ひと時の平穏2
「ところで、レーギャルンの身体能力は何故あんなにも高いのだ?」
クレアさんが部屋を去った後、しばらくはお互いに沈黙したままだったが、サツキさんが話しかけて来た。
「生まれつき身体能力は高かったんですけど、なんやかんやで死ぬほど特訓する羽目になったからだと思います」
「だが、それだけでは納得いかぬな。いくらなんでも人間離れし過ぎている」
「あはは、そんなことはありませんよ。いたって普通の人間ですって」
これはかなり無理のある言い訳だったか。サツキさんの目は完全にジト目になっており、完全にこちらを疑っている。もう洗いざらい話して終わりにしよう。人間離れしているのはもう見られているからそこまでインパクトを与えないで済むだろう。それに、下手に嘘をつくと余計な混乱をさせかねないし、そういうのは最後は自分に返ってくると相場が決まっているのだ。
「それで? 流石に今のは噓なんだろう?」
「じゃあ、本当の事を言いますね。私、サリア・レーギャルンは魔術師ではなく魔法使いです。体が丈夫なのは、魔法に耐えれないと意味が無いから。そして、魔法を制御できるように散々グレースさんにしごかれたというのも理由ですね」
「待てレーギャルン。一旦、少し整理させてくれ。そして、それが本当なら経緯を説明してくれ」
軽く混乱した様子で頭を抱えるサツキさんは、私にそう言ってきた。私も同じ状況に置かれたら間違いなくこうなるのでしばらくサツキさんを待つことにした。よくよく考えたら色々あってグレースさんに鍛えて貰ったと言えば解決だったのではないかと訝しんだ。いや、普通に魔法使い云々言わなくて良かったじゃん。
「よし、大体整理できた。という訳でレーギャルン、頼む」
「あっはい分かりました」
復活したサツキさんから私のこれまでの経緯を語るように言われたので大人しく話す。かといってあまり長々と話すわけにもいかないので、かなりのダイジェスト版だ。ちなみに今はまだ三限目の授業中。サツキさんとの模擬戦は授業の初っ端に行ったのでこの時間になっている。外の様子を窓から軽く見ると、クレアさんの姿が見えたため、彼女は授業に戻ったのだろう。
「なるほど。つまり私はとんでもない危険性を孕んだ人間と知り合ってしまったということか」
「今の話でその感想が出てくるのはちょっと驚きですし、まさか人間扱いされるとは思ってませんでした」
そういうと、サツキさんは不思議そうな顔をしていた。なにか引っかかるところでもあったのだろうか?
「人間扱いも何も、レーギャルンは人間だろう?」
「いや、普通に考えて私は化物だと思うんですけど」
「本当にただの化物なら学校なんて通わないし、法にも従わないぞ。そもそも、この国では私より長命なエルフや魔族もまとめて『人間』としているのに、ちょっと不老不死なだけでその枠から外れるなんて事はありえないと思うからな」
そんな風に考えたことはなかった。そうか、そう考えると私も人間のくくりに入るのか。不老不死などはちょっとの範疇に入るのかどうかは別として。
「そうですか。じゃあ、サツキさんの事も教えてくれませんか?」
「構わないぞ。そちらの話ばかり教えて貰っておいて、私が何も話さないと言うのは失礼だからな」
こほんと一息つき、サツキさんは話し始めた。
「私は桜麗の始祖様にお仕えする武家である神喰家の長女として生まれ、物心つく頃から鍛錬を積んできた。その結果、国では十指に入れるほどに強くなった。レーギャルンには負けたがな。その後は鍛錬と勉学に励む毎日を送っていたのだが、両親がそのことを見かねたようでな。鍛錬もいいが少しは外を見て来いと言われ、この国に留学することになったという訳だ」
「見かねたって、そんなにサツキさんは鍛錬とかばかりされていたんですか?」
「確かにそうだが、母上が言うにはお前は世間知らずがすぎるからと言っていた。なあ、私はそんなに見えるか?」
「休み時間に瞑想してる人は普通はいないですし、世間一般から見ると世間知らずなんじゃないですか?」
休み時間に誰と話すことも無く寝ている人は割といるため、決して私が世間知らずという訳ではない。孤高を貫いているだけである。孤独ではない、あくまで孤高である。
「そうか。ならば普通の生徒というのは休み時間に何をするのだ?」
「そうですね。普通は、友達とに会話したり遊んだりするんじゃないですか?」
私はそんなことをやったことは無いが、とりあえず知識だけで言ってみる。クレアさんがそうしている様子はちょくちょく見るので、知識としてはあるのだ。悲しいけど。
「なるほど。ならばレーギャルン、私の友になってくれないか? お互いに身の上を語り合ったし、お前だって魔法使いという事を話した以上は私を放ってはいけないだろう?」
脅すような事を言いながらも、朗らかに笑いかけてサツキさんは手を伸ばしてきた。なるほど、本気で話す気は無さそうだ。それなら私としても問題ない。
「わざわざ逃げ道を絶たなくても、前半部分だけで私は普通にOKしてたんですけどね。まあ、よろしくお願いします」
サツキさんの手を取った。そして、私に二人目の友達ができた。まだ二人目とか言わないで欲しいい。正直、他のクラスメイトがどんな人なのかもよくわかっていないのだ。
「ところでレーギャルン。雑談とは何を話せばいいのだ?」
授業が終わり、着替え終わった後にサツキさんと話していたらそんな質問をされた。正直私にもよくわからないが、とりあえずクレアさんと話している時のノリでいいのだろうか。それなら一応答えれるが。
「とりあえず今みたいなどうでもいい事をダラダラと話しておけばいいんじゃないですか?」
「そうか。じゃあ、先程の着替えの時にふと思ったのだが、何故あの速さで動いても私達の体育服は燃え尽きないのだろうか?」
「あー、確かに謎素材ですよね。普通の素材なら私が音速で突っ込んだ時点で素っ裸ですし、サツキさんが私をぶん投げた時だって最低でも半裸にはなっていないとおかしいですもんね」
「そうなのだ。それで提案なのだが、この後どれだけ動けば破れるのか試してみないか?」
ただ自分の体操服を酷使してどれだけやったら燃えるのか試すという、物凄くくだらないデメリットが圧倒的に大きい実験に誘われたが、正直面白そうだ。
「じゃあ、さっきのフィールドの使用許可を取ってきましょうか。時間帯は放課後でよろしいですか?」
「ああ、構わない。レーギャルンと共に何かをするのなら、くだらない事でも楽しくなりそうだからな」
「っ!」
駄目だ。そんな純粋で屈託のない笑みを向けられると照れくさくって顔が熱くなってしまう。いや、それだけじゃない。魅了されているのだ。それはもうどうしようも無いほどに魅入ってしまっているのだ。同性なのに、私は恋愛に微塵も興味がないはずなのに、コロッと堕とされそうな程の笑顔だった。
「どうしたレーギャルン。なぜ硬直しているのだ?おーい」
サツキさんは私の目の前で手を振っているが、私はまだ呆けたままだ。
「おーい、大丈夫か? むぅ、しょうがないか。てい」
「いだぁ!」
床全体に振動が伝播するくらいの威力の手刀をくらいようやく正気に戻った。それと同時に憤怒の表情を浮かべたクレアさんが肩を怒らせてズンズンと近づいてきた。
「手加減してるんでしょうけど、校舎内で馬鹿力出すなァ! 馬鹿じゃないの!? もし倒壊したらどうするのよ!」
「「すいませんでした」」
「わかればいいのよ、わかれば」
去り際にチラッと私の方を見てクレアさんは去っていった。若干寂しそうな視線だったのは気のせいなのだろうか。まあ、そんなわけないか。クレアさんは普通に友達も多いし、寂しがる要素が無いし。
「クレア様がレーギャルンを見てたが、話さなくていいのか? 必要なら席を外すが」
「いいですよ。クレアさんはただ単に注意しにきただけですから」
「そうか? 私にはそうは見えなかったが・・・。まあ、レーギャルンがそれで良いなら私は一向にかまわないのだが」
サツキさんは何かを感じ取っていたようだが、私が良いならと言って引き下がった。その後、放課後になるまでの間で語ることは少ない。普通に授業を受けて、普通にサツキさんと喋ったくらいだ。後は、クレアさんが何処となく不機嫌オーラを出していたくらいだろう。これに関しては本気で理由が分からない。




