80・大混雑からの奇襲による勝利の戦術
前話で誤解している方も居るかも知れないので…僕の名前は『黒猫キッド』ですが、この『キッド』は某怪盗からではありまへん。『サイボーグにされた猫』から取ったので、一応誤解しないで下さいなぁ。
「なっ!? ち、違う! 今の私ではない!」
暮羽は慌てて観覧席に怒鳴るが、零華と暮羽が居る場所は観覧席からは死角になっており、A組一行や兵士達から見えない。その為に兵士達は混乱していた。
『何をしている! 今のはあの子供の嘘だ! 構わず来い!』
と、再び暮羽の声で怒鳴る零華。
「違う! 私が本物だ! 惑わされるな!」
『いいや! 私の方が本物だ! 急げ!』
暮羽と零華が交互に叫んだ。
兵士達は混乱していた。確かに聞こえる声は隊長のものであるが、一方は『来い』という指示、もう一方は『来るな』という指示という、対を成す命令であった。その結果…半数以上の兵士達が、フィールドに移動を開始した。
一方A組一行は、零華の変声術に驚いていた。零華の次に頭の良い来季や和樹が、聞こえてくる二つの正反対の暮羽による声の会話から、もう一つは零華が暮羽の声を模倣して喋っていると推測出来た。
「何だよアレ…零華、あんな技術まで会得してたのか?」
茫然とした声で修兵が呟いた。
「…完全に…あの隊長の声を模倣している…理奈は零華があの様な術を会得しているのを、知っていたのか?」
シエラが理奈に尋ねるが…。
「知らない…零華があんな事出来るなんて…私知らなかった…」
今まで幼馴染の事は理解していると思っていた理奈だが、零華の今回の変声術、そしてこの世界に来てから見せた様々な技等、自分が知らない事が多かった事に茫然とする理奈だった。
※ ※
零華と暮羽がお互いを警戒し合っていると、二人は此方に向かって来る大勢の気配を感じ取った。すると大勢の兵士が現れて、辺りはあっという間に人だかりになった。
「暮羽隊長! 大丈夫ですか!」
駆けつけた兵士の一人が、暮羽に安否を求めた。
「ば! 馬鹿者! 来るなと言っただろう!」
来てしまった兵士達に怒鳴る暮羽。
「えっ? でも隊長が来いと…来るなとも言っていました為、半分程来ませんでしたが…」
戸惑いながらも兵士は説明をする。
「それは私ではない! この者が私の声を…あれ?」
何時の間にか零華の姿は無かった。
「ど、何処だ!?」
兵士の間を注視しながら、辺りを見回す暮羽。その時…
「ゾクッ!!!!!!」
首筋にただならぬ気配を感じた…殺気である。
「っっ!!!」
反射的に背後に振り返るが、其処には突然殺気の籠った目で睨む暮羽に動揺する兵士。すると次の瞬間、先程迄向いていた方角に向けられた首の裏に、冷たくて鋭い感触を感じた。
「…うふふ…捕まえた♪」
無邪気な声で告げる声の主…零華だった…その手には先程迄暮羽が握っていた長針が握られていた。先程の蹴りで落としてしまい、それを零華がドサクサに紛れて拾っていたのであった。その先端は暮羽の首の裏に突き付けられており、あと一mm程で暮羽の首を突き刺せる状態であった。
零華は妖艶な笑みを浮かべているが、あと少しで暮羽に突き刺せる状態であり、その事に暮羽は当然ながら、周りの兵士達も全く動けなかった。
僅かでも動けば…この子供は躊躇なく刺す…その場に居た全員がそう判断した。
「暮羽隊長…降参して下さい…」
とても優し気な声で零華は言うが、それは何処か有無言わせない雰囲気を持っていた。
「…分かった…私の負けだ…」
暮羽が降伏宣告を告げると、零華の殺気は消え去り、零華は長針を引いた。
「ごめんなさい暮羽隊長。どうしてもこうするしか無かったんです…」
と、申し訳なさそうに告げる零華。その様子は先程迄はまるで別人の様であった。
暮羽も暮羽の部下の兵士達も、その零華の様子に安堵と恐怖を感じるのであった。
『何なんだ…この子供は…』
高い分析力と判断力、自分と互角に渡る戦闘術、自分でさえ会得していない変声術による誘導策、そして子供とは思えない殺気…暮羽にはとても零華が、只の子供とは思えなかった。
『まさかな…姫様以外に年下に負けるとは、私も思わなかった…強者だなこの子は…』
多少動揺しながらも、暮羽は零華に対して高い評価を付けたのであった。
零華は可愛くて怖い!?
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