第33話 ピエロは語る①
テンシュタンの町を出て1ヶ月近くがっ経った頃、麻友たちはついに魔女信仰が残る街、リンベへとたどり着くことが出来た。
「ひっー、やっと着いた……」
(学生時代に聞いてはいましたが、思ったよりも大きくて綺麗な街ですね……。教皇区とも張れるくらいに)
リンベの街は煉瓦の建物が並ぶ整然とした街で、平地ゆえに区画もきっちりと整えられていた。
とは言っても、テンシュタンの様に綺麗すぎる訳もなく、裏路地や橋の下などには物乞いの姿を見ることも出来た。良くも悪くも街の見た目は正常なものである。
「これじゃ、どの医者か探すのも難しいな……」
魔術の存在により、医療は発達していないが、セナの様に趣味で研究するものもおり、そういった人も珍しくはない。
これほど大きな街となればそういった趣味人が複数人いるどころか、弟子を取って教える何てのも商売として成り立ってしまう。
「そもそも、セナもセナだ。”リンベで兄が医者をやっている”これ以上の情報はねぇんだから。探せってのも無理な話だ」
(うーん、そうですしょうか?)
「あ?」
アフラが麻友に異を唱える。
(弟がセナ・ハンターだという事は分かっているんです。名前が分からなくとも、下の名前がハンターなのは分かっていますから、とりあえずお医者さんや診療所に聞き込みをすればきっとたどり着けますよ)
「だと良いがな……」
くうくう
「……」
(……)
「まあ、先ずは飯だな……」
テンシュタンの町から結局、大した物資調達もできず、騙し騙しリンベへとやって来たせいもあり身体は疲れ切っていた。
時期は6月、だんだん暖かくなってきたとは言え、リンベではまだ涼しい日が時折ある。ここ1ヶ月、ろくに食事を摂れていない身としては温かいモノが食べたい気分だ。
辺りを歩いていると、温かな匂いが漂っており、そちらの方を見ると軽食屋が見えたのでそこで食事を摂ることにした。
「いらっしゃいませー……」
店に入ると店員が挨拶をしてくれたが、その言葉はガチガチに固まっており、顔も引きつっていた。
(何があったんだ……?)
その疑問はすぐに解消された。
店の中は確かに美味しそうな料理の匂いがするモノの異様な臭いが混ざっていた。ツンと鼻を指すアルコールの臭いである。
客を見てみると麻友の他には男が1人しかおらず、臭いの主は自ずと特定された。
(最早、懐かしい臭いですね……)
(ああ、セナといた時はいつもこの臭いを嗅いでたからな。だけど、なんで店は避けてんだ……)
医者特有の臭い。それを嫌う人もいるだろうが、あのセナの手伝いとして働いていた時でさえ、村人たちは声に出して嫌うことはしていなかった。ましてや都会のリンベで、である。
(まあ、医者もピンキリだし、目の前の医者は評判が悪いのかもな)
周りの人は気にするが、あたし達はあくまで旅の身、気にせず大盛りのシチューとバゲット3本にチーズを注文する。
(視線を感じる……)
ジーと目から音が出そうなくらい、暫定医者があたしたちの方を見てくる。
(なんでしょう。女性が1人で食事を摂るのが珍しいのでしょうか)
(いつも嫌われて1人で食ってるから、あたしらのこと珍しがってるだけじゃねぇか?)
男はしばらく眺めてくると自分の食事へと戻った。
(なんだったんだアレ……)
そんなこんな考えていると目の前に料理が届く。
「うおっ、これよ!先ずはそのまま食べて……うん!うめぇ!あたたけぇ!」
(少しくらい私にも変わって下さいよ!)
アフラが訴えてくるのも無視して、シチューをバゲットをチーズを食らう。1ヶ月ずっと空腹と戦ってきただけあって、そろそろ完食が近くなってきてもその手は止まらなかった。
「うんうん!……ん!ガハッ……。はぁ……はぁ……カハッ、カハッ……」
食べている途中、突如として呼吸ができなくなる。目はくらみ平行感も消える。
(な、なんだコレ……)
(わ、私も力が……)
突然、視界が揺らぎ意識が遠のく。意識が消える最中、最後にかすかに男性の声が聞こえ。
「あーあ、やっぱしか……」
*
目が覚めるとそこは病院のベッドの上だった。
(2回目ですね……)
体はアフラへと入れ替わっていた。街中で倒れたのだ。いくら店員と他1人とは言え、入れ替わる所を見られたのは確実だ。折角、リンベへ来たが長くはいられなさそうかなと考えながら、徐々に意識がハッキリしてくるとベッドの周りにいる数人の人に気がついた。
「へっ……?」
ガバッ
慌ててベッドから上半身を起こす。ベッドの周りには老若、複数人の白衣を来た男性がいた。
「おお!弟からの手紙を受け取った時は、まさか本当にそんな人間がいるとは思わなかったが、面白いもんが見れたな!」
医者たちは興奮を隠せず、互いに顔を見合わせる。
「ビフロンさん、まさかねぇ。本当にそんな特異体質がいるなんて!」
「ああ!セナ先生みたいに腹の中が見れないのが悔しい!」
反応から見るに周りへいる人達は医者なのだろうか。皆が皆、私たちの特異性に驚いている。
(ただ、それよりも――)
「あ、あの……先程、弟からって」
「ん?ああ……」
医者のうち、1人がこちらへ向き変える。その体格は街で見た人そのもので、顔にはセナの面影があった。
「私はビフロン・ハンター。ここで解剖医をしている」
「は、はじめまして、アフラ・フォーグマと申します……。マリンサでは弟のセナさんにお世話になりました」
「いやいや、むしろ、弟の方が世話になった。それと……すまんが、皆は一旦席を外してくれないか」
ビフロンが声を掛けると他の医者たちは自分たちの持ち場へ戻っていった。
「その……君がアフラってことは、飯屋でみかけたちっこいのがマユって人か?」
「え、えぇ……」
セナからの手紙でおおよそこちらの事情は知っている様であった。しばらくはこの病院で手伝いをしながら魔女について調べることを快く了解してくれた。
「あ、それと……」
部屋から出る時、ビフロンが思い出したかのように言った。
「旅で疲れているのは分かるが、急なドカ食いは死ぬからやめた方が良いぞ」
「ッ……!」
どちらかと言うとそれをやったのは麻友であるのに恥ずかしさで全身が赤くなるのを感じた。
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