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終焉少女と時の魔法使いのマジカルライフ  作者: ラキューム
第一部
16/38

我、終わりを誘う者なりて


良かった、間に合ったみたいだ。叩きつけた頭をぐしゃりと潰し、周りを見渡す。アリスさんの死体があるのに気づいたときは驚いたが、魔法を魔術で再現した結果マッドな事になったんだと思い、それ以上考えないようにした。・・・アリスさんが何故長く生きているのかはなんとなくわかった。

「ちょっと! 今の今までどこに言ってたのよ。心配したんだから」

「わっ! こんな時に抱き着かないでくださいよクレアさん! まだ倒して無いですから!」

「ほうほう。 つまり倒した後ならいいという訳なの?」

「アリスさんは黙っててください! そしてクレアさんを連れてこの階層から離れてください!」

 ニヤニヤとした表情でおちょくろうとして来るアリスさんに、レアさんを押し付けて最低でも祭壇の、イブさんの人形がある部屋まで戻るように頼む。

「なるほど、わかった。じゃあね、サリアちゃん!」

「やっちゃいなさいサリア!」

 去っていく二人を見送った後、私は改めてノアさんに向き直る。先程、兜ごと踏み砕いたはずの頭部は復活しており、鎧や剣も錆も傷も無い状態へと回復している。これがイブさんの言っていたダンジョンの奥にある装備品というやつであろう。当然の如く反則級の一品だろうから、

「ええ、私も全力全開でご相手します」

 これぞ私の真骨頂。グレースさんからはできるだけ使うなと言われている魔法の全開だ。自分の存在そのものを終焉という概念に置き換え、肉体を揺らめく炎に変えていく。肉体は実態を持たず、ただ全てを滅ぼすエネルギーへと変わる。

「さあ、来な嬢ちゃ」

 ノアさんがこちらを迎え撃とうと構えていたので、遠慮なく殴り飛ばす。その一撃で上半身を丸ごと消し飛ばした。しかし、瞬時に断面から再生が始まり元の鎧と肉体が復活する。

「おい、酷いじゃ」

「はっ!」

 蹴りを一発。今度は大腿部から上を焼き切る。二秒もあれば次の肉体が再生するようで、またノアさんが復活する。でも、これで分かった。ノアさんの剣速はグレースさんより遅く、技量もグレースさんに比べたら大したことは無い。イブさん謹製の防具と武器セットが強いだけだ。

「てめぇ!いい加減にしやがれ!」

「小物臭いですよ。大した強さじゃないから余計にそう見えてしまうのかもしれませんが」

 真っすぐに突っ込んできたその剣は私に触れた途端に消え失せる。剣は鎧と違って再生することは無いようだ。

「どうなってやがる。何をした!」

「さあ? でも、貴方は死ぬだけですから気にすることじゃ無いですよ」

 一応補足しておくが、私は別に相手を嬲り殺しにする趣味は無い。今は結果的にそうなっているだ

け。まあ、そろそろ同じ展開に飽きてきたから終わらせよう。

「とどめッ!」

 弓なりに体を逸らし、右の拳で思い切りノアさんを殴りつける。瞬間、彼の体に終焉の概念そのものが撃ち込まれ、瞬時に崩壊していく。彼に再生能力を与えた鎧も灰に帰り、この世界から消え失せた。本当はわざわざ殴らなくても触れるだけでよかったのだが、そこは殴っておいた方がカッコよさそうだからそうした。

「お疲れ様。貴女ならできると思っていたわ」

 パチパチと手を叩きながら、先程置いてきたはずのイブさんゴーレムが本人そのままの口調で話しかけてきた。

「えっ? もう動かないはずじゃないんですか? だってもう会えないとかなんとか言ってませんでしたっけ?」

「私本人はね。それに、このゴーレムも基本的にはダンジョン内でしか動けないの。私も向こうでの生活があるからそんなに動かせるわけでも無いのよ」

 したり顔でそういうイブさんだったが、イマイチ私の所に現れた意図が掴めない。私はあそこでキッパリと別れたつもりだったが、何か急用でもあるのだろうか?

「ああ、そんな難しい顔をしなくていいわ。軽い世間話をしに来ただけ。私本体は今昼休み中だから、昼寝というていで意識だけ飛ばしてるだけなのよ」

 世間話といわれても、二人を待たせてしまっている以上さっさと戻らないといけないんだけど。

「まあ、聞きなさい。お姉さんからのちょっとした忠告よ。 聞いといて損は無いわ」

「・・・時間はあまり無いですけど分かりました。手短にお願いします」

「ええ、手短に言うわね。あなた、その魔法は使いすぎちゃ駄目よ。いずれ魔法に紐づけられた概念そのものに成り果ててしまうわ」

「でも、グレースさんはかなりの頻度で使いまくってますよ? しかも何千年も」

「あの二人、グレースとルナは私達とも違って特別なのよ。根本的に体の作りというか、存在の格が違うのよ」

「あの、私達って多分魔法使いって枠の事ですよね?」

 本人が自分の事を魔法使いだと言っていたからそれに嘘偽りは無いだろうから、体の作りが違うのだろうか。見た目は人間そのものだけど。

「ええ、その通りよ」

「でも、イブさんの言い方だとグレースさん達はその部分さえも違うって事になりませんか?」

「ええ、違うわよ。まあ、これは本人から聞いた方が面白いから秘密」

 いや、忠告だとか言っといて結局話さないのか。忠告の肝心な部分はもう言ってくれたが、一番気になる部分を言ってくれないのは不満だ。

「でも、魔法に紐づけられた概念に成り果てるってどういう事ですか? 魔法って特殊だけど単なる力ですよね?」

「そうねぇ、私達の魂を器って考えるならわかりやすいかしら。魔法は世界のあり方を変えてしまうほどの強力な力。それを私達の体に押し込んでいるから、当然耐え切れるように体は不死になっているのよ。でも、器である魂は劣化していく。それで器が欠けたり脆くなると力が溢れ出すのよ。暴走という最悪の形でね。私は魂を魔法で治したりできるけど、貴女や他の魔法使いは魂を治せる能力は持って無いの。だから気を付けなさいって話。まぁ、その時はグレースがなんとかするでしょうけど、一応気に留めておいてね?」

 ああ、グレースさん達以外の魔法使いはいない理由はそういう事だったのか。これはちゃんと気に留めておかないとほんの拍子に越えてはいけないラインを越える羽目になりそうだ。

「わかりました、じゃあ私はコレで。またいずれ会いましょう!」

 そこそこ話し込んでいたので、別れを告げて帰路につく事にした。体感だと五分以上は軽く経っていたので、そろそろ心配されそうだ。


「ええ、近いうちに会いに行くわ。って行っちゃったわね」

 イブはそう呟くと、彼女もまた仮の体ではあるがその足でダンジョンの外を目指して歩き出した。

恐らくグレースはこの事を把握しているだろうし、この場所は時期に封印されるのは確定だろう。だって私の魔法を封じ込めた宝石置いてあるままだし。なのでそうなる前にゴーレム体に複製しておいた私の魔法を取り込んで諸国漫遊でもしようじゃないか。

「さって、もう昼休み終わっちゃうじゃない。ええと、次の授業は何だっけ数学?」

 そう思ったが、授業が始まるので一旦イブはゴーレムとの接続を切り、今彼女が生きる現実へと戻って行った。次にゴーレムを動かせるのは夜中だろうか? この世界も気になるが、学校での友達付き合いもある上に、バイトもあるのだ。今の私はもうこの世界の住人では無いのだと思い、チャイムと共に目を覚まし、退屈な授業を受けるのであった。


「遅いわよサリア。もういっそのことおいて帰ろうと思ってたのよ」

「すいません。ちょっと迷っちゃって・・・」

 流石にさっきの事をクレアさんに話すわけにもいかず、平謝りするしかない私だった。アリスさんは何かを察したかのように、こちらを見てニヤニヤしていたが気のせいだと信じたい。いや、本当に察しているのなら魔術師の勘の凄まじさを実感せざるを得ない。

「まあいい、取り敢えず帰ろうか。私も体内の魔力がぐちゃぐちゃにされてこの姿を保てるかどうかも怪しくなってきたしね。いや、あそこまで魔術師にメタ張ってる装備は初めて見た。願わくば欲しかったところだけど・・・」

「はい、跡形も無く消し飛ばしました。貴重な物だってことは分かってましたけど。やっぱりああいうのは存在して良い物じゃありませんよ」

そんな事を言ったら私達魔法使いの存在こそ許されないのだが、あの鎧一式をアリスさんが手に入れたらそれはそれで危険な物が生まれていたので消しておいて正解だったと思う。

「あんなに強いなら私も欲しかったなぁ。グレース様に頼んだら巻き戻してもらえないかしら? ねぇ、破片とか残ってないの?」

「私の魔法で消したんですよ? そんなの残ってるわけないでしょ。そんなのに頼らずに真っ当な方法で強くなってくださいよ」

 と、クレアさんを諭そうとするが、本人は不服そうな顔をしている。いや、アレを装備したら強くはなるけど、あくまで鎧が強いだけで、本人はソレに頼りすぎて逆に弱くなるというのも一応理由にある。

「でも、真っ当な方法だと何百年かかるか。貴女達のレベルに追いつくなんてほぼ不可能なのに」

「いや、私達と同レベルの力なんて必要無いと思いますよ? あったとしても一体何に使うんですか?」

 うーんと、クレアさんは唸っていたが、何かを思いついたのかパっと笑顔になって

「ダンジョンを攻略したり」

「ほうほう」

「世界征服を目指してみたり!」

 と、物騒な事を言い出したのでこつんと拳骨を落とした。

「何てこと考えてるんですか!? そもそも世界征服なんて何のためにするんです?」

「痛いわね。もう、冗談に決まってるじゃない。そんなたいそれた事を成し遂げる器は私には無いわよ」

「そうですか。ならいいんですけど」

「まあ、生きている間に大陸征服くらいはやってみたいわ。折角王族に生まれたんだもの。一生を国のために尽くさないといけないんだし、野望を抱くことくらい許して欲しいものね」

「まあ、二人とも、その話は一旦そこまでにして、取り敢えず帰ろう。いつまでもここにいるつもりなの?」

 アリスさんのその言葉でヒートアップしかけていた自分の頭を一旦冷やし、この地下からどう出ようか考える。アリスさんはあの姿を保つのがやっとと言っていたからこの大穴から抜け出すだけの魔力は残っていなさそうだし、クレアさんも彼女一人で抜け出すのが限界だろう。なら、やっぱり私が二人を引っ張って飛ぶしか無いのか。

「そうですね。じゃあ、私が二人を引っ張って飛びますから手をしっかりと掴んでください」

 二人の手を取ってジェット噴射の要領で空を飛ぶ。今回はクレアさんも大人しかったのでスムーズに飛ぶことができた。穴の外は月が映える綺麗な夜だった。

「ふう、お疲れサリア。ありがとうね」

「うん。私が一撃貰ってさえいなければワープして直帰できたんだけど」

「大丈夫ですよ。あれは魔術師殺しに特化したものでしたし、クレアさんが食らってたら多分死んでました。だから、そこは感謝してるんです」

「ちょっと、それだと私がまるで弱いみたいじゃない」

 うーん、これはハッキリ言っていいのだろうか。クレアさんはそこそこ戦えるが、まだ詰めが甘い気がするのだ。同年代と比べると圧倒的なのは間違いないが、私やアリスさんと比べるとまだまだ弱いが、言ったら怒られるだろうし。帰路を歩きながら私が考えていると、痺れを切らしたのかクレアさんが小突いてきた。

「ちょっと、何とか言いなさいよ。別に事実を言われて怒るほど器は小さくないわ」

「じゃあ、遠慮なく。ズバリ、私に比べると弱いです。雑魚ですね」

 そう言った後に先程考えたことをつらつらと述べる。意外にも文句の一つも言わずにしっかりと聞いてくれていた。

「なるほど。同年代では結構強い気でいたのに、貴女から見たらまだまだってことなのね」

「はい。でも私はズルみたいな能力もかなりありますから、あまり気にしなくていいと思います。クレアさんは焦らずに自分のペースで強くなったらいいと思います」

 クレアさんは微妙な笑みを浮かべているが、一応は納得してくれたようだ。

「いや、確かに強くなって欲しいけど、クレアちゃんは王女なんだからまずは生存を第一に考えてね? おっ、そろそろ町に着くわね」

 王都に近づいてきたため、そこからは一旦会話を止め、早足に離宮を目指した。クレアさんは何かを考えてうーんと唸っていたが、その内心までは分からない。アリスさんは私の背中で寝ており、すうすうと寝息を立てている。推定年齢は千歳を超えているはずだが、行動や生活リズムは肉体年齢に引っ張られるのだろうか。

「やあ、三人とも。こんな夜更けにどうしたんだい? 疲れてるだろうし、取り敢えず寝るのをお勧めするよ」

 聞き覚えのある声がした瞬間、私はいつの間にか自室のベッドの上に横たわっていた。服もパジャマに代わっており、髪からは石鹸の匂いがするため、風呂にも入れさせられているようだ。私の隣でクレアさんがすうすと穏やかな寝息を立てて眠っている。少し喉が渇いていたので彼女を起こさない様にベッドから降りて、部屋から出た後にキッチンに向かう。既に屋敷内は暗くなっているため、魔法で明かりを灯して階段を降りていく。

「あら、こんな真夜中にどうしたんですか? 寝ないと育ちませんよ?」

「ちょっと喉が渇いたから水でも飲もうかなって思ったんです」

「じゃあ、ホットミルクでも飲みませんか? 私もちょうど何か飲もうと思っていたんですよ」

「お願いします。それと、心配かけてすいませんでした」

 椅子に座ってメリッサさんに話しかける。

「大丈夫ですよ。別に心配していませんでしたし、お母様も目を光らせていましたから」

 ちょっとずつホットミルクを飲みながらだが、少し驚いた。クレアさんが冒険に行くなら間違いなくグレースさんも見張ってるのは分かっていたが、もしかしたら私がイブさんと話していた時の事も把握されているんだろうか。

「そうなんですか。ところで、アリスさんはどちらに? クレアさんは私の隣にいましたけど」

「サリアちゃんとクレアちゃんは私が運んだんですよ。アリスはお母様が彼女の家に運んでいきました」

 つまり、そういう事らしい。アリスさんは中々酷いダメージを受けていたので心配だが、グレースさんにかかれば安心だろう。

「なるほど。じゃあ、いつの間にか風呂に入ってパジャマに着替えさせられていたのも?」

「もちろん。二人の服もボロボロでしたから新しい物に変えておきました」

「ありがとうございます。でも、風呂に入る体力はありましたよ?」

 実際にその体力はあった。まあ、終わった話だからこれ以上追及する事でも無いか。そろそろカップの中も空になるし、程よく眠くなってきたからそろそろ部屋に戻ろうかな。クレアさんに聞ける話はあまりなさそうだし。

「あら、もういいんですか?」

「はい、そろそろ眠くなってきたんで。ごちそうさまでした」

「お粗末様でした。でも、歯はちゃんと磨いてから寝るんですよ?」

「はーい。おやすみなさい、メリッサさん」

「おやすみなさい。良い夜を」

 洗面所に向かって言われた通りに歯を磨き、一応トイレに行ってから寝室に向かう。クレアさんはグッスリ眠っており、ちょっとのそっとで起きる気配は無さそうだ。誰かと一緒に寝るというのは初めてなので中々気分的には慣れないが仕方あるまい。そっとベッドに上がり横になる。ギシッと軋む音でクレアさんがピクッと反応したが、起きてはいない様だ。そのままクレアさんに背を向けて目を閉じる。色々とあったが、先程のミルクが良かったのか、思ったより気持ちよく眠れそうだ。

そう思っていた。





 


 


 


 

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