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はっぴょうかい~不思議の国と現実の国

挿絵(By みてみん)


うさ耳の律くんは……子ども心にも、とてもかわいかった。


こども園の年長さんの発表会は、『不思議の国のアリス』。

白くて長い耳に、丸いしっぽ。

チェックのベストに、膝丈ズボン。


首からは、大きな段ボールの懐中時計をかけている。


その日は、おうちで発表会の衣装確認をする日だった。

律くんのお母さんはいないし、お父さんは忙しかったから、うちで、おじいちゃんと一緒に。


耳と時計は先生が作ってくれてるけど、衣装は家にあるものを合わせる。

おじいちゃんが、律くんのお父さんと相談して準備したみたい。

律くんは恥ずかしがっていたけど、私とおじいちゃんで「かわいい!」とほめまくった。


本当に、かわいい。

「まほろは? 何の役?」

律くんが不思議そうに首を傾げた。

これまた、耳が合わせて動くのがかわいい。


練習は始まってるけど、チームを二つに分けてるから、律くんは知らないんだ。

出るシーンも違うもんね。

あははとごまかす私の気持ちを、おじいちゃんが察してくれたのか、

役名には触れずに「まほろも、かわいいぞ!」と言ってくれた。

そう言ってくれるのは、きっとおじいちゃんだけ。

かわいくは……ないと思う。


アリスとかメインのキャラは、ダブルキャストだったりする。

それでもまあまあ出番が多い。

私は、出番が少ない方がよかった。

ミュージカルみたいに歌やダンスを挟む役もあるけど、ない方がいいなって思ってた。

そこを先生が汲んでくれたのか、確かに全然動かない、緑色。



私のセリフは二つ。

「君は何者だ?」

「君は何になりたい?」


そして十年後の私は、

その二つのセリフを痛烈に突きつけられている。


『私は、何者?』


以前は、神主の孫娘だった。

子ども用の巫女服を着て、落ち葉一枚拾っても、みんなに褒めてもらえた。

今、おじいちゃんは亡くなって、私は十分大きくなった。

残された神社で降り積もる落ち葉を前に、途方に暮れる。

掃除を頑張っても、褒めてくれる人もいない。


『私は、何になりたい?』


進路も、お金のことも、お母さんの負担もあって、何を選べばいいか分からない。

本当は、おじいちゃんみたいな神職になりたいと思っていた。

けど、食べていくのは難しいと聞いた。

夢の中にはいられない。


どうしたらいいか分からなくて、他の人の意見を参考にしようと思った。


「律くんは、進路どうするの?」


律くんは、体が大きくなるきのこでも食べたのかと思えるくらい、背も伸びた。


律くんは首を傾げる。

うさ耳はもう揺れない。


今も似合いそうだけど、冗談でもつけてくれなさそう。


「大学考えてる?」


「ああ、心理学系かな。精神保健福祉士と公認心理師ダブル取得したら、使えるかなとか。公務員専門職目指せば安定もしそうだし。病院でもいいし。まだあんまり考えてないけど」


「あまり考えてなくて、それなんだ……」


私は大きくため息をつく。


発表会で演じた役の呪縛なのか、

私はまだまだ、蝶にはなれそうにない……。


の年長さんの発表会は、『不思議の国のアリス』。

白くて長い耳に、丸いしっぽ。

チェックのベストに、膝丈ズボン。


首からは、大きな段ボールの懐中時計をかけている。


その日は、おうちで発表会の衣装確認をする日だった。

律くんのお母さんはいないし、お父さんは忙しかったから、うちで、おじいちゃんと一緒に。


耳と時計は先生が作ってくれてるけど、衣装は家にあるものを合わせる。

おじいちゃんが、律くんのお父さんと相談して準備したみたい。

律くんは恥ずかしがっていたけど、私とおじいちゃんで「かわいい!」とほめまくった。


本当に、かわいい。

「まほろは? 何の役?」

律くんが不思議そうに首を傾げた。

これまた、うさ耳が連動して動くのがかわいい。


練習は始まってるけど、チームを二つに分けてるから、律くんは知らないんだ。

出るシーンも違うもんね。

あはは、とごまかす私の気持ちを、おじいちゃんが察してくれたのか、

役名には触れずに「まほろも、かわいいぞ!」と言ってくれた。

そう言ってくれるのは、きっとおじいちゃんだけ。

かわいくは……ないと思う。


アリスとかメインのキャラは、ダブルキャストだったりする。

それでもまあまあ出番が多い。

アリスの衣装は可愛いと思う。

でも、私は、出番が少ない方がよかった。

ミュージカルみたいに歌やダンスを挟む役もあるけど、ない方がいいなって思っていた。

そこを先生が汲んでくれたのか、確かに全然動かない、緑色。



私のセリフは二つ。

「君は何者だ?」

「君は何になりたい?」


……そして十年後の私は、

その二つのセリフを痛烈に突きつけられている。


『私は、何者?』


以前は、神主の孫娘だった。

子ども用の巫女服を着て、落ち葉一枚拾っても、みんなに褒めてもらえた。

今、おじいちゃんは亡くなって、私は十分大きくなった。

残された神社で降り積もる落ち葉を前に、途方に暮れる。

掃除を頑張っても、褒めてくれる人もいない。


『私は、何になりたい?』


進路も、お金のことも、お母さんの負担もあって、何を選べばいいか分からない。

本当は、おじいちゃんみたいな神職になりたいと思っていた。

けど、食べていくのは難しいと聞いた。

夢の中にはいられない。


どうしたらいいか分からなくて、他の人の意見を参考にしようと思った。


「律くんは、進路どうするの?」


律くんは、体が大きくなるきのこでも食べたのかと思えるくらい、背も伸びた。


律くんは首を傾げる。

うさ耳はもう揺れない。


今も似合いそうだけど、冗談でもつけてくれなさそう。

「大学考えてる?」


「ああ、心理学系かな。精神保健福祉士と公認心理師ダブル取得したら、使えるかなとか。公務員専門職目指せば安定もしそうだし。病院でもいいし。寺のこともあるし、まだあんまり考えられてないけど」


「あまり考えてなくて、それなんだ……」


私は大きくため息をつく。


発表会で演じた役の呪縛なのか、

私はまだまだ、蝶にはなれそうにない……。


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