あくまで常識的に
「どうやら、あのまま私の家から転送されたようだな。しかもご丁寧に宿屋に転送とは
「いいじゃないですか。上空からポイ捨てされたりせずにベッドの上で目覚めれたんですから」
ルナさんから強制転移を食らい、あの謎空間から現実に送り返されて目覚めた時には知らない天井が視界に広がっていた。かなり上等な宿らしく、内装もしっかりとしておりベッドも大きかった。
ふと横を見ると無駄に達筆な文字で書置きが残してあった。どうすればいいのかくらいは書いてあるのだろうか?
「まあ、ふざけていようがいまいが読まぬことには始まらぬだろうよ」
「そうですね」
とりあえず読んでみることにした。
『これを読めておるという事はおそらく転送が成功し、無事に目を覚ましたという事じゃろう。おぬし等のやるべきことは簡単。ヴァルプルギスに普通に参加して商品を掴み取るか、クレア以外の全員を無差別に虐殺して大会自体をパーにするかじゃ。お主等の泊まっておる宿はヴァルプルギスの会場から徒歩二分という好立地。そして、この国はヴェルディを遥かに越えた西大陸の南方に位置する小国ファラリス。気候は熱帯で年中常夏じゃし、ビーチも常に賑わっておるから好きな時に遊ぶのもよいかもしれんのう。海の家に行けば大抵の道具は手に入るし、儂の金も自由に使って構わぬからいっそクレアもヴァルプルギスもほっぽって好きに遊びまくるというのも一つの道じゃ。まあ、好きな方を選び己の意志で行動するのじゃぞ? 一応、儂のおすすめは後者の虐殺ルートじゃがの』
「おそらくって何ですか。てか後半ほぼビーチで遊べって書いてありますし」
「それで、どうする? 私は普通に参加したほうがいいと思うのだが」
「でも、多分それは無理なんですよね。クレアさんはちゃんと招待を受けた上で召喚されましたが、私達は呼ばれてすらいません。となると・・・」
「やはり、虐殺するしかないのか?」
「海で遊びましょう!」
ヴァルプルギスの様子を観戦しつつクレアさんの出番が来るまで遊び惚ける。もうこれ以外に選択肢は無いだろう。虐殺なんてサツキさんが耐えられないだろうし、クレアさんの所在も分からない。
それなら適度に会場に足を運びつつクレアさんの出番が来たらクレアさんを攫って逃げるのが恐らくベストだろう。
「いや、それでいいのか? 今のうちにクレア様の場所を把握したりとか、する事があるだろう?」
「確かにそれもそうですけど、クレアさんの性格的に今行ったところで追い返されるのがオチだと思うんですよね。ならやる事は一つでしょう」
「いや、絶対に他にもやることがあるはずだ。何か一つくらい考えてみたらどうだ?」
そうはいわれても実際、ただの観光客という事になっているらしい私達が魔術関連の場所で動きまわるのも怪しまれそうなので、精々会場の視察とスケジュールの確認くらいが限界だろう。会場までは近いらしいし、今のうちにパッと見てきた方が良いかもしれない。
「じゃあ、会場の偵察と調査でもやっておきますか? 日が沈んでいる今ならバレずに行けそうですよ」
「確か会場には魔術ギルドから転移魔術で行くのだったな。わかった、行こう」
宿を出て二分。魔術ギルドに私達二人は訪れていた。
「すいません。貴女方はヴァルプルギスへの参加資格を持っておられないようなので転送するわけにはいきません。お帰りを」
「いや、参加じゃなくて友人の応援に来たんです」
「観戦券はお持ちですか?お持ちでないならお帰りください」
普通に断られたので宿に戻った。なぜルナさんは肝心な券を入れてくれていなかったんだ。これじゃあ本格的に遊ぶしかないじゃないか。
「断られてしまったな…。どうする、大人しく遊ぶのか?」
「いえ、クレアさんを探しましょう。最悪彼女だけでも確保できればそれでいいですし」
「だが、本人は既に会場にいるのだろう? 私達に行く手段は無いぞ」
そう、それならそれで手段はあるのだ。かなりの強硬手段になる事は間違いないが、ルナさんからしたら宿と情報は用意してやったから後は己の力でやれという事だろう。そう思いたい。
「ギルドに戻って魔法を使って転移術式のロック機能を強引に終了させるんです。鍵を消し去ってしまえばドアは通り放題って感じですね。できるだけ使いたくないんですが、しょうがないと割り切るしかなさそうです」
「まあ、その力は世間に知られたら何かと厄介事に巻き込まれそうだからな。使いたくないのはわかる」
「今はグレースさん関連だけですけど、バレたらいよいよ利権問題とか軍事力扱いとかの問題が絡んできそうですから」
「だが、今は使うしか無いという事か」
「そういうことです」
正直、この他に方法があるならギルドの職員の人を脅したり始末したりと犠牲者が出るような方法しか取れないのだ。そして流石に無関係の敵対すらしていない人を殺すのは良心が痛むのだ。
「よし、これで行けますね。バレないうちに行きましょう」
「こんなに一瞬で・・・。やはり魔法とは凄まじいものなのだな」
魔術師ギルドに戻り、転移魔術の受付口の近くに向かった私達はサツキさんの魔術で姿を隠して先程の窓口をこっそり通過し、転移術式が施してある部屋に侵入。当然魔術で鍵がかけられていたが、私には無意味な事。さっさと魔法で消し去った。その後は転移術式のロックを解除。警報術式も切ってあるのですぐにバレる心配も無さそうだ。
「今回の目的はクレアさんを颯爽と誘拐してヴェルディに帰還する事です。魔法の残滓とかは二の次にしましょう」
「承知した。では行こうか」
サツキさんと手を繋いで転移術式を起動する。即座に視界は白い光に包まれ、場所が切り替わる。
目を開くとそこは石造の部屋ではなく、不気味な雰囲気を漂わせる古びた街に立っていた。一応宿屋や食糧店といった施設はあるようで、街としての機能は保ってはいるらしい。
「確かヴァルプルギスの開催時間はちょうど今くらいでしたよね。行ってみましょう」
「ちょっと待ってくれ。場所は把握しているのか?」
「魔力の流れを感知すれば場所は大体把握できますし、人の気配は気を高めればある程度わかります。ざっと三百メートル先ですね」
高い魔力ならさっきからビンビンと感じるし、大量の人々の気配もその方向からする。会場はそこで間違いないだろう。これもまだ完璧に極めたわけじゃないが、五百メートル圏内なら感じ取れる。
「やはりレーギャルンは出鱈目だな。私が感じ取れるのはその半分が限界だ。もっと精進しないとな」
サツキさんも十分凄いのだが、本人がこれ以上を目指すというのなら何も言わない方が良いかもしれない。ここで何か言っても、私の場合は余計な事を言って嫌な思いをさせそうだし。
「そうですね。私ももっと魔法を使いこなせるようにならないと何時まで経っても未熟な魔法使いのままです」
「お互い頑張ろうということだな。おっと、そろそろ着くのではないか?」
「そうですね。そろそろのはず・・・。っと見えましたね。ここです」
そこは古びた円形闘技場だった。大きさは半径500メートルほどで、高さも50メートルくらいだろうか。魔術が施してある特殊な石材を用いて作られているようで、至る所に紋様が施してある。多分建物の耐久を上げたりするような魔術が使われているのだろうけど、術式がかなり古いものなのでおおまかにしかわからない。
「取り敢えず入りましょうか。ちょうど試合も行われているみたいですし」
「だが、入り口には人がいるぞ? 勝手に入ろうとしても捕まるだけだ」
「じゃあ、今日の所はスケジュールだけ入手して帰りますか。クレアさんが出る日に突撃すればいいだけの話ですし」
受付まで歩いて行き、なんてことない顔をしてスケジュール表を入手した。どうやらヴァルプルギスはきな臭い部分はあるが運営自体はしっかりしているらしい。まあ、試合のルールは相手を殺さなければ何でもありと言ったものだったが。スケジュール表に目を通しながらそう思っていた。
「おい、レーギャルン。これって今日というか、まさに今じゃないか?」
「なになに・・・。マジですか」
サツキさんが指差している部分には確かにクレアさんの名前が書いてあり、彼女が出ている試合はまさに今この瞬間行われているという事が書いてあった。これは何という幸運だろうか。正直二~三日はかかると踏んでいたが、こんなにも早く終わらせられるなんて!
「サツキさん、転移してきた場所の近くに隠れておいてください。いっちょ派手に行ってきます!」
「レーギャルン!?」
サツキさんは驚きの声を上げていたが、高くジャンプした私を見てすぐに踵を返した。それを確認してさらに上昇する。
「高さの調整よし、風向きよし、クレアさんの位置も把握。じゃあ行きますか!」
上空で体制を調整しつつ、肝心なクレアさんを巻き込まない様に最大限注意する。ちょうど試合にクレアさんが完勝した。ステージの中心から彼女が離れ、倒れた対戦相手が運ばれたタイミング・・・。今! 滞空に使用していた魔力を全て落下エネルギーの増幅に回し、ついでに魔法を発動し、全身を光に変えて演出も派手に! 着地ポーズは、御伽噺のヒーローがよくやってるあれで。地面は段々と近づいてきており、会場の視線も向いているのがわかる。そして、クレアさんと目が会った。彼女の驚愕した表情を見て私の顔はニッと笑みを浮かべていた。そして地面に腕を突き立て三点着地。地面には大きく亀裂が走り、観客席にまでそれは伝播した。一瞬周囲は静寂に包まれたが、数十秒経つと悲鳴や困惑する声が聞こえ、突然の闖入者を排除するために運営に携わる魔術師達が戦闘態勢で押し寄せてきた。それを尻目にクレアさんに言い放つ。
「こんばんは、クレアさん。貴女を攫いに来ました」




