人体破壊は基本です
「じゃあ、さっそく特訓といきましょうか!」
「サリア、ここは屋敷の中よ? 特訓をやるにしろ場所がないじゃない」
「問題無いですよクレアさん。今から場所を変えればいいだけですから」
そう言って私は銀に光る鍵を取り出し、それを空間に突き立てて捻った。これはグレースさんからもらったアイテムで、何時でも修行用の空間に移動することができるというものである。理屈や原理はよく分からないが、便利なのでそれで良しとする。ともあれ、クレアさんをお米様抱っこしてからゲートを通った。
「いや、せめて私の話を聞きなさいよ! ここが何なのかもわからないし、この後パーティーに出ないといけないのよ」
そういえば王女だしそういうイベントもあるのか。でも、それでも問題は一切無い。
「大丈夫です。ここは時間の流れが殆ど無いグレースさん謹製の謎空間ですから! 普通に一軒家がありますし、バスルームやトイレと食料と水などの生活に必要な物品もちゃんとありますし、何日でも何年でも行けますよ」
「なら問題ないわね。・・・本気? 正直帰りたくて堪らないんだけど」
「残念ながら私かグレースさんしかここの門は開けませんし、私も一通り終わるまでクレアさんを帰すつもりはありませんから。ちなみに、本気も本気。超本気です」
がっくりとクレアさんが諦めてくれたところで、家に連行して運動着に着替えて貰い、さらに場所を移す。移動したのは、岩山が多くあるエリア。ここなら好きなだけ壊せるし、建物にも被害が及ばないから安心だ。
「はい、取り敢えずこの岩をパンチでもキックでもいいんで破壊してください」
「せめて手本くらい見せなさいよ・・・。それに、魔術無しなら普通に無理よ」
初手から無理と言われても困るし、ここは一つお手本を見せるとしよう。
「はっ!」
手始めに、幅5メートル、奥行き8メートル、高さ3メートル程の岩に向かって正拳突きを放つ。拳は音を超え、ソニックブームを起こしながら岩に激突し、それを木っ端微塵に打ち砕いた。まあ、一応全力の半分くらいだし、これくらいならクレアさんもできるだろう。そう思って振り返ると、青い顔をして震えていた。
「できるわけ無いでしょこのバカァ! ていうか、今のはただ速く殴っただけじゃないの!」
「よく分かりましたね。大正解です」
そう、ただ単純に速く強く殴っただけである。そこには何の種も仕掛けも存在しない。まあ、やることは単純だし、これならクレアさんでも習得できるだろう。
「いやいや、私は一応王女様なのよ? 身体能力はある程度は高いけど貴女には及ばないし、今まで魔術主体でやってきたのにいきなり物理を鍛えるなんて無理よ}
「それは分かってます。だから、当面は基礎体力、筋力、瞬発力のレベルアップを図ろうかと思います。身体強化の魔術で強化できるレベルも上がりますから頑張りましょう」
「わかったわよ・・・。どうせ逃げられないでしょうし、逃がす気もないんでしょ? でも、なるだけお手柔らかにお願い。私は人間だからやりすぎたら普通に死ぬからね?」
「わかってます。限界までやっても壊れるだけですから」
全てグレースさんの受け売りだが、間違いでは無いと思うので大丈夫だろう。多分。
そんなこんなでトレーニングを開始して一時間。荒い息を吐きながら地面にへたり込むクレアさんにスポーツドリンクを渡していた。
「思ってたより身体能力高いんですね。てっきりもっと早くへばると思ってましたよ」
「ぷはぁ。そりゃあ王女だし動けないと困るのよ。サリアは不死身だからいいんでしょうけど、私はそうはいかないのよね」
「ははは…。それを言われると何も言えないんですけどね…。まあいいです。しばらくはコレを続けましょう。まずは体ができない事には格闘なんて夢のまた夢ですから!」
「わかったわよ。ああそうそう、一つだけ見せてもらいたい物があるんだけど」
ポンと手を打ち、クレアさんがこちらを見つめてくる。期待に満ちた眼差しというよりはキツイ鍛錬に付き合ってやるからそっちも何か見せろという目だが、それくらいはするべきか…。
「いいですけど、何を見たいんですか?」
「ほら、私って貴女の全力を見損ねたじゃない。というわけで少しやってみてくれない? 全力モード」
「わかりました。でも、ぶっ放したらこの空間が壊れるかもしれないんで、変身するだけですよ?」
そんなこんなで全力全開。肉体を一旦消し去り、私の魔法で再構築していく。これぞ触れるもの全てを消し去るサリアちゃん無敵モードである。
「おー。結構光るのねそのモード。魔力の質と量は馬鹿げてるから突っ込まないけど、夜の光源にちょうど良さそうだわ」
「いや、やらせといてそれだけですか。この無敵モード結構疲れるんですけど」
「無敵モードって…。ダサい、もっと何かいいネーミング考えなさいよ。せっかくそんな力持ってるんだし名前負けしたら駄目でしょ」
いや、このモードだと相手を確殺するわけだし別にネーミングはどうでもいいのでは…。いや、確かにグレースさんにも言われたことがあるけど、そんなに駄目なのだろうか。
「そんなに駄目ですか…? わかりやすくて良いと思うんですが。そもそも、私は技名を宣言したりしませんよ?」
「駄目よ。どっちにしろダサい事には変わりないし、サリアもダサいって指摘された技名を心の中で言うのにも抵抗あるでしょ? 私は修行するから、貴女はそっちを考えてみるのはどう?」
「わかりました…。まあ、取り敢えずクレアさんはトレーニングの続きですけどね。十分休みましたでしょう?」
「よいしょっと。そうね、バリバリ行きましょうか。今日中にある程度の岩なら砕いてやるから見てなさい」
「その意気です。頑張ってくださいクレアさん!」
「どりゃあああああああ!」
クレアさんが振りかぶった拳は、そのまま岩に突き刺さり微動だにもしなかった。
「刺さった。ねえ、刺さったんだけど」
「岩の方を砕くのでそのまま動かないでください!」
死んだ目で刺さった腕を見つめているクレアさんは一旦置いておいて、かかと落としで岩を叩き割った。破片には足を媒介にして魔法を伝達させてあるのでクレアさんに当たる前に消えてなくなるようにしてある。それくらいの操作なら私にだってできるのだ。
「ありがとう。・・・ねえ、岩に腕が刺さるってことは人体くらいなら貫けるんじゃ」
「はい、やり直しですね。まだまだ鍛え方が足りないようですが今日はもう休みましょう! ええ、そんな威力じゃ鎧を纏っている相手には通用しませんしね!」
余計な事に気付かれる前に会話を打ち切り、さっさと退散することにした。
というわけで内部時間で一月ほどが経過した。クレアさんの格闘技術は着実に成長を遂げており、強化魔術無しでもかなりの威力が出るようになっていた。正直、ここまでできれば魔法使いが相手でもない限りは通用すると思うが、対人戦、特に魔術師戦はオーバーキルくらいが丁度いいので、まだまだ鍛えないといけなさそうだ。
「ねぇサリア。これって本当に魔術師戦に役立つの?ヴァルプルギスって一応魔術で競うらしいけど、物理でぶん殴っていいのかしら?」
当然の疑問だった。至極真っ当な疑問だった。何とか無理の無い回答をしなければ、ヤバい気がする。
「あれですよ。ほら、拳に火属性の魔術を纏わせて殴ればセーフですし、できるなら速く決着つけたいじゃないですか」
「いいのかしら…。いくらヴァルプルギスが殺しもアリとはいえ、あなた基準の威力だとやりすぎ感が中々取れないんだけど」
「魔術師ってある程度の強さになると肉体再生くらいホイホイやってくるみたいですし、一撃で全身粉々にするくらいが丁度いいってグレースさんも言ってましたから」
おそらくグレースさんの基準は彼女の時代の魔術師なのでどこまで参考にしていいのかわからないが、一撃必殺に損はないのだ。
「グレース様がそうおっしゃるならそうなんでしょうけどね。うん、そろそろ行けそうな気がするわ。サリア、用意お願い」
「はいよ!」
そんなこんなで再チャレンジである。今回は身体強化の魔術も使用可にしている。身体強化は今の自分の身体能力を増やすものなので、体を鍛えれば鍛えるほど効果は増していくのだ。
「でやぁ!」
気合一撃、綺麗なフォームから放たれた拳はいともたやすく岩を粉砕した。これぞ修行の成果。約2ヶ月くらいの努力の結晶である。
「やったぁ! ねぇサリア、今の見た? 凄くない!? 流石私ね!」
「おめでとうございますクレアさん。これでヴァルプルギスも勝ち抜けますね。強化込みで素の私の半分くらいのパワーはありますし」
ぴょんぴょん跳ねて喜んでいるクレアさんに話しかける。
「基準がよくわからないけど、強くなったならいいわよ! さあ、行くわよ!」
「その前に風呂に入って休んでから出ましょうか。どうせ外の時間は経ってないですから」
「それもそうね」
というわけで一風呂浴びてから外に出ることにした。もちろん風呂で何かしらのトラブルやムフフな出来事が起こることは悲しい事に無かったとだけ伝えておく。




