↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉少女と時の魔法使いのマジカルライフ  作者: ラキューム
第一部
34/38

避難命令

「ああもう、離しなさいサツキ!」

「クレア様、そう焦らぬ方が良いかと。今の我らの実力で解決できる事態ではありませぬ」

「今行けばチャンスなのよ! 何かあればメリッサ様だって現地におられるし、雑兵程度に後れを取る私じゃないのよ!」

「駄目です。行くとしても私一人、そもそもグレース様が許可をお出しになるわけがありませぬ。貴女様はこの国を背負って立つ人間の一人なのですから、どうか弁えてください」

 ヴェルディに着いてからというもの、クレア様はずっとこの調子だ。私とてレーギャルンの所在などは心配でならないが、未熟者が首を突っ込むべきではない案件だという事は理解できているのだ。それにも関わらずクレア様は行くといってこちらの諫言など聞く耳持たず。本当に困ったお方だ、始祖様にお仕えする事とどちらが大変なのだろうか。まあいい、それでも止めないと本当に取り返しのつかないことになりそうだからいっそ力づくでも構わないから止めるとしよう。

「しょうがありません、しばらくお眠りください。とうっ」

「なによっ! カハッ」

 手刀を彼女の鳩尾に刺して気絶させた。もちろん体を支えて地面と接吻するような事態は回避する。

「すまない、ちょっといいか?」

「レオリック様、どうかされましたでしょうか」

 そうか、そういえば王宮にいたことをすっかり失念していた。場所こそクレア様の御部屋だがあれだけ騒げば他の人物が聞きつけてきてもなんら不思議な事ではない。そして入って来られたのはクレア様の兄上、この国の第一王子のレオリック様。精悍な顔立ちにクレア様と同じ金髪。背も高く体も引き締まっており、いかにも美男子といった方である。

「いや、妹が騒いでいるのは割と何時もの事なのだが急にくぐもった声を上げたのでな。何かと思い見に来た次第だが、一体どういう状況だ?」

「癇癪をおこされたので鎮圧した次第です。」

「そ、そうか。あまり宮殿内で暴力沙汰はよして欲しいのだが、そういうことならしょうがないという事にしておこう。それで、クレアはどうしておけばいい?」

 良かった。最悪牢に入れられるかと思っていたがお咎めなしのようだ。それどころか後の事をやって頂けるらしい。なんてありがたいんだ。

「ベッドの上にでも寝かせて差し上げてください。そのころには頭もある程度冷えていらっしゃるでしょうから」

「わかった。お前は・・・、そういえば名前を聞いていなかったな。何という?」

「サツキと申します」

「わかった、後の事は私に任せておけ。そして早く帰るがいい、馬車くらいは出してやる」

「ありがとうございます、王子様。では、失礼いたします」

 一礼してレオリック様の元を去る。馬車は宮殿の前に用意してあるそうなのでありがたく利用させて頂こう。

「・・・どうせなら夕食まで相伴に預かれば良かったなぁ」

 馬車に揺られながら私はそんなことを考えていた。そういえば家の食材がほぼ尽きていたのを思い出したのだ。時刻は既にかなり回っており、市場もとうの昔に閉まっているだろう。仕方ない、いっぺん家に荷物のみ置いて外食にでも行こう。この時間帯ならまだ開いているだろう。子供が一人歩きしていることは見た目はやや大人びている方だと自負しているため恐らく何とでもなる・・・と思う。そこで問題になるのが服装だ。今は制服だが、流石にこのまま行くのは普通に場違いだろう。着替えなければ。

「・・・しまった。この国で服を揃えるのを忘れているとは、何たる不覚っ!」

 タンスを開けても浴衣、着物、袴以外の物が無いが致し方なし。これを着て出るしかないだろう。

そんなわけで迅速に着付けを済ませて草履を履き、玄関から外に出る。財布などは手提げに入れて運べば問題は無いか。この服装だと本気で走ったり攻撃したりすれば服の方がもたないが、まあそのような事態にはなるまい。この国の治安は良いので変なのに絡まれる心配もあるまいが、一応刀は差しておこう。

「いらっしゃいませ。もしかしてお侍の方ですか?」

「まあ、武家の出身ではありますね。席は空いていますか?」  

「はい、開いておりますが・・・、その刀は預からせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 料亭に入ったは良いが、店員がわけのわからないことを聞いてきた。この刀は命にも等しき代物。なのにそれを預けろというのか?私の愛しき姥切を?ここが桜麗なら即刻切り捨て御免レベルの無礼であることを理解させねばならない・・・。

「おい、何をする!?」

「すまない、私の連れはまだこの国に慣れていないようで。この刀は預けよう、後は私に任せてくれ」

 刀を横から入ってきた男性に奪われ、勝手に店員に渡された。その上、いきなり腕を引っ掴んでズルズルと私を引き摺っている。男は襤褸切れのように薄汚れたローブに身を包み、顔をフードで覆い隠しており帯刀者の私などより余程店に入れなさそうな外見をしていた。

「ほら、正面に座れ」

「断る。お前のような怪しい風体の男に誰が従うか。せめて名乗ってからにしろ」

 店員に案内された席までやって来たが、そう素直に従う気にはなれない。というか何故この男が通して貰えたのかが不思議でならない。今からでも警吏を呼ぶべきなのだろうか・・・。

「はぁ・・・。レオリックだ。忍びで来ている」

 かがんで耳元で男はそう囁いて来た。これはヤバい。いくら気づかなかったからとはいえ王子に生意気にも命令口調で罵倒まで浴びせてしまった。早く謝罪しなければ不敬罪で死刑になってもおかしくない。今の私はあくまでただの留学生でしかないのだ。

「まことに申し訳むごぉ!」

「取り敢えず座ってくれ。あと、謝罪も要らんから騒ぐのだけは勘弁してくれ。ここの店の者は私が来ていることは承知済みだが、一般の客にバレるとマズい。わかったな? あと、できるだけ砕けた物言いにしてくれ。その方が怪しまれん」

 こくこくと頷いて了承の意を示すとそのまま解放してくださった。そのまま言われたとおりに彼の前の席に座った。・・・さっきと手のひら返しが激しいのは分かっているが、こればかりはどうしようも無い事。しかたあるまい。

「それで、なにゆえここに?」 

「馴染みの店でな、公務が無い時は時々来ている」

「なるほど、そうなのか。すいません、注文お願いします」

「私も頼めるか?」

 とりあえず聞くことを聞いてさっさと注文する。あまり長居するのも迷惑だろうし、私も王子と二人は中々に気まずい。なにせ、つい先程別れた相手と夕食を共にしているのだ。それ程仲が良いわけでもないのに。正直早く帰りたい。

「そうだ、お前はもう準備はできているのか?」

「準備とは?」

「国から命令が出ているはずだが、知らないのか?」

 と、言われても知らないものは知らないので頷いた。王子は肩を落としてため息一つついた後に、

「グレース様曰く、二ヶ月後に王都は敵性巨大兵器に破壊されるそうだ。コレは妹も同じ未来を見たと言っていたため間違いないだろう。そのため、王都在住者は荷物を纏め魔族領に避難せよ。これが命令だ。わかったな?」

 その後の食事の味はよく覚えていない。ただ、クレア様が見た未来だという事と自宅まで王子が送ってくださったことは覚えていた。




 

 




 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。