第41話 ピエロは語る⑨
「で、偽聖女さん、俺の言っていることに間違いがあるってのはどういうことだ?」
ヴィルは威圧的に麻友に聞いてくる。
「何、簡単なことだ。皆が神を信じれば、皆正常になり、同情し、助け合う社会になる。そうなれば神に祈らずとも助かり、幸福になる。故に神は死に、信仰の基となる死の恐怖へ無自覚になる。これには何の間違いもない。あたしも同じ考えさ」
「なら、どこが違うんだ!」
語気を強めるヴィルに対し、麻友は諭すように言う。
「違いは無い。ただ矛盾があるだけだ。イャザッタは信じるものでなくい在るモノだ」
「ッ!偽聖女だから聖典が史実とでも言うのか!」
怒鳴るヴィルを誂う様に麻友は、まあまあと手振りをする。
「聖典が丸っきり史実だなんて言ってねぇよ。ただ、あたしはイャザッタ本人をこの目で見て会った事があるだけだ。ありゃ、聖典で語られるほどじゃないにしても強かったなぁ」
「会っただとぉ……!莫迦も休み休み言え!いくら偽聖女とは言え安置されている聖堂へ入り、その身を確認するなど!それも戦ったとでも言うのか!」
ヴィルの余りの興奮した様子に舎弟たちもどよどよとざわめき始める。
「まあまあ、落ち着けよ。イャザッタが死んだなんて反教会的なこと言う割には実物がいる、いないなんてつまんないことでカッカするなよ」
麻友は完全にヴィルのことをおちょくっている。
(麻友さん!いい加減にして下さい!いくらなんでも人を莫迦にしすぎですよ!)
アフラが静止するも激昂したヴィルは右腕を振り上げようとしている。
「ガキが!いい加減にッ」
「誰よりもイャザッタのことを信仰してるんだな」
ピタッ
ヴィルの振り上げた拳がそこで止まる。
「魔女信仰の強いこの街で誰よりもイャザッタのことを信仰している。いや、信仰していたいと思うからこそ、信仰の行き着く先の矛盾にも気がつく」
「ッ……!違う……俺は……そんなつもりで……!」
口では否定したがっているが、力なく振り上げた腕を元の位置に戻す。その動きが全てを説明していた。
「てめぇが、誰よりもイャザッタを信仰していること、これが致命的な矛盾だ。そして――」
「やめろ……そこから先は言うな」
麻友が何を言うのか察っし、ヴィルは震え声で懇願する。
それを見て麻友は笑顔を歪ませる。
「そして、死の恐怖により信仰を実感しようとするが、1500年前に魔女が示した反教会的な信仰に、てめぇの信じたい信仰が上書きされてるのが堪らなく苦しいんだろ?」
「あ、あぁ……そうだ……俺は……」
先程まで麻友に神経を逆撫でされ、激昂していたヴィルヘルムは既に言い返すことも出来ず項垂れている。
「あ、兄貴、だ、大丈夫ですか……?」
「ほ、ほらこんな女の言う事なんか気にしないでくだせい」
舎弟たちが励ましているが、彼の耳には届いているのか怪しい。
「だが、ヴィルヘルムつったけ、てめぇは偉いよ。イャザッタの教えは正しいと思いつつもしっかり疑い、自分で考えて魔女信仰の大きいこの街で殺しも盗みも下等と見下し、潔白の身で必死に啓蒙しようとしてんだから」
「……皮肉か。憐れんで見下すならもう良いだろ……」
言い負かされ覇気を失っているヴィルが辛うじて言い返す。
麻友はさっきまでの人を莫迦にしたような笑顔を止め、真面目な顔つきで言う。
「いや、純粋に褒めてんだよ。世の中には狂信から同情のためなら殺して、金を奪っても良いっていう奴がいるのにさ」
「まさか……。お前、いや……」
ヴィルの肩がビクッと一瞬震える。
「証拠はない。ただ、この街でイャザッタを信じている人間の条件は限られる……」
ヴィルは諦めた様につぶやく。
「どうやら隠し事は出来ないらしいな」
「話してもらおうか。ヴィルヘルム、てめぇの義兄弟について」
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