると、入り口にはクリスマスツリー。
子供心にも違和感はあった。
上には折り紙の輪飾り。
一部ヨレヨレしてる。まほろが作ったのかな。
クリスマス仕様の服を着せられた犬のサクラとタチバナが、二匹でぴょんぴょん飛びついて来る。
くるくるした巻き毛。他に見たことがない種類で、図鑑で調べた感じだと、チャウチャウと似てるかなと思ったけど、ちょっと違う気もする。
机の上には白く丸いケーキ。
イチゴとチョコレートのプレートが乗っていた。
プレートには、
『りつくん、おたんじょうびおめでとう!』
と書いてある。
まほろと祖父さんが手を叩きながら、ハッピーバースデーの歌を歌ってくれた。
二人ともサンタの帽子で笑顔。
サクラたちも俺の脇で尻尾を振っている。
後ろに見えるツリー。
やっぱり、すごく違和感。
でも、俺は泣きそうになってた。
―――嬉しいというより、許された感覚。
だって、俺は母の命を引き換えに生まれた。
兄の戒にも言われた。
『生まれた瞬間、最低でも三人を不幸にした』
その言葉は、幼い俺には呪いのように響いた。
俺の目元にあるほくろ。
「泣きぼくろ」って言うらしい。
「一生泣いて暮らすしるし」っていう話も聞いた。
そんな言葉もずっと頭に残ってる。
兄は、口元にほくろがある。
「一生食べ物に恵まれる」のだそう。
兄弟なのに、俺には全く霊感もなくて、何もかも決定的に違う。
祖父さんが、六本のロウソクに火をつけた。
まほろが言う。
「ねがいごとしてからフッ〜ってするんだって。りつくんやって」
「ねがいごと?」
そんなの考えたこともない。
だって、生まれたことさえ許されない気がしていたのだから。
唯一、願ったことがあるのは、母に命を返せたらってことくらい。
俺が二人に見つめられて困っていると、まほろが張り切って手をあげた。
「じゃあ、わたしが!」
何のことかと見守っていると、まほろが小さな手を合わせた。
「りつくんのねがいがいっぱいかないますように。
りつくんがずっとしあわせでありますように」
他人のために願えと、祖父さんが教えたのだろう。
祖父さんは、にこにこしながら横で見ていた。
……もうだめだ……。
涙をこぼす俺の背中を、心配そうにまほろの小さく暖かい手が撫でた。
我慢できなかった。
◇
「あ。そうだ、これも」
あの日とあまり変わらない表情のまほろが、もう一つ包みをくれた。
開けると、毛糸のハンドウォーマー。
「本堂すごく寒いでしょ? お勤めでも使えるようにあまり目立たない色にしたんだ。初めて作ったの。だから、あんまり細かくは見ないでね」
「……手編みか」
「心は、こもってる自信あるから。着けてみて」
まほろが俺の手を引っ張って、両手首に一つ一つ通す。
「えへへ、ぴったりで良かった」
まほろが笑ってる。
本当に、昔から変わらない笑顔。
自分の手を見つめる。
手よりも、胸の中がじわっと温かくなる気がする。
「ありがとう」
素直に口にする。
「よし! ケーキ食べよう!」
まほろが、うきうきしながらナイフを取り出した。
あれから十年。
俺が今、ロウソクに望むなら……。
―――まだ言えない。
言葉にした途端、何かが変わってしまいそうで。
聖夜に、思いは降り積もる―――
せいや(完)




