蹂躙の魔法使い
さて、結局はこう皆殺しというか虐殺ルートに入ってしまったわけだが。まあ、ヒトの友人を勝手に誘拐して戦わせるような悪しき魔術師はさっさとプチッと殺してしまった方がいいか。・・・まあ、相当キッチリした規律の元に行われていた事は間違いないし、今回に関しては百二十パー私が悪役なのだが、こうなったからにはしょうがない。ついでに魔法の残滓とやらも回収してクレアさんへのお土産にでもしようかな。
「さてさて、見晴らしが悪いですからまずはこの建物には消えて貰いますね。それっ!」
パンっと景気よく手を鳴らし、建物の存在自体をこの瞬間で終了させる。そしたらこの場に残ったのは数百人の魔術師だけ。高所にいた人たちは落下死しているようだ。地下には魔法を行使していないため、そこにあるものは概ね無事だろう。
「貴様、何者だ! 何の目的があってこんな事をする!」
「名乗るほどの者ではありませんよ。はい、ばぁん☆」
指を敵の方に向けて可愛くポーズを取って纏めて百人くらい灰にした。私は割と炎の形にして魔法を行使することが多いのだが、実はそんなことをする必要は無いのだ。私の意志一つでどうとでもなる。炎はなんかかっこいいのと、魔術と言い張れるから使っているだけで。
「攻撃! 一斉攻撃だ! 弱体化も妨害もありとあらゆる魔術を行使して奴を始末しろ!」
おお、体が痺れ、毒で皮膚が溶け、骨が裂け、意識が酩酊し、光で抉られ、闇に削られ、炎に削がれ、岩に潰され、風に内臓を掻き回され、水で取り出され、そのまま凍結させられるというかなりグロテスクな状態に私の体は成り果ててしまった。まあ、死なないこの体なので意識だけは凄くハッキリしているのだが。そもそも再生するため、このくらいなら余裕で復活できる。
「やったか?」
「いいや、ありったけの魔力を使って死骸の一片も残さずに消し飛ばしなさい。あれは恐らく我々の想像を超える化物です」
「ですがノワール卿。あの通り完膚なきまでに叩き潰しましたし、完全に沈黙しています。これ以上は魔力の無駄ではないのでしょうか」
魔術師が怪訝そうに飛散した少女だった肉塊を指してそう言う。しかし、ノワールはその意見を一蹴した。
「いいからやりなさい。私はてった・・・この事を報告しに行きますので」
「ノワール卿!? ・・・ええい、全員に告ぐ! 欠片も残さず消し飛ばせ!」
魔術師が周囲の仲間たちに呼びかけ、一斉に魔法を放射し始める。そしてその後に残ったのはクレーターのみ。
こうして、彼らヴァルプルギス運営委員会の魔術師達はその誇りにかけて突如破壊行動を始めた謎の少女を葬り去ることに成功した・・・なんてことは無かった。
「今度こそやったか!?」
そう、彼らはノワールが撤退した時にすぐに撤退しておくべきだったのだ。少女を殺したときに陥没した地面からはエネルギーが巻き起こり、殺したはずの少女の形を創り出していく。その様相は禍々しくもあり、それと相反して神々しくもあった。少女を創り出したエネルギーの余剰分は天へと上り闇夜を煌々と照らし始めた。
「はえー、体が消し飛んだらこんな感じで復活するんですね。大丈夫だとは聞いてましたが、かーなり予想外な感じですね。なんかむずむずします」
そして再構成された少女は呑気に体を伸ばしている。そしておもむろにこちらを向いたかと思うと・・・。
「お返しです。さあ、纏めて仲良く逝っちゃってください!」
パチンと彼女が指を鳴らし、彼らの存在した痕跡ごと灰に帰っていったのであった。
それにしても、ここまで私が人間離れしていたとは思っていなかった。いや、再生ってあんな感じなのか。今までは傷口からそのまま生えてくるような感じだったが、全身消し飛ぶと何か凄そうなエネルギー体になって復活できるとは。その代わり、どっと体力を持っていかれているようだ。
「さてと、後は地下に行って土産を回収してきましょうか。いやー、魔術師も大したこと無いですねぇ」
ここまで一方的に蹂躙できるとは拍子抜けだったが、正直な感想だった。ちょっと魔法の行使の仕方を変えるだけでこうも変わるとは。
地下への階段は地上の建物を全て更地にしているので容易く見つけることができた。鼻歌を歌いながら軽いステップで降りていく。そういえばあの魔術師達に命令を下していた魔術師はどこに姿を消したのだろうか。まあ、大した事はないだろう。一々気にするほどの存在でも無さそうだし、早いところ見つけるもの見つけて帰ろうか。
「失礼ながら、そう言う訳にもいきません。貴女様にはヴァルプルギス運営委員会より討伐指令が出されましたので、ここで死んでいただきます」
「はいパッチン」
転送されてきたのはそこそこの魔力を持った魔術師だったが、一々相手をしてあげる気分でも無いので指先一つでアウトさせる。どうせ第二第三の刺客は来るだろうから手早い対応を心がけていきたいところだ。
「かなり強い封印が施されていますし、この部屋で間違いなさそうですね」
第二、第三どころか第十八の刺客を撃退したところでその部屋に辿り着いた。封印自体は最近施されたものだが、中々精巧なものになっている。
「さて、ここで問題です。専門職でも無いのに凄く強固な鍵を何とか開けて入らないといけません。正解は、扉ごとぶっ壊すでしたッ!」
と、このように殴り飛ばせば万事解決である。結局は頭脳より暴力の方がが強い。ある種のこの世の心理なのかもしれない。良い子のみんな、そして魔法を持っていないみんなは普通に封印に弾かれて目も当てられない姿になるので絶対にマネしないでね。
「おお、これですね」
台座の上にそれは置いてあった。形としてはイブさんの魔法を封じた結晶をダウンサイジングしたもので、前者が大人の男性の拳くらいだとしたら、こちらは指輪にすっぽりはまるくらいのサイズ、というか指輪に嵌めてあった。これは持ち運びやすくて助かると足を運・・・ぶ前に罠を消し去っておこう。
「うわぁ、部屋全体に仕掛けられてたんですか。これは普通なら中々苦労するでしょうねぇ」
床、壁、天井は勿論、台座にもトラップが施されていたようだ。仕掛けられていた罠が消えた部分が陥没したりと、あちらこちらが崩れている。魔術的なトラップだけかと思ったが、物理トラップもかなり仕掛けてあったようだ。
パラッと天井から石片が降って来た。ズズズと地響きも聞こえ始めている。何故崩壊し始めているのか見当もつかないが、なんにせよ速く回収して帰還した方が良さそうだ。
「魔鍵は壊せば無いのと同じという訳で速やかに回収。あとはさっさと走って退散しますか」
正直かなり疲労が酷く、魔法を使うのも結構キツイ。それでも足は普通に動くので潰されない様に早く逃げないと。
「そうはさせるか化「うるさい!」」
転送された魔術師を拳で粉砕し、駆け抜ける。化物呼ばわりは最もだが、こんなところで止めにかかられるのは本当に鬱陶しいのでやめて欲しいところだ。
「ヤバッ!?」
さっき魔術師を殴った時の衝撃で真上が一気に崩れてしまったようだ。急いで前に飛んだが、右足が持って行かれた。千切って進むのも一つの手段だが、この状態でどこまで再生能力が仕事してくれるのかわからないのでそれも躊躇われる。だが、このままでは進むことができないという現状だ。
エネルギー体に自分を変換すれば抜けれるのだが、この状況で使っても脱出したところで気絶。そして捕縛されるのがオチだ。クレアさんに助けを求めるのは愚策だし、どうしたものか。
「どうしたもこうしたもないでしょ。ほら、瓦礫なら退かしてあげるからさっさと行くわよ」
「なぜここに?」
「貴女がピンチになるなんてありえないと思ってたけど、一応魔術で貴女を見張りながら逃げてたのよ。そしたら案の定こうなってるし、戻ってきて良かったわ。サツキ!」
「御意」
クレアさんが潰れた私の右足を魔術で切り落とし、回復魔術で止血。歩きようがない私はそのままサツキさんに背負われていた。
「安心しろレーギャルン。クレア様がすぐに転送陣を再起動させるから、それまでは私の背中で休んでいろ」
「・・・困ったわね。ヴェルディと繋がっていたゲートが切られた。これじゃあこの場での転送はできないわね。いや、うだうだ悩むより外に出ましょうか。『破雷掌』!」
拳を天高く突き上げ、収束させた魔力を雷へと変換させたクレアさんがそのエネルギーを解放した。綺麗に天井を貫通し、地上まで直行できる穴を開けてくれた。
「レーギャルン、下を噛むなよ!」
「うわあっ!」
そのまま地上にジャンプ。戦利品は懐に入れているので、目的はしっかり達成できている。後はクレアさんがワープできる場所に行けば万事解決だ。
「地表に出ても繋がらないわね・・・。サリア、貴女はもうそろそろ足は再生した?」
「エネルギー体なら構成できますね。生身の足も生やせますけど、そっちは何か食べないときついです」
「握り飯ならあるぞレーギャルン」
「ください!」
「そうがっつくな。逃げはしないのだからな」
そうは言われても食べたいものはしょうがない。食べなければ回復しないのだ。うん、ちょっと冷えてしまっているが、十分美味しく食べれる。
「よしっ。足は戻りました!」
「魔法は何発撃てる?」
「もう打てませんってあれ・・・? なんだか眠く・・・」
「ゆっくり休みなさい。そう、ゆっくりとね」
急に襲い掛かってくる猛烈な眠気。最後に聞こえてきたのはクレアさんの声では無かった。
「いやぁ、凶事の後には吉事が回ってくるといいますが、まさかまさか。魔法の残滓などではなく本物の魔法使いが手に入るとは飛んだ僥倖。ついでにこの指輪の効力もハッキリしましたし、一石二鳥、いや、彼女の利用価値を考えれば一石三鳥でもお釣りが来るでしょう。まあ、この場もまた速やかに撤退をば。まあ、この時点で干渉してこないあたり心配することはないのでしょうが念には念を入れよといいますからね」
この力は相手に現実を誤認させる力があるようだ。本当にあの時彼女の力を見た瞬間に撤退を決めた自分を褒めてやりたい。いや、褒めちぎる。心からの称賛を私に送ろう。部下は全滅し、会場も崩壊。本来なら首が物理的に飛ぶところだが守るものは守れた上に、とびっきりの手土産もある。これならヴァルプルギスを主宰する腐れ魔術師の老いぼれ共も納得するだろう。以上、謎の魔術師ノワールでお送りいたしました。




