そして事態は動き出す
「レーギャルン、朝食ができたぞ。そろそろ起きろ」
サツキさんにゆすられて目を覚ました。ゆっくりと体を起こして軽く伸び、息を吐きだした。着替える前に洗顔を済ませてから食卓に向かった。
「おはようございますサツキさん」
「ああ、おはよう。さあ、もう並べてあるからさっさと食べてしまおうか」
サツキさんは割烹着を着ており、味噌汁を注いでいた。ちょうど私の分を注ぎ終わったみたいなのでそれを受け取って自分の席に置いた。その後は何事もなく普通に朝食をとり、学校に通学しようと家をでたらちみっこい着物姿の幼女が玄関先で仁王立ちしていた。
「それどころではないわ、このたわけ。クレアの護衛をほっぽかしてなぁにいちゃついとるんじゃアホどもが」
「始祖様!? 何故このような所におられるのですか!?」
「話は儂の領域でする。じゃがその前に家に入って布団を敷きなおせ。ここで倒れるのも後で体が痛むだけじゃしの」
ほら、さっさとせい!と言われ、鞄を置いてまた布団を敷きなおした。何故ルナさん本人がここにいるのかはさっぱりだが、逆らっても碌な事にならないので大人しく従うことにした。これは遅刻確定でクレアさんに怒られるだろうなと、そんなことを考えながら。
「儂はグレースとは違ってもったいぶったりせぬので、単刀直入に用件のみ先に言おう。クレアがヴァルプルギスに召集された。いや、本当にお主は何をやっておったのじゃ? ああん?」
この間と同じくルナさんが支配する領域に招待され、私は説教されていた。前に来た時は何もないただひたすらに真っ白な空間だったが、今回はサツキさんの家の内装を神秘的にしたような場所だった。
「クレアさんに中々近づけなかったのでサツキさんと仲良くしていました」
嘘は言っていない。決して嘘は言っていない。クレアさんの周りの人達っていかにも高位の貴族ですって人達ばかりで、会話の内容も社交界はどうだ、乗馬のお稽古がどうだといった私みたいな元一般庶民には縁のない話ばかりの上に、クレアさんに話しかけに行こうとしたらその人達に遮られるのだ。これだと護衛どころか会話すらできない。
「いや、そこは強引に行けば良かったのではないか? それだけの力はあるじゃろ」
「それをやったら結構問題になるじゃないですか。いや、やっていいのなら目だ!耳だ!鼻!!みたいな感じでやってますけど」
まあ、それを本気で彼らにやろうとは思わない。それをやっていいのは悪人に対してだけである。
「始祖様、話が脱線してませんか? レーギャルンもそんな滅多な事を言うな。本当にやりそうで怖い」
そこで今まで空気だったサツキさんが参加してきた。完全に話が脱線しきる前にツッコんでくれたのはありがたいが、多分やらないので安心して欲しい。
「すまん、では改めて本題に入るぞ。クレアがヴァルプルギスに召喚された。恐らくは参加者にはあらかじめそういう魔術がかけられていたのじゃろうな。あやつが送られた場所は把握しておるが、どうも不可解でならぬ。儂が気づけぬ魔術などほぼ無いはずなのじゃが・・・。まあ、それはおいおい考察することにしよう。本来なら儂かグレースが出張った方が良い案件なのじゃが、いかんせん現世への影響が大きすぎる。なのでお主等を現地に送りヴァルプルギスを台無しにして貰う。転送の方は上手い事やるから心配はいらぬ。質問はあるか?」
「今からメリッサさんかアリスさんに連絡を取ってもいいですか?」
私も一応魔法使いではあるが、まだまだひよっこもいいところ。流れで同行することになっているサツキさんもある程度戦えるが、この案件に求められるであろうレベルにはとても届かない。その程度のコンビなのだ。
「・・・それでは行ってこい!」
急に足元を浮遊感が襲い、魂が体に引っ張られていく。ルナさんの姿はとっくに見えなくなっており、彼女の残り香だけが鼻腔に残っていた。
「質問するだけさせといて答えないなんて酷いですー!」
「全く持って同感だ!」
それだけ吐き捨てて私達の意識は現実へと浮上していった。いや、確かに質問に答えるなんてルナさんは一言も言っていないがいくら何でも大人気なさすぎだろう。




