第26話 魔橋の山⑨
「鍵のかかってる扉には近づくな!」
「いたぞ!回り込んで挟み撃ちにしろ」
流石に逃げ続けるのは無理で、信徒たちに見つかっては隠れる、うまく巻くというのを繰り返している。
運が良いことに2人は罠にハマって殺せたがそれでも15人は信徒がいる。
(だが、例のモノは見つかった……。どこまで効くか分かんねぇが賭けだがな)
「ほぉら!捕まえた!」
「なッ!」
回り込んできた信徒に捕まる。
「離しやがれ!」
「魔女め!良くも仲間を……アッが……」
ツプッ
麻友は死体から予め奪っておいた儀式用のナイフを腹部へ突き立てる。
勿論、信徒も警戒しているし、身につけているローブは雪山ということもあり、そこそこの厚さもある。儀式用のナイフが深々と致命傷になることは通常ならば無いはずであった。
「っふー。こんな強力なんか……。ま、そりゃ火刑になるのも分かるな……」
麻友は懐から小瓶を取り出し眺める。
「”グッディー・ハーフペニー”――魔女の毒を用いた罪……か。良いもん作るじゃねぇか」
火刑に処されたということは、いくら過激派とは言え、何かしらの証拠がなければ無理だ。毒を用いたのならば、その毒がどこかに証拠として保管されていると思ったが、その予想は当たっていた。
(強い毒だとは思ったが、ここまで即効性なのは……流石、処刑されるだけあるか……)
「いたぞ!」
「おっと」
再び麻友は逃げ出す。まだ、作戦は途中だ。ここで捕まるわけにはいかない。
「大丈夫か!しっかりしろ!」
「あ゛……ブブブブ……」
「クソっ、魔女め……」
*
「プ、プロリン師!報告します。現在、死者10名……数の上ではまだこちらが上で、追い詰めてはいますが、被害が限界です……。正直なところ、捕まえられるとしても数人は更に死者が出るのは確実で、そのため捜索を諦めてる者も……」
「はぁ……。それでどうしろと。私に魔女を見逃せとでも言うのですか?」
ため息を付くとプロリン師はその眼光を炯々と輝かせ信徒に詰め寄る。
「イャザッタ様により死後救済される人間は既に決定されています。魔女を捕まえるために一所懸命仕えた者と死を恐れ逃げた者、イャザッタ様がお救いになるのはどちらでしょうか?それとも逃げることでイャザッタ様の決定が間違っていたとでも言いたいのですか?」
「い、いえ……それは……」
その瞳は光り輝きすぎて、何を見据えているのか分からなかった。
過激派、プロリン師が教皇区でその様に呼ばれ恐れられてきたのは、その施策ではなく、この瞳、イャザッタへの狂信が人々に恐怖を与えたからだろう。
「……。教皇区の方へは既に連絡済みです。捕らえた時点でね。あなたも善い仕事をしなさい。イャザッタ様のために」
「は、はい!」
信徒は慌てて教会へ掛けていく。
教皇区からテンシュタンまでは通常、数週間はかかる。だが今回の魔女騒動となれば1週間もあれば精鋭が送られてくる。そのことをわかっていて処刑まで1週間待つ。
そうすれば脱走を考えても捕縛する事ができる。より大きな視点で俯瞰して考える。それこそが善い仕事の条件なのだ。
「魔女など大層な名ですが、所詮は社会不適合者、善い仕事と信仰の前には不要な存在なのです」
すべてを見透かすように慌ただしい中、ただ1人プロリン師は落ち着いていた。
その時――。
「テンシュタンの町民たち!あたしの方を見ろ!」
教会の尖塔の屋根に麻友の姿があった。
*
――少し前。
「はぁ……はぁ……階段駆け上がるのはやっぱ辛れぇな。なんで、教会は田舎でも尖塔があんだよ」
愚痴を零しながらも準備を進める。死にたくなく、脱落した信徒たちもいる。あと10人程仕留めれば、信徒たちは片付く。
(そうなりゃ、町の人も胸がすくだろ。そこに高説垂れてやりゃ信仰なんてイチコロだ)
「気を付けろ!この上に追い詰めたとは言え、10人が犠牲になっているんだ」
「けッ、早速来やがった」
頂上の部屋への跳ね上げ戸はあえてただの鍵しかしていない。だが――。
「む、鍵が掛かっている。注意しろ、しっかり解錠するからな」
ここまで《灰の封印》で殺して来たのだ。信徒たちが鍵1つに疑心暗鬼になるのは仕方ない。
「……?この鍵……魔術が掛かって……ない?……!お前ら!下がれ!」
「気付くのが遅いぜ!」
麻友が上から思いっきり、跳ね上げ戸の上に飛び乗ると跳ね上げ戸は簡単に全体が外れた。
「鍵ばっかり見てないで留め具も見るんだったな!」
「グギャっ」
「おおっと、バランスだけは崩さねぇようにな」
ブチッ、ブチッ
尖塔への螺旋階段は恐ろしく急であり、すべり台の様に跳ね上げ戸は信徒たちを下敷きに滑り落ちていく。
麻友の体格は130cmの35kg、甘香は181cmの75kgである。身長こそ変わっても体重は変わることはない。
共有している部位もあるとは言え、体重は80kgを超す。それだけの重さの物が階段の上から落ちてきて、その下敷きになる。その場合の被害は想像に固くない。ましてや、その背後で多数に人が将棋倒しになるとするならば悲惨なことになるのは避けられない。
1階に着く頃には階段は赤く染め上がっていった。
「あたしとしたことが、これじゃ何人殺したかカウント出来ねぇな。でも……」
辺りを見渡すと先程まで煩かった信徒たちの声が聞こえなくなっていた。
「全滅ってとこか。逃げた奴もいるかも知れねぇが、計算じゃ1人か2人程度は生き残るの覚悟してたんだけどな」
麻友はそう呟くと血で汚れた階段を再び登るのであった。
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