エピローグ3
さて、すんでのところで大穴から抜け出せた。この体に残存している魔力はあまり残っていなかったが、それでも飛行するくらいはできたみたいだ。
「それにしても、随分と様変わりしたわね。まあ、数千年は経ってる見たいだし当然か」
ヴェルディとかいう国に這入り、街の様子を見て回りながら呟く。実は、私の感覚ではそんなに時間が経ってる感覚はしないのだ。精々、体感十数年くらいである。というのも、どうも時間の流れがこちらとあちらでは違うらしく、向こうで過ごした時間が丁度十五年。その間にこちらでは千年くらい経ってると気づいたときには随分驚いた。グレース達が生きてるという確信はあったが、他の魔法使い達は軒並み死んでしまっているようなので知り合いは殆ど死んでしまっているようだが。
「えーと、残存魔力で動けて3時間。そしたらしばらく充電がいるわね…。お金はどうにでもなるから宿を探さないと」
今使っているのはダンジョンに置いてたゴーレムだが燃料は魔力であるため、切れたら当然動かなくなる。チャージに必要な魔力は空気中の魔力でも食事でも問題ないが、人形なのが問題なのだ。そう、見た目と質感は人間のソレと変わらないので、不審者扱いされたり誘拐されたりする可能性もあるため、宿などの安全な場所で休ませる必要があるのだ。お金は私の魔法で作れるので問題ないし、グレースも今はこの国に居ないようなので安心して宿を探せそうだ。
「さてと、久しぶりなんだしちょっと良いとこに泊まるのもいいかもね」
城下にあるこの国でも一番だと言う高級旅館に行くことにした。そこからの事で話すことは特に無いだろう。ただチェックインして食事と風呂を済ませてからフカフカのベッドで眠っただけだ。
「よし、じゃあ元の世界に戻ろうかな」
ゴーレムとの意識のリンクを切って自分の肉体、日本人の『聖堂院イブ』の体に意識を戻した。とはいえ、睡眠中の自分の体に意識を戻しても意識は自分の体の状態に引っ張られるのでそのまま寝てたのだが。そうしないと翌日の学校がキツイ。
「んっ、学校かぁ。しんどいなぁ」
現在は午前7時。つい三十分前に起きて妹の玲於奈玲於奈と二人で朝食を取り、準備して高校に行こうとしているところだ。ちなみに、私はこちらの世界では五歳の時に聖堂院グループという大企業の社長夫妻に孤児院から引き取られ、この家で過ごしているという状態だ。父と母は、日本でも有数の金持ちなので当然いい暮らしを送れており、忙しいながらも養子の私を愛情を持って育ててくれた両親に、優秀な兄と可愛い妹に囲まれ、良い友人にも恵まれている。恵まれているのだが・・・。精神年齢は誰よりも高いので、幼児期は本当にしんどかったし、小学校時代は知識を得る為に勉学に打ち込んでばかりだったので、低学年の頃は友達が全くいなかったが、高学年の頃に一人だけだが親友ができた。彼女とは高校まで仲良くしてるから、実質腐れ縁のようなものだろう。
「お姉ちゃんは時々ぼーっとしているけど、何考えてるの?」
軽く今までの事を回想していたら、玲於奈に突っ込まれた。玲於奈は同い年の妹なので、当然学年も同じであり、高校も同じになった。私達が通っているのは普通の都立高校。学力はそこそこの高校であるが、家から自転車で十分程度の距離にあるのでそこを選んだ。
「何でもない。それより、早く行かないと遅刻するよ」
「そうやって何時もはぐらかすんだから…。絶対お姉ちゃんは何か隠してるでしょ。それもすっごく面白そうなヤツ。そろそろ話してくれたっていいんじゃないの?」
「何も隠してないって。それより、今日の課題やった?」
自転車をこぎながら話を逸らそうとするが、やはり無駄な
「はぁ…。そんなんだからお姉ちゃんは友達が少ないんだよ。そんなありがちな話題で追求をのらりくらりとかわそうとする…」
「友達なんて一人でいいの。学校には玲於奈もいるんだし、そのほうが気楽でいいのよ」
滅茶苦茶ジト目で見てくる玲於奈。正直気にしてるからあまり追求しないで欲しい。というか、あっちでの話をしたところで信じないだろうし厨二病で片付けられるのがオチだろうに。まあ、喋らないなら玲於奈くらいには話してもいいけど…。
「朱里ちゃんも言ってたよ。そろそろ私以外の友達作れよって」
「だってそれで困ってこなかったし…。大抵は自分一人でどうにかなるもの」
「そうやって逃げてるから駄目なのよ。私の友達にもお姉ちゃんがどんな人なのか知りたいって人はそれなりにいるし、お姉ちゃんが周りを見ていないだけでお姉ちゃんと仲良くなれそうな人はいるのに」
と、こんなふうにかなりしっかりした妹なのだ。グレースや他の魔法使い達にこんなタイプはいなかったから中々新鮮であり、それでいて嫌味は感じないので好ましい。まあ、メンタルは削って来るのだが。
「本当にそんな人がいる? なんか私を良いカモにしてお金だけむしり取ろうとしてくる奴とかじゃないの?」
「お姉ちゃんは高校生を何だと思ってるの? そもそも、私達そんなにお小遣い貰ってないわよ」
「家は金持ちなのに月五千円がマックスだしね」
朱里はそれでも多い方だと言っていたが、彼女の感覚の方が普通なのだろうと思う。私も玲於奈も金銭感覚に関してはそこそこ麻痺しているため、そこを補ってくれる彼女の存在はとてもありがたいのだ。
「二人とも! おはよう!」
「「おはよう、朱里」」
途中で朱里と合流して学校に向かって行く。そして、今日もまたなんて事の無い一日が始まるのだろう。向こうでのグレース達とのドタバタした日常も楽しかったが、魔法も魔術も無いこの日々はこれはこれで良い物だ。世界の歪みっぷりは向こう以上かもしれないが、普通に暮らす分には困らないこの日常が堪らなく素晴らしい物だと思う私だった。
取り敢えず一章完結でございます。




