77・挑みの理由 袖の理由
ペースダウンや! エンジン出力が落ちてきた!?
「えっと…それは何故ですか…?」
突然の暮羽からの指名に、零華は戸惑いながら尋ねる。
「聞いた話では、貴様はユリアンと互角に戦ったらしいな」
「まあ…そうですけど…」
「二十年前と同じ様に異世界から来た者で、隊長の一人と互角に戦ったのなら、武士として戦ってみたいものだ!」
「そう…ですか…?」
暮羽の主張に、零華は更に戸惑う。零華は少し考えて、答えを述べた。
「分かりました…その申し出受けましょう」
「…良い返事だ」
暮羽は満足そうに頷いた。
「付いてこい。特別な訓練場で戦うぞ」
暮羽はそう告げると、何処かへと歩き出した。零華は此処でやるのではないのかと思いながらも、何も言わずに付いて行った。その後をユリアン、A組一行、暮羽の部下達も付いてくる。
零華の前を歩きながら、暮羽は考えていた。
『この零華という奴…本当に強いのか…? とてもそうには見えないが…』
暮羽はユリアンと互角に渡り合ったと聞いた事から、相手が屈強な人物だと想像していたが、実際に会ってみれば、その人物は右目を布で隠した、どう見ても女の子にしか見えない子供だった。
『まあ良い…噂に尾鰭が付いたという可能性もある…私自身で見極めてやる』
そう暮羽は考えた。それに気づいているかは分からないが、零華は暮羽の背中を見ながら付いて行く。
※ ※
零華が案内されたのは、大小様々な障害物が辺りに鎮座した、奇妙な訓練場だった。今そのフィールドに居るのは零華と、その零華と向かい合って立っている暮羽だけであった。他の人達はフィールドの両サイドのある、見物席の様な場所から見守っている。
「さて、始めるか」
そう暮羽が零華に告げた時…
「あの、質問良いですか?」
零華が尋ねた。
「何だ?」
「小桜隊長さんは…」
「暮羽で構わない。部下も私を呼ぶときは、下の名で呼んでいる」
「じゃあ暮羽隊長さんは、僕達と同じ様な名前ですよね? もしかして、前回来た学生たちの子供とかじゃないんですか?」
少々失礼かと思いつつも、暮羽の名前が日本人である事から、気になって尋ねたのであった。
「いや。私はこのエグ・マリン王国とは、別の国の出身だ。その国では私と同じ様な名前の人々が住んでいる」
『成程…この世界で言う、『日本』の様な国があるって話だよね…』
イタリアがこの世界でいうエグ・マリン王国なら、この世界版の日本が存在している事に、違和感は無かった。
「もう一つ質問良いですか?」
「構わない」
「暮羽隊長さんの武器って…腰のナイフだけですか?」
零華の手には、此処に来る途中に渡されたロングソードが握られているが、暮羽の方は先程此処に来る途中で見た、腰のナイフだけであった。だが暮羽はそのナイフすら抜いていない。
「なに…すぐに分かるさ…」
と、好戦的でどこか嗜虐的な笑みを浮かべる暮羽。
「……」
零華が気になったのは、暮羽の両腕の肘から手まで隠している袖であった。一見すると地球でいう萌え袖の様に見える(零華が知っているのは、修兵から聞いた為。理由は零華にさせようとした。尚、零華は断固拒否した)。しかし零華はその袖に、妙な警戒心を抱いた。
「そろそろ良いだろう…始めるぞ?」
「はい…お願いします」
零華は鞘から剣を抜いて、左手で構えた。
「行くぞっ!!!」
その言葉と共に、暮羽は突っ込んで来た。
『素手で…? いや! 何かある!』
零華がそう思った瞬間、暮羽は両腕の裾を振るった。すると何かが飛び出て零華に向かってきた。
キィン! キィン!
零華は咄嗟的に剣で防御態勢を取った。すると金属音と共に何かが剣に当たり、地面へと落ちた。それは飛刀と呼ばれる投げナイフであった。
「……」
零華はその飛刀が暮羽の袖から飛び出たのを見て、零華は暮羽の部隊が『暗殺・諜報』が主な任務だという事を思い出した。
「暮羽隊長…貴方の武器はもしかして…」
零華が暮羽に尋ねると、暮羽は一瞬驚いた表情を浮かべて、笑みを浮かべて答えた。
「ほう…広橋…貴様気付いたか…そうだ…私は暗器使いだ…」
今の一撃で初見で見抜いた零華に、暮羽はますます戦闘意欲を抱いた。
暮羽は暗器使いやった! 因みに何気に零華の事を名字呼びや(A組一行は、お互いを名前呼びの為、名字では呼ばないので、名字呼びのシーンが珍しい)。
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