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けがれー女友達と怪奇現象 2

「まほろ?」


「あ……律くん! 来てくれた!」


 律くんは、私たちに異変を感じたみたいで、こちらに走ってくる。



「律くん、黒い手が……」


「黒い手?」


律くんの足元にも薄くうごめくけれど、律くんは視えないし、怯まない。


「ああ、そっか……」


(大丈夫……大丈夫だから……あれは幻想)


自分に言い聞かせる。律くんがいる。ひとりじゃない。


その瞬間、足に絡みついていた冷たい感触が、すっとほどけた。


「大丈夫か? 帰る時間なのに姿が見えないから、変だと思って探してたんだ」


私は返事もできず、真希ちゃんを抱えたまま、その場にへたり込んだ。


私と律くんで、真希ちゃんをベンチに座らせて、自販機で買った暖かいココアを飲ませた。

さっきより、顔色も少し良くなったみたい。


「真希ちゃん、昨日から何か変わったことがあったの?」


そうでもないと、障りがあんなに大きくなった説明がつかない。


「一緒に肝試しに行った子が、昨日また事故に遭ったらしくて……。

私も“次は自分かも”って思ったら、怖くなっちゃって……」


真希ちゃんは、泣きそうな顔をしている。


――――――――――――――――――――

怖い……

――――――――――――――――――――


また声が聞こえる。これは……真希ちゃんの声……。

治まりかけていた障りが、ザワッと真希ちゃんの後ろで揺れる。

……強い恐怖。

真希ちゃんの強い恐怖が、障りを強めている。


『本来の人の力は、障りに負けたりしない』のだとおじいちゃんも言っていた。


だから、障りに対抗する一番の方法は、”強気でいること”だそう。 


免疫力が高い人は、ワクチンがなくてもウイルスに負けないことが多い。

きっとそんなイメージ。

さっき、私は弱気になって、恐怖に負けそうになった。

 

でも律くんが現れた時、光が視えて、恐怖は緩んだ。


(律くんの力かと思ったけど、たぶん、私がホッとしたから……)


私は、律くんを真希ちゃんから少し離れた場所に呼んだ。


「律くん、真希ちゃんの悪霊祓いのために、お寺でお経あげてくれる?」


律くんは、眉をひそめた。


「うち、浄土真宗だし。そもそも仏教は、お祓いしないぞ」


「律くんのお経、とても落ち着くし、私も律くんがいてくれるだけで心強いから!」


私は力説する。


「……仏様の力で人の心を慰めるのは、仏教の本懐だし。それでいいのなら……」


私は、思わず両手で律くんの手を握った。

律くんが、ハッとして、手を凝視する。

驚かせたかなと思って、私は手を放す。


「ありがとう! 後で何かお礼するね」


「べ……別に……大したことじゃないし……」


律くんは、赤い顔で自分の手をしばらく開いたり閉じたりしていた。


私たちは、真希ちゃんと一緒に律くんの家、春光寺に向かった。

真希ちゃんは、お寺にあまり縁がないそうで、少し気後れしているみたいだった。

確かに、私も律くんと幼馴染じゃなかったら、同じ反応になったと思う。


律くんが、布袍に着替えてきてくれた。

真希ちゃんは少し驚いている。制服と全然印象が違うからかな。

私は、真希ちゃんに言った。


「律くんのお経、とても心が落ち着くし、力があるよ。私が保証する」


そして、真希ちゃんの手を握った。


「私たちが、ついてる。安心して」

障りは、こっちが“怖い”って思うほど強くなる。

だから、安心することが、いちばんの薬だって、私は信じている。

真希ちゃんが、深く頷いた。


律くんが輪袈裟を首に掛けて、阿弥陀様の前で読経を始める。

私と真希ちゃんは、律くんの後ろに正座して、手をあわせた。

お線香の香りの中、しっとりと響く律くんの声。


格子窓から差し込む光。

歴史ある本堂は、抜群の舞台装置。


お経が始まって、すぐ、真希ちゃんが顔を上げて、息を飲んだ。

天井の梁の影に、黒い手がうごめいているのが視えた。

真希ちゃんの気持ちが、不安で揺らいでる。


私は、真希ちゃんの手を握った。

読経の邪魔にならないくらいの声で語りかける。


「大丈夫、私たちがついてるから」


真希ちゃんが、静かに頷いた。


読経の流れに乗って、真希ちゃんから障りがふわりと空へと抜けていく。

光に還すように。

本堂の中も明るくなった。さっきの梁の影も見えない。

空気も澄んだ気がする。


お経が終わる頃には、真希ちゃんの顔色はだいぶ良くなっていた。

真希ちゃん自身も「頭が軽くなったよ」と言っていた。


真希ちゃんを見送って、律くんが言った。


「よかったのか? お祓いじゃないけど」

「大丈夫だと思うな。律くんのお陰だよ」

「お経は日課だし。相変わらず、俺には何も視えないし」


確かに、何度も助けられた律くんのお経の効果、視せてあげられたらいいのに。


「……あ、そうだ。律くんにお礼しなきゃ。何か希望ある? 私ができることなら、何でもするよ」


「何でも…………………………」


律くんは、しばらく空中を見上げていた。ボーっとしてる。珍しい。

読経で疲れたのかな?

数分待ったけど、返答がないから、私から提案してみる。


「律くん、ケーキは? ショートケーキ好きだよね。おごるから。ケーキ屋さん行こうか」


ケーキはとても美味しかったしお店も可愛かったのに、律くんは始終ぼんやりしていて、いまひとつ反応が芳しくなかった。


けがれ(完)


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