第27話 魔橋の山⑩
「テンシュタンの町民たち!あたしの方を見ろ!」
尖塔の頂上から身を乗り出し、屋根へ登ってフィニアルを掴み麻友が叫ぶ。
「魔女め……何をする気ですか……」
辺境の教会とは言え眺めは格別で町中を見渡すことができる。炯々と教会前の広場で瞳を輝かせるプロリン師から外れにある牧場、家々の窓から不安そうにこちらを見つめる町民の姿まですべてがハッキリと目にすることができる。
スッーと深呼吸をすると麻友は語り始めた。
「イャザッタの権力は、この世界に安寧をもたらすモノであり、2000年と言う期間、世界の問題に対処する権能を保有してきた。しかし、教会たちは自らが最も言いたくなかったことを信者たちに示さざるを得なくなった」
「あの魔女の口を塞ぎなさい!ナイフを私に!早く!」
麻友が喋り始めるとプロリン師は慌てて逃げ延びて来た信徒に指示をする。
「は、はい!」
「執務室の壁にあります!早く!走りなさい!」
プロリン師が信徒へ喝を飛ばすが、町民たちは麻友の言葉に耳を貸していた。
「つまり、彼らのこれまでの行いは失敗であったことを、彼らのプロパガンダでもある聖女であるあたしが指摘せざる得なくなった!」
麻友が懐から聖女とし証を掲げ、町民たちに示す。
それと同時に町中からどよめきが起きる。聖女であるものが教会と敵対し、そして今、糾弾しようとしている。魔女の伝承が残り、教会による暴挙を最近被ったテンシュタンの町にはそれは恐ろしく衝撃的なことであった。
「魔女め……折角取り上げたのに私の執務室から証を回収していましたか……!」
「現在の教会は、2000年前の当初、この世界をこれまでよりもより良い未来に導きたいという希望を持ってはいたものの、彼らが実際にイャザッタの後光で成し遂げた唯一の成果というのは、イャザッタとイャザッタの信仰を今日まで存続させているということだけだ」
(ザマァ見ろ。あたしの足元で冷静さの欠片もなく慌ててらぁ)
「2000年前、彼らはあたしたち民衆、特に信者に対して、この世界の人倫をより良いモノにすると堂々と宣言した。しかし、それから約束は曠日弥久であった。教会は信者や東夷に対して、和平の実現を全く示すことができずにいるのが現状だ」
「はぁ……はぁ……、神父様!お持ち……しました……」
麻友の演説に町民たちが耳を傾ける中、プロリン師の手に儀式用ナイフが手渡される。
「遅いですよ!……しかし、彼女の演説もこれで終わりです。さあ、再び落下して死になさい」
プロリン師は1週間前、アフラの視力を一時的に奪った魔術を使おうとする。
(《闇の目》はいわゆる禁術、その中でも対人用の強力なもの。手違いで加護を受けてしまった魔女相手に確実に効果を発揮するには多くの魔力が必要ですが致し方ありません)
自らの手のひらにナイフで傷を付け呪文の準備をする。その時――。
「ウッ!こ、これは……」
プロリン師の視界が歪む。
「……様!……ま!」
(まさか、執務室にあった毒も持ち出して……)
意識が遠のく中、最期の力を振り絞る。
「……《祝福》」
「神父様!大丈夫ですか!」
「……私としたことが魔女に不覚を取りましたか……」
プロリン師の体はこのたった一瞬でやつれ果てていた。
「いいですか。しばらくしたらあなたの魔力も使わせてもらいます」
「え?どういう」
「魔女を倒すのには消耗が大きすぎるのですよ……」
「……わかりました」
膝をついたプロリン師は回復に専念する。これほどまで即効性があり、強力な毒だ。回復にもそれなりの魔力を使うのは考えないでも分かる。また、毒の排出となると全身から汗が吹き出し、尿も漏れ出している。
もはや、この神父に自身が漏らすことを気にする余裕は無かった。
「全能なる神は、この共同体をこの2000年間で少しづつ不自由に導いてきた。このように浅慮な神はこの共同体にいつか全ての人民が狭い思いをするように導くだろう。あたしは自由を信じている。あたしは自由のために戦う」
「少し持ちなおしましたね。手遅れですが構いません。行きますよ」
「は、はい」
先程までの慌てぶりは嘘のように神父は眼光に炯々とした光を取り戻し、呪文を信徒と共に唱える。
「「アウヘ・ル――」」
「《稲妻の招来》」
ドゴッーン
「そして必要で……へっ、な、なんだ……あっ!」
突然の雷に麻友は呆気に取られフィニアルから手を離してしまう。
「お。おっおわ!」
情けない声を上げながらも何とか塔の窓枠を掴み、塔の中へと転がり込む。
雷が教会前広場に落ちる。落ちた先には火刑様に用意した藁と油があり、爆発が起こる。
「キャッー!」
「ひぃ!神の怒りだ!」
町民たちが突然の雷に怯え惑う。
「がっはっ!」
プロリン師と信徒は爆発により吹き飛ばされ意識を失っている。
ボンッ!ボンッ!
引火した油がさらなる爆発を引き起こし、燃えた藁が建物へと飛び散り引火する。
広場であったことが幸いし、住民たちの家々には燃え移らなかったが、教会とその周辺施設は少し前の火刑など比べ物にならない火の海へと化していた。
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